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「リトルリチャード アイ・アム・エヴリシング」(2023)

 リトルリチャードは兄弟が多かった事やクィア(LGBTQのQ)だった事を理由に子どもの時に白人家庭に養子に出されてしまったらしい。心理学者ボウルビィのアタッチメント理論によれば幼い頃の母親との触れ合いや、適切な応答は生涯に渡って影響を残す。幼い時の両親の離縁や育児放棄は、子どもが大人になった時に免疫系や自律神経系の弱さ、さらに対人関係や物事への取り組みにまで悪影響を及ぼす。日本では愛着障害という言葉で浸透している。リトルリチャードが何歳の時に養子に出されてしまったかはわからないが、性的マイノリティと黒人差別に加えて愛着障害が彼の人生を翻弄したであろう事が映画では描かれている。

 牧師とロックスターを行ったり来たりしては、片方を貶める発言をする。離婚もしており、ドラッグに手を出した時期もあったよう。そして映画を観るとわかるのだが、彼が話している時の顔が一貫してうるさい。ジェスチャーも大きく一つ一つの感情がバカでかい事がわかる。ロックがそういう双極性を生み出すのか、そういう人がロックを好きになるのか今まで知るよしもなかったけれど、ロックの創始者という人がそうなのであれば、きっと後者なんだろう。実生活の生きにくさもライブパフォーマンスの感情豊かな表現はコインの表裏だ。のっぽのサリーのライブ映像は圧巻でした。

 映画のタイトルしかり、ナルシスティックな発言が目立ち現代の感覚では少し眉をひそめたくなるが、強い自己陶酔が無ければ生き抜けなかったのだろう。酔わなきゃやってられない。自分よりもエルヴィスやビートルズ、ストーンズが圧倒的に評価されてたのだから不憫だ。技術、精神性、文化は積み重なって優れたものにどんどんなっていくはずですが、オリジナルを生み出した創造性への敬意は持っていたい所存。

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