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「キミチャレ」の極意を、柴田朋子さんに聞いてみた⑤アンチ・サポート編

前回の続き。子どもが計画を立てる際に大切な事から、失敗を見守る大切さまでを書きました。①〜④は、サポーターの役割を書いてきましたが、今回は”サポートしてはいけない”話です。サポートしなくていいのに、お節介を焼いて、子どもから「失敗から学ぶ機会」を奪ってしまった大人たちの事例2つと、お節介を禁じられて悶絶する親の話です。聞いていると「あ〜あるある・・」と思いますし、思わず自分もやってしまいそうだと思いました。人の振りみて我が振り直せ。

一日警察官体験

ある子どもが「警察官の体験をしてみたい」とチャレンジを企て、警察署に飛び込んでいったそうです。「こんにちは!キミチャレをやってます。警察の体験がしたいです!」と。慌てふためいた警察署側は、「一回帰ってくれるかな?」と子どもを帰し、連絡先である教育委員会(キミチャレは、教育委員会が共催になっています)に電話。「一体、どういうことなんですか?」。キミチャレ担当者(柴田さん)が、かくかくしかじかと趣旨を電話で説明し、「無理でしたら断って頂いて本当に大丈夫ですから」と警察署側に念押しして、電話を切ります。
 ところが、次に子どもが警察署に電話をかけたら、「君のために準備するからね!」と、警察署側は準備万全。制服を着て、パトカーに乗って地域巡回して、駅前で犯罪予防のティッシュを配るという「一日警察官体験」のプログラムが完璧に組まれていたのです。台本が全て大人によって企てられ、演者が子どもっていうだけの、体験プログラムになっていました。

 この内容を聞いて「わ〜!良かったねぇ、楽しい体験が出来てぇ〜♡」と喜ぶ親子は多いだろうし、こういう例はわんさかあるな、と思いました。箱物を飛び出したキッザニア。これが悪いと言いたい訳ではありません。ただ「キミチャレ」の趣旨と違う。「キミチャレ」ルールは「子どもが自分で考え、自分でやる」なので、子どもが自分の頭で何も考えずに、大人から与えられたものを消化しているのでは全然ダメなのです。そして、これの困った所は、原因を作った大人が、良かれと思ってやっている事です。子どもには何の落ち度もありませんし、大人も自分に落ち度があるなんて微塵も思っていません。しかも、子ども含めて皆喜んでいる。一見「え?何か問題でも?」と言いたくなるこの状況が、落とし穴です。

町内会企画「そうめん流しイベント」

 上記と同様な例で、町内会企画「そうめん流しイベント」もあります。子どもが「そうめん流し」をやりたい、と企て、町内会長さんに「地域でそうめん流しイベントをやりたいんです」と相談に行きました。すると、これもまた、相談を受けた大人が「よし!まかせとけー!」と張り切ってしまい、全て準備をしてしまいます。竹を切る所から、そうめんの準備から、人集めまで、全部。子どもは全く何もしないで当日を迎え、イベント最初に「企画した●●ちゃん、どうぞ!」と一言求められて、ちょっと喋って、終わり。企画した●●ちゃん、という紹介ですが、企画も何も、子どもは町内会長さんに一言相談しただけなのです。その後、皆でワイワイとそうめん流しを楽しみ、めでたし、めでたし、ちゃんちゃん♪というオチ。

 これも問題に気付きにくい「あるある例」だと思いました。「子どものため!」という親切心で大人が一丸となり、地域が一つにまとまります。みんな喜んでます。この活動に難癖をつけられる意味が分からない人もいるのではないでしょうか?地域の大人が全部企てて、子どもがそれに乗っかる感じは「子ども会」にも似ています。
 それはそれでステキな面もあって、子どもを媒介にして地域に交流が生まれる事は良い事だと思うのです。でも「キミチャレ」と趣旨が違う。見ている所が違う。この活動は「地域に賑わいを作る」という文脈では正解ですが、「キミチャレ」の文脈では不正解です。今は少子化で、地域に子どもが少ない故、子ども一人に対して手伝う大人の数が圧倒的に多いのです。結果、大人の満足>子どもの成長、となってしまうケースが散見されるのではないでしょうか。

サポートできない事に悶絶する親たち

 上記2つは、地域の大人の事例でした。地域の人は、「キミチャレ」の説明を受ける前に、子ども達がファーストコンタクトをとってプロジェクトに巻き込まれていくので、手を出してしまうのも仕方ない側面もあるでしょう。(説明しても、修正されない例もありますが)。一方で、親たちは最初の説明会で、全員心構えをレクチャーされます。「親は手伝わない。応援するだけ」と。だから、上記のように不用意に手を出す事は少ないと思うのですが、代わりにじれったさ過ぎて悶絶するそうです。
「テレビ局に電話するって書いてあるんですけど、こんな事したら相手に迷惑になるじゃないですか!」「うちの子は、とっても大人しい子なんです。人前で話すなんて絶対出来っこありません」「発表会が近づいてるんですけど、うちの子、何もやってません。大丈夫なんでしょうか・・?」キミチャレ初年度は、このような親からの問い合わせ電話が、いくつかかかってきたといいます。「迷惑かどうかは、かけてみないと分かりませんよね?」「お母さんが、やる訳じゃないんだから大丈夫ですよー」と、たしなめたとか。

 子どもが失敗しそうな局面で親が手を出さない、という経験に、多くの親が慣れていないのかもしれません。例えば、夏休みの自由研究。夏休み明けに展示される自由研究を見ると、私達が子どもの頃とくらべて、今は、とっても立派な作品がずらりと並ぶようになったと感じています。中には、これどう見ても親がやったよね・・というものも。この感覚を当たり前に思っている親が「キミチャレ」に向き合うと、親はじれったくてじれったくて、憤死しそうになると思います(笑)

 これらの事例を見るだけでも「子どもを信じて任せる」という事が、いかに難しいかを実感します。「小さいからまだ出来ないから」「内気だから話しかけられないから」「うちの子は出来が悪いから手伝ってあげないと出来ないの」と、はなから子どもを信じていない態度が、子どもの経験できる機会を奪っていってしまいます。
 そして、「子どもに任せる」というポーズだけとって、実際には全然任せていない、「大人が企画・子どもが演者」のプログラムも沢山あります。冒頭の一日警察官体験然り、です。
 
そのような、表面上の”お仕事体験”プログラムのことを
「キャリア教育じゃない!お仕事エンタメだ!」
と言う、柴田さん。柴田さんの考える”キャリア教育”とは何でしょうか?次回に続きます。

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▶CAMPFIRE|変わりゆく未来をしなやかに生き抜くために、子どもたちに「挑戦」と「自分で決める」機会をつくる。「マイプロジェクトU-15」クラウドファンディング、無事目標金額達成いたしました。ご支援ありがとうございました。
https://camp-fire.jp/projects/view/77232

小学4年生〜中学生の子どもたちが、夏休みを使って、自分のやりたい事を計画、実行するプロジェクト『マイプロU-15』をやってます。いただいたサポートは、プロジェクトの実施に活用させていただきます。