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「キミチャレ」の極意を、柴田朋子さんに聞いてみた⑦キャリア教育編(最終回)

前回の続き。「キミチャレ」は、子どもがやりたい仕事を見つけるプロジェクトではない。柴田さんが考えるキャリア教育も、仕事に縛られていない。そんな話を書きました。では、柴田さんが考えるキャリア教育とは、何でしょうか?

何が起きても、自分で考え、生きていく力を育てること

「柴田さんにとってのキャリア教育とは何ですか?」の問いに、柴田さんが、こう答えて下さいました。

「何があっても、自分で考えて生きていく力。状況は常に変化するけれど、その起きた状態に対して、自分を信じて、考えて、行動出来る力。何とかする力を育てること」

 何とかする力。具体的にはこうです。例えば、新卒で入社した企業が、とんでもないブラック企業だったとします。そんな時、「自分は仕事が出来ない人間だから、ここで働くしかないんだ」と思い込んで留まるのではなく、「何とかなるから辞めよう」と、会社にNOをつきつけ、違う選択肢を選び取れる力。
 例えば、安泰だと思って入社した大企業が、不祥事を起こして業績が落ち、社員のリストラを始めたとします。「会社が悪い」と愚痴だけこぼして行動せず、他人に責任転嫁する人と、自分の人生は自分で拓くことを信じ、行動できる人とでは、どちらの道が開けやすいかは、一目瞭然です。自分の人生を人任せにしない力が、”何とかする力”につながります。
 仕事を例にとっていますが、結婚・離婚、健康問題、人間関係、ありとあらゆる所であてはまる話です。

 親は子どもにずっと付き添うことは出来ないし、世の中の環境はめまぐるしく変わっていきます。子どもの生きるリスクを減らしたければ、子ども自身に「自分で考えて行動できる人になってもらうこと」しか解決策は無いのです。

 私はこの話を聞いて、「キミチャレ」のプログラムがとても腹落ちしました。
 「キミチャレ」に参加した子どもの多くは、見知らぬ大人に電話をかけて、自分の言葉で自分のやりたい事を伝えます。断られる事もいっぱいあります。しかし、否定を乗り越え、めげずに意見を伝えるこの経験は、将来、ブラックな環境に巻き込まれてしまっても、NOと言える土台を作るのではないでしょうか。
 「キミチャレ」は、例え、子どもが何もしなくても、誰もお尻を叩いて急かすような事はしません。何も出来なかったら、全て自分の責任です。自分が動かないと物事が何も進まない。この経験は、人任せにせず、主体的に人生に向き合う事への気付きになるのではないでしょうか。

 これを考えると、何の障害もなくスムーズにプロジェクトが成功した子どもより、色々上手くいかない壁にぶち当たりながら進んだ子どもの方が、「キミチャレ」本来の目的を達成出来る事が、分かりやすいと思います。大人が不用意に手助けしてはいけない理由です。

「キミチャレ」は、変化の激しい世の中を想定した、今の時代に合った、キャリア教育なのだと思います。

あとがき

・・上記までで終わりにしようとしていたのですが、あまりにもドンピシャな話に遭遇したので追記します。昨日、都立武蔵高校の山本崇雄先生にお話を伺える機会に恵まれました。山本先生は、「教えない」授業を実践されている先生です。改革派として名高いとある校長先生から、日本の教育を変える先生の一人だ!とご推薦頂き、ご拝顔させて頂きました。下記の著書も出版されていらっしゃる他、全国各地出前授業や講演にも行かれていらっしゃいます。

 この山本先生が、ケンブリッジ大学で行われる英語教授法の研修会に参加された際、こう言われたそうです。
「君の授業は、生徒にレールを敷きすぎている」
生徒に失敗させないように丁寧に教えるのではなく、失敗を繰り返しながら、解決策を見つけ出す力をつけさせねばならない、と。

山本先生がケンブリッジ大学に行かれたのは2011年。東日本大震災後です。山本先生は、震災直後に被災地に足を運び、何もなくなった荒野を見た時の感想を、下記のように本著で綴られていらっしゃいます。

「人間には、ゼロからスタートしなければならない時が来る。教師がいなくても学び続ける子ども達を育てなければならない」

震災のような天災で生活をゼロからスタートしなければならない時が来るかもしれません。社会に出て、会社を一から立ち上げなければならない時がくるかもしれません。その時に備えて、人間は準備しなければならないのです。

この時の思いと、ケンブジッリ大学で受けた言葉が「教えない」授業につながっているそうです。

一連の話を聞いて、「キミチャレ」の柴田さんがおっしゃられている事と同じだな、と思ったのです。キャリア教育でも、英語教育でも、これからの時代を生きていくのに必要とされる力は、双方共通していました。

 今の時代に親を生きている私たちの多くは、全く違う教育を受けてきたと思うのです。だから、どうしてもその価値観を引きずって、子どもに失敗させず、良いレールを引いてあげれば、子どもがそのままずっと良い人生を迎えられるように思ってしまうのではないでしょうか。今まで正しいと思ってきた事を転換していくのは難しいことですが、山本先生や柴田さんのように、価値観をチェンジされている人は、点在されていて、気づいた人から、その周りから、変わっている、という印象を受けます。

2020年から大学入試も変わっていきますが、今は、まさに旧来の学力観と新学力観の狭間、ダブルスタンダードの最中にいます。でも、実は、ダブルスタンダードではなく、「やりぬく力」「失敗から立ち上がる力」などの非認知能力が、学力を向上させるというデータも出ているので、
「とは言っても、学力が無いのは心配!」
というお母さんにも、ご安心頂けるような記事を、またいつか書けたらいいな、と思います。今回は、この辺りで。

最後に、遠方よりお越し頂き、2時間もお話して下さった柴田朋子さんに、心より御礼申し上げます。


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▶CAMPFIRE|変わりゆく未来をしなやかに生き抜くために、子どもたちに「挑戦」と「自分で決める」機会をつくる。「マイプロジェクトU-15」クラウドファンディング、無事目標金額達成いたしました。ご支援ありがとうございました。
https://camp-fire.jp/projects/view/77232

小学4年生〜中学生の子どもたちが、夏休みを使って、自分のやりたい事を計画、実行するプロジェクト『マイプロU-15』をやってます。いただいたサポートは、プロジェクトの実施に活用させていただきます。