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酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第60回「東京にある老舗酒場でふらり飲み」

「一人酒」、それは孤独な酒飲みのように聞こえるだろうが、実はそうでもない。私は一人酒という言葉を酒場で飲み歩く時に使っている。にぎやかな雰囲気に包まれれば、その店に居る人は全員、飲み仲間だ。

withコロナでようやく一人酒が再開した。が、まだまだ心置きなく飲めるようになるまでの道のりは遠い。ならば、体験談エッセイでも書くとするか。酔いどれ男のさま酔い飲み歩記~第60回「東京にある老舗酒場でふらり飲み」である。


はじめに

ちょっとリフレッシュしたいと東京までやって来た。とくに目的があるわけじゃない。ハードな仕事に忙殺され、心身ともに疲れているからだよ。何も考えず、ただただ東京で飲み歩きたかったのだ。

東京は広い。どこに行こうかと迷ったが、とりあえず夜酒は大塚に繰り出す。大都会の池袋駅から山手線で1駅だが、駅周辺の雰囲気は全く違い、下町っぽさを感じる。このまちには老舗酒場や大衆酒場が必ずあるはずだ。

そんな酒場を探して大塚駅に降り立った。

大塚「江戸一」~酒場馴れした者でも緊張する老舗

老舗酒場は大塚駅のすぐ近くにあった。知る人ぞ知る酒場「江戸一」である。ほかの居酒屋とは一線を画し、店構えから凛とした独特の雰囲気を醸し出している。余計な張り紙や提灯は一切ない。のれんがかかっているだけだ。

これは酒場馴れしている私でも緊張するな。

だからといって素通りするわけにはいかない。意を決して暖簾をくぐる。外からでは全く分からなかったが、コの字カウンターの店内は満席のように見える。断られるかと思ったが、女将さんが席を作ってくれたので座ることができた。

アルコールはビールと日本酒だけという潔さ。ならば黒ラベルの小瓶からいくか。付き出しが浜納豆というのも渋い。店内は撮影禁止になっており、携帯電話すら「ご遠慮ください」の張り紙がある。これぞ老舗の威厳たるものか。

品書きは酒飲みが好みそうな肴がずらり。そのなかから姫タケノコの酢味噌和え、タコ刺しを頂戴する。客層はほぼ40代以上の方々で、皆さん静かに酒をたしなんでいる。張り紙のせいか、スマホをいじくっている人すら見当たらない。

お酒のお代わりを頼もう。白鷹の樽酒をぬる燗でいただく。やや黄色みがかかった酒は木の香りが漂い、ガツンとした味わいで、渋い酒場にピッタリ。思わず、タタミイワシの炙りを追加注文してしまったぞ。

久しぶりに硬派な酒場に足を踏み入れた。敷居が高いかと思いきや、そんなことはない。店員さんの応対も丁寧で気持ちがいい。スタートから美味い酒が飲めたぞ。

大塚「伊勢元」~肩の力を抜いて飲める大衆酒場

2軒目にやって来たのは、やはり大塚駅の近くにある大衆酒場「伊勢元」。こちらも昔から営業している老舗のようだが、江戸一とは好対照の酒場である。

店内はカウンターと小上がり。お客さんには若い人の姿も見られ、ワイワイと楽しそうに飲んでいる。テレビからはナイター中継。渋い静かな酒場もいいが、喧騒感あふれる大衆酒場の雰囲気も大好きだよ。

そこで注文したのは「ボール」。

ボール、すなわち焼酎ハイボールのこと。下町ハイボールとも言い、甲類焼酎と琥珀色のエキスを炭酸で割るという、東京の大衆酒場では鉄板とも言える酒。合わせる肴は、これも王道メニューである煮込みだ。

江戸一では「一献傾ける」という言葉が似合ったが、伊勢元は「グビグビ飲む」という表現がピッタリ。二杯目のおかわりのお供に谷中ショウガをいただく。ピリッとしたショウガの辛味がたまらない。

トイレに入ると、人気AV女優のヌードカレンダーがかかっていた。不意を突かれたので、思わず笑いがこぼれてしまう。こういうところも大衆酒場っぽくていい。でも、カレンダーに欲情して怪しげな店に寄ろうとは思わなかったので・・・あしからず。

日暮里「いづみや」~駅の真ん前にある老舗の大衆酒場

話は翌日の昼酒へと飛ぶ。同じ山手線の駅である日暮里に降り立ち、口開けとなる酒場を探してみる。すると駅前に良さげな酒場があるじゃないか。早速入ってみよう。

屋号は「いづみや」。コの字カウンターの大衆酒場で、年季が入っている感じだからおそらく老舗酒場に違いない。平日の昼間だったので、定食を注文しているお客もいたが、こちらはお構いなしに酒をいただくとする。

生ビールとハムエッグ、肉豆腐を頂戴し、ビールをグイっと飲んで一息つける。昼酒なので大騒ぎをする客はいないが、それなりにワイワイとにぎやか。そんな雰囲気を楽しみながら次の酒をいただくか。

東京ではおなじみの「梅割り」を飲もう。

小さ目のグラスに甲類焼酎をなみなみと注ぎ、そこに梅エキスを流し込んだ焼酎カクテル。ただし炭酸で割っていないので、焼酎のストレートと同じ。梅の酸味が効いていて口当たりはいいが、後でガツンと効いてくる酒なのだ。

案の定、グラス半分ほど飲むと、頭がグルグル回ってきた。昼酒は酔いの回りが早いと言うが、これはヤバイ。ここは一杯だけに抑えておくとするか。

谷中銀座「越後屋酒店」~人生の先輩からありがたいお言葉も

せっかく日暮里まで来たので、酔った勢いで谷中銀座へと繰り出す。昔ながらの商店街だが、観光地としてすっかりおなじみになり、観光客の姿も多い。銀ブラしていたら「越後屋酒店」という角打ちを見つけた。口直しに白ワインとビールでもいただこう。

この店には肴を置いていないので、同じ商店街にある肉屋さんでメンチカツとハムカツを調達。店先のビールケースに腰を下ろして昼下がりの一杯。通行人がジロジロ見ているが、何も気にすることはない。

同じように昼酒をたしなむ年配の方がいた。岩手県から来られたといい、各地で食べ飲み歩きを楽しんでいるとか。なかなかうらやましい日々を過ごされている。そんな人生の先輩からは「酒は飲み過ぎないようにね」と、ありがたいお言葉まで頂戴した。

でも、今日の昼酒はちょっと飲み過ぎたかなあ・・・

〇〇〇
今回はここまでとします。読んでいただきありがとうございました。なお、このエッセイは2017年6月の忘備録なので、店の情報など現在とは異なる場合があります。


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