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エアスイミング稽古レポート① 2023/08/11

2023年8月31日(木)〜9月3日(日)
北海道札幌市西区琴似、地下鉄琴似駅直結の"パトス"という劇場で上演される
OrgofA「エアスイミング」

4回目の稽古にお邪魔した。

ようやっと、稽古が見れる。
その前の3回、とても豊かな稽古が繰り広げられていることはSNSなどで伝わってきていた。

まずは。
朝、夜の稽古間に開催されるワークショップについて、演出・岩崎さんがグチるところからスタート。

演出の岩崎正裕さん

「詰め込みすぎだよ!どこにも行けないよ!正気の沙汰じゃないよ!
 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
 つまり、ずっとここ(稽古場)に"収容"されてるんだよ」

グチはいつしかエアスイミングの話に絡んでいる。

岩崎さんの穏やかな語り口で稽古が始まる。

「シーン12やろうか。朝やるシーンじゃないけど(笑)」

笑いに包まれながら稽古が始まる。
俳優二人はフワッとした服を着ている。
衣装を意識したかっこうだろうか。

シーン12。物語はクライマックスに差しかかっている。
ドルフ(小野寺愛美) がポルフ(服部一姫) に罵声を浴びせる。
台本を持ちながらではあるが、
難解に思えるセリフは辿々しくもあるが、
二人の言い合いは感情的でぶつかり合ってる。
きついシーンだ。

小野寺愛美(左)と服部一姫(右)

岩崎さんは本を、シーンをジッ・・・と見ている。

「シーン13を二人でやってみようか」

空想から現実へ。
存在は変わっているが、シーン12から繋がっていることがよくわかる。
ドーラが一人話している。
ペルセポネは階段で眠っている。

そしてシーン14。
シーン12の不穏を引きずっているが、何か関係性が変わっている。
雰囲気が変わっている。

今まで見てきた一姫と愛美ともまた違う。
二人が素晴らしいものに触れているのがありありとわかる。

「さぁ ここが問題だよね」

稽古場が柔らかい困惑に包まれる。
笑いながら岩崎さんが皆に問い掛ける。

「これどう思う???」
「いや僕もまだわかってないんだけど」
「なんか(登場人物が劇中)手がかり見つけるよね?なんか手がかりになるものないかなぁ」
「あんなに支えていたのに傷つけるよね。
 人を傷つけたい衝動は愛美さんの中にありますか?」
愛美「無いです」
「無いか!じゃあ、どこから引っ張ってこようか」

演出と俳優との対話。

「今弟のことどう思う?」
愛美「ああ、今は心の友です」
「ああ!いいね!」

俳優の経験や生い立ちから、人物の衝動を引き出そうとする。

「なんかもう一つ探せない?」
「今の自分と小6の自分はどう違う?」
愛美「・・・視野が狭かった。経験もなかった」
「今は弟にブチ切れないだろ?髪引っ張られても」
愛美「今は、笑っちゃうか、」
「逃げない?」
愛美「あ、逃げます」
「 (でもこのシーンは) 逃げられないよね〜」

苛烈なシーンの理由を探す。

「社会性を外すってことだよ」
「大事なものが自分から去っていく」
「元の自分じゃないのさ」

岩崎さん自信が経験した認知症の方とのエピソード。

「シーン14は逆になってるよね。
 ポルフは知らないって言い出す。なんでだと思う?」
「思ったこと言えばいいんだよ!稽古なんて大喜利だぜ!?」

俳優の間で生まれるものがある。
俳優から何かが出てくるのを待つ。

「ねぇねぇLINEって何でブロックするの?」

突然、日常的な問いかけ。

“演じる女優たちの身体感覚の中に、すでに答えは宿っているはずだ”
挨拶文に違わないアプローチ。

一姫「答えてるんだけど答えてない」

俳優からの言葉が増えてくる

【彼女】というセリフについての話題。翻訳劇の難しさ。

脚本の読み解きが続く。
演出と俳優との対話が続く。
セリフをピックアップしては、解釈を擦り合わせていく。
俳優の声はまだ小さく、自信なさげだ。

「こういうのは飛世ねえさんはいくつも経験してますよ。
 語ってくださいよ、恋愛でも劇団経験でも」

突然ふられて代表がエピソードを語り出す(笑)

出演者でもあるOrgofAの代表、飛世早哉香

「それ、飛世さんがこの役を演じるなら頼りになる感覚だよね」

俳優が持ってる感覚を引き出す。使う。

一姫「あ、、、あるかも、、、」
「話してごらーん!!」

一姫が日々感じているギャップについて話し始める。
一姫「あれ?思ったリアクションじゃないな。
   って。最初に思った感覚じゃない」
「だいぶ距離開いたね」

「1〜2年先のことって想像できる?
 愛美さん、30歳になった自分想像できる?」
愛美「やぁ、、、できません」
「できないよね〜」

「あんまり自分の中に入れないようにしてるよね?」
愛美「してますね」
「してるよね!!来たよ来たよ!それ使えるよ!」

もしかしたら今奇跡に立ち会ったのかもしれない、と思った。
俳優の感覚から人物の種が見つかった瞬間だったんじゃないか。

自分の人生に入れる
自分の人生には入れられない

シーン12、シーン14の、あるいはエアスイミングのテーマなのかもしれない。


〜休憩〜


「今から起こりそうなことを予測しておくと(笑)
 ブチ切れから始まるじゃん。そしたらスタミナが切れると思うんだ
 そしたら傷つけ方を変えてみるといい
 え〜って思うかもしれないけど、演劇なんで(笑)」

再びシーン12が始まる。

ドルフ(愛美)はイラついている。
さっきより傲慢で、散漫だ。自分とポルフ(一姫)とこの部屋と、
怒りと不安と心配、様々な思いが交錯している。
さっきより、いじわるでもある。
ドルフの中でたくさんの感情がうずまいているようだ。
一回目は罵声を浴びせ続ける人に見えたが、
2回目は、何かの目的や、悩みや、恐れを感じる。劇的に変わった。
少し芝居がかってる、というポルフのセリフも、さっきとは全く違って聞こえる。

「愛美さんどんな感じ?」
愛美「や〜 すごいっすね」
「いい感想だね!野球選手みたい!」

「こういう感情的なぶつかりあいを僕ら日本人は避けようとしてるけど
 ここでは感情を爆発させてぶつけていこう」

「この場もそうだし、他の場も、落ち着いて終わるよね。なんでだろう?」
愛美「うーん。今はなんか、バカバカしくなった」
「なるほど」

「感情が爆発して、例えば泣いて、終われたら、このシーンはいいのかもね」
愛美「今もほとんど泣いてるから、大丈夫だと思います」

何かが確実に変わった。

シーン14。
みんなのエピソードがまたシーンに影響を与える。
あんなに罵ったドルフ、一転気さくだ。
あんなに心配していたポルフは冷ややかだ。
何が起こっているんだろう。
ただ、こういう気持ちの悪さを、どこかで見たことがある。

エアスイミングは英国の戯曲だ。
読んだだけでは理解できない部分も多い。
だが、今目の前で行われている二人のやりとりは、僕も体験、見聞きしたもののような気がする。
あれ?これすげぇ身近な話??

「いろんな人生を実験台にして取り込んでいく。大事なことだと思うんだよ」
愛美「鍵をかけてる引き出しがあるのかも」
「そうそう、いい事言うね!普通の人は開けない。
 鍵をかけた人のために引き出しを開けてあげるのが、僕たちの仕事だよ

この舞台が傑作になるであろうことは間違いないし、
この稽古を経た俳優たちが今よりはるかに強く、しなやかになることも間違いないと確信する稽古だった。

「夜9時くらいの稽古でしたね(笑)」

これはヘトヘトになるわけだ。

OrgofA「エアスイミング」
著作/シャーロット・ジョーンズ
翻訳/小川公代
演出/岩崎正裕(劇団太陽族)
出演/飛世早哉香 ​宮村耳々 ​服部一姫(札幌表現舎) 小野寺愛美(EGG)
[日 程] 2023年8月31日(木)〜9月3日(日)
[会 場] ターミナルプラザことにパトス
[住 所] 北海道札幌市西区琴似1条4丁目B2F ※地下鉄 東西線「琴似」駅直通
https://dtagmd.wixsite.com/orgofa/airswimming-2023august

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