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今にも削除したくなるような自分語りを

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株式会社ミリアッシュ代表、竹谷彰人(たけやあきと)の自分語りです。恥ずかしさでどうにかなりそうですが、それ以上に、たくさんの方に読んでもらえることが嬉しいと感じております。全編で… もっと読む
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今にも削除したくなるような自分語りを

エピソード3:ミリアッシュ設立  気温も天気も覚えていないが、場所はドトールコーヒーショップ半蔵門店だった。まだ暗くなる前、少しずつ寒さの染み入る薄暮だった。 「杉さん、一緒に会社やらない?」  制作部の部長である杉山剛に向け、竹谷彰人は話していた。何か意を決した風でもなく、自然に言葉が出ていた。いや、何とかそう装っているだけで、コーヒーカップを持つ手は、かすかに震えていたような気もする。  しかし、反応だけの人生はもう、終わらせたかった。震えは、自分で物事を決めた反動だっ

『今にも削除したくなるような自分語りを:エピソード6 点のかたち』

 超大型巨人の視点は、高所恐怖症にとってはかなり怖い。  高速バスに乗り、博多駅から1時間と半分、大分県の日田市に大山ダムはある。比類なき歴史的傑作漫画『進撃の巨人』の作者諌山創氏を輩出したこの地は、2020年秋「進撃の日田」として場所やお土産等を『進撃の巨人』と連動させた企画を始めている。大山ダムはまさにその中核で、主人公級の登場人物であるエレン・イェーガー、ミカサ・アッカーマン、そしてアルミン・アルレルトの銅像を造り、ダムの高い天端を劇中に出てくる壁「ウォール・マリア」に

『今にも削除したくなるような自分語りを:エピソード5 星とぼくらと』

 MacBookのトレードマークである林檎を、かじるようだった。  2016年、前社で経営管理部の部長をやっていた竹谷は、ある打合せに参席していた。 「イラスト制作会社同士、変に敵対せず関係を深めていこうよ、竹谷くん」  当時の代表がそう思い立ち、先輩かつ競合のイラスト制作会社へ打診し、実現した場だった。  眼鏡の奥の瞳が、ぎらついている。熱された言葉を、止めどなく放ってくるひとがいた。  もちろん、その話は面白く、刺激と学びになることばかりであったのだが、竹谷はとにかくMa

『今にも削除したくなるような自分語りを:エピソード2 自殺病』

 今から書くことは、フィクションだと思ってほしい。  いかに熱い海と書けども、6月の熱海は、まだまだ寒い。  旅館で着替えた浴衣をまとい、竹谷は海に面して立っていた。曇天に眺める海面は、空を反射し灰色に見える。砂の色も暗い。  孤独にひとりではないし、だれかとしっぽりふたりきり、という浪漫でもない。   竹谷の所属する営業部が、先月ものすごく良い成績を出した。その褒美として、会社から与えられた社員旅行だった。  50人程度の部署で、そのうち新卒は、竹谷を含めて10名くらいだっ

『今にも削除したくなるような自分語りを :エピソード1 勉強と祖父と』

 日本発祥の皆が知るスポーツに、ゲートボールという球技がある。しかし、ゲートボールをモチーフにした『ゲートマン』というゲームに見覚えのあるひとは、今や世界で数人しかいない。  『ゲートマン』は、ゲームセンターに置いてあるような筐体、つまり機械である。スティックを用いてボールを打ち、ゲートを通す。ゲートボールを、室内ゲーム機で遊べるようにした代物だ。色々な角度のゲートが代わる代わる出現しては、ポコっとボールを打って、ゲートの内側を通過すると喜色めいた音楽が鳴る。多くのゲームセン

『今にも削除したくなるような自分語りを :エピソード4 名となる文字列』

 まじまじと、キティちゃんを見つめていた。  数分前、新卒で入った会社を辞めてからというもの、冠婚葬祭以外では着たことのなかったスーツを身に纏い、竹谷は銀行の法人用カウンターに座っていた。今から20キロ太っていた時のスーツはブカブカで、シルエットは酷いものだったが、きっと心証が良くなるに違いないと判断した。マンガ『BLEACH』の影響で、ネクタイは細くて黒色のデザインだった。いつか機会があって斬魄刀を佩かせてもらえるなら、迷わず侘助を選びたい。  2月の外気は、まだまだ冷える

『今にも削除したくなるような自分語りを:エピソード3便覧 竹谷の体重メインで振り返るミリアッシュ・マイナス』

前回の記事は、驚くほど多くの方々に読んでいただきました。 恥ずかしい気持ちが大きくも、同じくらい嬉しかったです。この場を借りて、改めて御礼を申し上げます。本当にありがとうございます。 今回はエピソード4への箸休めとして、エピソード3の時間軸の竹谷がどれくらい太っていたかということなどを、写真とともに振り返ろうと思います。 ニートをしていた27歳の頃、90キロ超の竹谷です。きっとお腹がすごいなとお思いではないでしょうか。 トルコへ姉と旅行していた折、寄ったデパートのよう

『今にも削除したくなるような自分語りを :エピソード3 ミリアッシュ設立』

 気温も天気も覚えていないが、場所はドトールコーヒーショップ半蔵門店だった。まだ暗くなる前の、薄暮だった。 「杉さん、一緒に会社やらない?」  制作部の部長である杉山に向けて、竹谷は話していた。何か意を決した風でもなく、自然に言葉が出ていた。いや、そう装っているだけで、コーヒーカップを持つ手は少し震えていたような気もする。  しかし、反応だけの人生はもう、終わらせたかった。震えは、自分で物事を決めた反動だったのかもしれない。  杉山はよく笑う男だが、この時も笑った。  この数