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【取材記事】アフリカ女性たちとの出会いから起業を目指す。モザンビークで炭から始めたSDGsビジネス。次なる事業はマルラオイル中心にアジア市場でアフリカ由来原料のハブを目指す

株式会社Verde Marulaはアフリカ由来の希少な輸出入、商品開発から販売を行う原料販売の会社です。原料はECOCERTオーガニック認証取得を中心に取り扱っています。トレーサビリティとフェアトレードを実現しているSDGs企業。取り扱い原料が徐々に増え、更に新しい原料も取り扱う予定のVerde Marula。アフリカで起業するきっかけや、炭ビジネスのVerde Africa, Lda.   設立について、今後の展望などを代表の有坂様にお話をお伺いしました。

お話を伺った方

有坂 純子(ありさか じゅんこ)様
代表取締役 社長CEO
アフリカ モザンビーク在住。 1981年生まれ。広島県出身。教育系の企業で勤務した後、
カナダのカルガリー大学で経済学を専攻。マイクロファイナンスに興味を持ち青年海外協力隊としてザンビアに赴任し、農村女性を対象とした金融プロジェクトの仕組み構築に努める。
13年より(一財)アライアンス・フォーラム財団で、東南部アフリカでのインクルーシブファイナンス研修やBOPビジネス調査に携わる。16年にモザンビークへ移住し「Verde Africa, Lda」を
設立する。2021年1月にVerde Marula 社の代表に就任。


インタビュアー

小林慎和(こばやし のりたか)
株式会社bajji 代表取締役CEO
 
ビジネス・ブレークスルー大学 教授 大阪大学大学院卒。
野村総合研究所で9年間経営コンサルタントとして従事、その間に海外進出支援を数多く経験。2011年グリー株式会社に入社。同社にて2年間、海外展開やM&Aを担当。海外拠点の立ち上げに関わり、シンガポールへの赴任も経験。その後、シンガポールにて起業。以来国内外で複数の企業を創業しイグジットも2回経験。株式会社bajjiを2019年に創業し現在に至る。Google play ベストオブ2020大賞受賞。著書に『人類2.0アフターコロナの生き方』など。


アフリカとの関わりは2011年、海外青年協力隊へ参加したことから。これをきっかけにアフリカで炭ビジネスを立ち上げる

木炭代替品のリサイクル燃料


小林
:創業経緯を教えて頂けますでしょうか

有坂さん:2011年、海外青年協力隊としてアフリカと初めて関わった年でした。元々若い時から貧困撲滅に興味があり、マイクロファイナンスをやりたいと思い、HIV陽性の女性を対象にした、マイクロ起業家200人を支援するプロジェクトに関わることになりました。その時に初めてアフリカに行きました。その頃はザンビアという国の名前も知らなかったです。
2年の滞在期間で、一番私の心に刺さったことは、学歴もない、資本もない、パートナーもいない、中にはエイズが原因で、未亡人になった女性もいました。その中で、女性たちは小さなビジネスをして、明るく胸を張って働いて家族を支えていたんです。
なんて働き者で頑張り屋さんなのだろうと大変感銘を受けました。そういった女性たちが頑張っているのに、自分が起業できないなど言えないと感じ、その時、アフリカでの起業を考えるようになりました。

日本に戻りアフリカに関わるNGOで働き、起業の準備を進め、2016年にモザンビークに木を切らない木炭代替品のリサイクル燃料の会社Verde Africa, Lda.を立ち上げました。

リサイクル燃料のビジネスを選んだきっかけは、首都で雇用創出をして、持続的に貧困を削減していくことに貢献したいと思ったことと、燃料を作ればお金になるということで短期的な利益の為に森林の木が切られてしまう現状があるので、持続的な形で森林保護を促したいと思ったことがきっかけです。Verde Africa, Lda.は首都圏で経営し、5年程経ちました。会社のお客様も従業員も首都圏にお住まいです。更にビジネスを通して村の人たちとも関わり、村落部は大変貧困である現状を知りました。その大変な貧困が、人々を都心部や他国への移動を促しているし、森林破壊への問題にも繋がっている。そしてアフリカの抱える様々な問題に繋がっていると痛感しまして、いつかは村落部で雇用を創出するような事業を始められたらと少しづつ思うようになりました。

マイクロファイナンスとBOP事業関連に興味を持ち、モザンビークへ。一生懸命働くアフリカ女性の後押しをしたい。


小林
:2011年、海外青年協力隊より前には何をされていたのですか?

有坂さん:高校卒業後、子供向けの英会話講師をしていました。その後、大学へ進み、卒業後、海外青年協力隊へ参加しました。

小林:大学卒業後は、様々な選択ができたと思うのですが、なぜ海外青年協力隊だったのですか?

有坂さん:大学で国際協力学をやりたかったんですが、結局経済学を専攻し、とても面白く感じました。経済と開発問題が結びつくところはどこなのだろうと思い始めました。当時、バングラディシュのユヌス博士もノーベル賞をとられ、注目されていたマイクロファイナンスをやりたいと思いましたが、未経験だったため、2011年の1月に海外青年協力隊に行くことになりました。

ザンビアの青年海外協力隊の頃(右端)


小林
:国が選べたのですか?

有坂さん:国や案件が選べるのですが、私は、マイクロファイナンスの案件を選びました。
世界に同じ案件があり、その中のザンビアを選んだのです。

小林:私もまさに2011年に「BOP 超巨大市場をどう攻略するか」という書籍を出版しました。

有坂さん:そうなんですね!BOP事業関連に興味もあり、モザンビークに行くことになったんです。

小林:2年間の経験はどうでしたか?知らないことが一気に広がってワクワクしたのか、それとも、辛い部分もあったのかと思いますが、どんな印象だったのですか?

有坂さん:派遣先が田舎の地域だったため、仕事をして、友人も何人かいて、淡々と暮らしていましたね。その2年間でアフリカにはまっていきました。その間に知り合ったアフリカの女性たちは私と何もかも違っていて、対極にあるような人たちだと感じました。彼女たちは私から見ると大変そうな境遇の中、何も言い訳せずに強く生きていました。
私が初めに抱いたアフリカの人たちの印象は、なまけものかなと思ったんです。皆、同じ物を売っていて、皆座ったままなので、何か工夫する気持ちはないのかと思いましたが、実は彼女達は朝3時に起きて夜7時まで働いてそれを毎日繰り返し、子供も育てていると知り、アフリカにはアフリカなりのやり方があると実感しました。とにかく働き者です。

私が誰の力になりたいのかと考えると、こうした、一生懸命頑張っているけれど、チャンスが無くて上に上がれない人に、後押しを少しでもしたいと思い、こういった方々に関われるビジネスを目指しました。

小林:日本に帰国し、働いたNGOはどういったところだったのですか?

有坂さんアライアンス・フォーラム財団という団体です。BOPビジネスを通して開発途上国をより良くするということと、その一環としてアフリカでの栄養改善事業を力をいれてやっていて、いつかは事業化していくということ、もう一つの軸として、マイクロファイナンスをやっていたというのが理由になります。
アフリカのザンビア、アジアはバングラディシュを中心に働いていました。ザンビアの栄養改善事業で調査をしていたのですが、家庭のお母さんが、「食事を買うお金も、燃料を買うお金も無いんです。」と言っていて、その時、BOPビジネスで炭なら自分たちでもできそうだと思ったんです。
タンザニアやケニアには炭を扱う現地に根ざした業者がいたので、同業のいないモザンビークになりました。
モザンビークには海があり、食事も美味しいので元々好きですし、素敵な国です。

小林:モザンビークは言語は何になるのですか?

有坂さん:ポルトガル語なんですよ!言語の部分では最初すごく悩みました。

小林:モザンビークで事業をする前はお住まいになったりなどはなかったのですか?

有坂さん:そうですね。私は海が好きなので、ザンビアにいるときに、モザンビークに旅行には行きましたが、住んではいなかったです。

小林:Verde Africa, Ldaを創業してから5年程とのことですが、従業員の方10名程はみな、現地の方なのですか?また、定着率などはどうですか?

有坂さん:はい。モザンビークの現地の方たちです。若い方が多いですね。定着してきたのはここ2年位ですね。最初は色々とトラブルもあり、続けて頂けないこともありました。最近は会社のルールなども守って頂けるようになりトラブルもなくなりました。基本的に物つくりで職人系の仕事なので、人が定着することは大事なことです。

現地ではつぶしてカレーに入れて食べる程度。ほぼ捨てられているマルーラの種。日本では高級品として販売されているマルラオイルに着目した。

マルラ種子の加工作業


小林
:今回お伺いしたい、マルラオイル。こちらは私は初めて聞いたのですが、なぜマルラオイルをやろうと思ったのですか?

有坂さん:炭の事業をしてきましたが、炭は実はあまり利益率がよくないんですね。新たなビジネスの軸を探してはいたのですが見つからないまま5年経っていました。
マルラオイルに出会ったのはモザンビークのNGOがマルラオイルを絞っていて、日本で売ってみないかとサンプルを頂いたんです。試しに使ってみると、アフリカにいてガサガサになった肌が、次の日とても感触が良くなっていて驚いたんです。
オイルはベタつくので私は好まなかったんですが、マルラオイルは全くベタつかない上、次の日はしっとりしている効果を実感しました。調べてみると、日本では高価なオイルとして販売されていました。かつ、一つのブランドのみが販売している状態だったので、これは面白いのではないかと思うようになりました。

マルラは、マルーラという野生の木があり、南アフリカ、ナミビア、モザンビーク、ジンバブエなど南部アフリカに沢山生えているのですが、野生のマルーラから落ちてくる実を拾って、中の種の殻を割って、中のナッツをとり、そこから搾油するオイルなんです。

モザンビークにもマルーラの木は沢山あるんですが、活用法としては、マルーラの果実でお酒を作るんです。梅酒のイメージに似てますかね。しかし、種はほとんど捨ててしまうんですね。それには2つの理由がありまして、モザンビークではオイルを絞る会社がないということと、殻が硬くて割るのが大変ということです。

せっかく高価なオイルになる原料を捨ててしまっていることに気が付いたんですね。
今までの事業の炭と、今回のマルラオイルは、お客様になるターゲット層は全く違うのですが、共通している部分は、木を守れるというところです。
野生のマルーラの木に収入源があると思うと、村の人々が自発的に木を守るようになるんです。炭事業で私たちがやりたかった、現地の人が自発的に木を守るようになることは共通した部分だと感じ、これだと思いました。

小林:現地の人が気付かず、捨ててしまうというところに着目したことがビジネス的にはとてもいいと感じます。マルラオイルは食べることもできるのですか?

有坂さん:はい。現地の人はからを割ってナッツを取り出して、すりつぶしてカレーなどに入れて食べているのですが、自家消費以上の利用はしてないですね。

小林:今回御社は原料ビジネスとのことですので、日本や世界に卸販売ということなのですか?

有坂さん:はい、そうです。アフリカのマルラオイルをはじめとして、オイルが6種類と精油6種類、植物エキスが1つあります。それを日本の企業様に卸しているのと、アフリカのマルラオイルを知って頂く為に、自社ブランドを作り、ECサイトと代理店を通して販売しています。

起業方針を決める段階の苦労。マルラオイル中心の原料卸会社として「トレーサビリティが高い」企業であることにこだわりたい。

原料の良さを活かすコールドプレス製法


小林
:製造はどのようになっているんですか?

有坂さん:製造は100%他社の製品を買って日本に卸しています。最初はマルラオイルを紹介してもらった、モザンビークのNGOから買おうということになったのですが、村の人達が手作りしていたそのマルラオイルには菌がいて、日本での販売は難しいと知ったのです。ならば自分たちで絞ろうとしたのですが、技術がないため、先ずは菌を取り除く技術を持っている南アフリカの会社に、視察に行くことにしました。
視察してみると、その会社は細菌コントロールもすごくしていて、私たちが理解していたのとは比べものにならないほど、奥深いオイルのクオリティの世界があったんです。
それならばと、始めにこの会社からオイルを買い、日本に流通させてノウハウをためてから自分たちで生産するような体制にする、起業方針に転換したんです。

小林:マルラオイルはヨーロッパやアメリカで人気があるものなのですか?

有坂さん:そうですね。主な輸出先はヨーロッパやアメリカで、私たちが買っている会社は年間20トンほど製造していますが、その9割が欧米諸国に輸出されているそうです。
ドイツの輸出も多いようですね。

小林:その会社はマルラオイルのみ製造しているのですか?

有坂さん:そうですね。マルラオイルのみです。他に3社、仕入れ先がありまして、カラハリメロンシードオイル、バオバブオイル、モリンガオイル、ローズヒップオイルなど、アフリカで作られているナチュラルオイルが沢山あることを知り、そのいくつかを、原料として扱っています。精油もかなり南アフリカで作られていてアフリカにしか無いようなものもあります。
オイルの仕入先経由で知ったものなのですが、アフリカの伝統民間治療では、ブルビネフルテスセンスというアロエ科の植物がやけど治療などに効くとされています。それを絞った汁が、しわとかたるみに効くという実証実験もされていまして、日本での取り扱いも開始しています。

ブルビネフルテスセンスの栽培


小林
:日本向けに独占販売権は取ったのですか?

有坂さん:はい、頂いてます。私たちが原料卸しの会社として、何ができるのだろうと考えた時に、やはり、トレーサビリティが高いという所を全面的に押していくしかないという話になりました。お客様にも質問としてよく求められるのですが、どういった人が作って、どこにこだわっていて、原料はどこからきているのかなど、細かい話をしたり、写真を多く提示したりと、企業名も公開してトレーサビリティの高さを保ちたいと考えているので、独占販売権をして頂ける企業様はとてもありがたいと思っています。

小林:素晴らしいですね。日本企業のお客様は化粧品メーカーになりますか?

有坂さん:そうですね。最終的にお客様は化粧品メーカーになります。現状実績が3社ありまして、2社は化粧品メーカー、1社はOEMの企業様です。それから、先日、化学工業日報という雑誌の化粧品原料に掲載されたのですが、掲載をきっかけに商社様から新しくお話頂いています。

小林:独占権のあるプロダクトは商社さんとのビジネスもいいと思います。商社さんには顧客様がいらっしゃるので、お客様につながりやすくなりますね。

アフリカで起業してから5年間。炭のSDGsビジネスを目指すも思考錯誤の日々。ビジネス形態を変えたことで流れが変わった。

リサイクル炭の製造風景(写真:佐藤匠)


小林
:起業してからの5年間での苦労や課題などはありますか?

有坂さん:Verde Africa, Lda.の炭の話で言うと、一番は利益面で厳しかったということです。SDGsビジネスをやりたいと思ってはいるものの、利益的に厳しいということもあると、自分たちはお客様に求められているのかと不安になり、悩んだ時期もありました。
最初は食堂や自宅など、小規模販売モデルでしたが、炭は重いので80キロほどになります。購入頂くとトラックでお届けするのですが、肝心のトラックが故障したりなどのトラブルもありコスト高になりました。
日本ですと大根が10円安いからと、少し遠くのスーパーに買い物に行くこともありますが、アフリカの方はそういった金銭感覚が全く同じではなく、お金に対しての考え方がちがうと感じたんですね。
なぜかというと、私たちの扱う炭は家庭向けでも木炭の7割くらいの価格で安いのです。企業向けであれば6割位の価格で販売したのですが、6ヶ月程経つと突然リピートしなくなり、理由も教えてくれません。なぜなのかと考えると、恐らく使いにくいのではないかと思いました。例えば燃焼中に動かしたら割れてしまうとか水をかけて再利用できないなどです。
彼女たちは慣れていないものを、安いから使えるようになろうという風には考えないのではないかと思ったんです。
それを自認した時にはとても挫折感を感じたのですが、企業にシフトしようと、養鶏農家さんむけにトラック1杯買ってくれたら価格を安くする形態で展開すると、コストもペイし、お客さんのリピート率も良くなったので、この方向転換して安定するようになったので、よかったと思います。

小林:この方向転換は起業して何年くらいの時だったのですか?

有坂さん:起業して2年経ったときでしたね。その時たまたま、日本から来て下さったコンサルチームのコンサルティングがありまして、この方向転換に至りました。更に、ご縁がありまして、その中の一人の中塚さんとマルラオイルの事業を立ち上げることになったんです。
私たち2人がアフリカにいるぶん、中塚さんは日本で支えてくれています。

コンサルチームの皆さんと当社スタッフ達(写真:佐藤匠)

アジアでマルラオイルを使った製品を作りたいときには、Verde Marulaへ。日本を含めアジア市場においてアフリカの原料のハブになりたい。

マルラの実や種子と自社製品subiマルラオイル

小林:今後の展望をお伺いできますでしょうか

有坂さん:アジア市場においてのアフリカの原料のハブになりたいと思っています。今はアフリカからの直接輸入がされていない現状で、日本もマルラオイルなどは欧米の商社を通じて販売されているケースが大半です。その理由は安定した所から購入したいとの希望があるようなのです。
私たちは、アジアでマルラオイルを使った製品を作りたい時には、トレーサビリティが高く、品質も良い、在庫もある、Verde Marulaから購入するという存在になりたいと思っています。
ゆくゆくはマルラオイルを自社生産できるようになりたいと考えており、今年から着手する形になりそうです。
南アフリカの会社様から、原料調達のアウトソーシングの形でまずは種の供給から始めないか、とお話を頂いたので、種の買い付けから初めます。
2023年末には工場設立準備の着手に入れたらいいと考えています。

小林:工場はモザンビークに建設を考えているのですか?

有坂さん:そうですね。モザンビークに建設したいですね。

小林:私もナチュラル系のものは好きですので、今回初めて知ったマルラオイルに今後も注目していきたいと思います。
本日は早朝のアフリカから、とても良いお話をありがとうございました。

モザンビークの野生のマルラの木

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