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【取材記事】サステナビリティとビジネスの両立 業界の垣根を超えた連携が紡ぐ新しいアップサイクル

社会的・環境的な持続可能性と経済成長を両立させるサステナビリティは、企業にとって欠かせないテーマになりつつあります。しかし両立が容易ではないとされるサステナビリティとビジネスを、企業はどのように推進していけばよいのでしょうか?

そうした中、日清紡グループのニッシントーア・岩尾株式会社、ネスレ日本株式会社、神戸市をはじめとする14の企業や団体は、廃棄される資源や食品残渣のリサイクル率向上を推進する企業連携のプラットフォームとして、2023年2月に一般社団法人アップサイクルを設立。業界の垣根を超えた各社が連携し、従来のリサイクルの枠を超えた新たな取り組みを開始しました。

今回は事務局長の瀧井和篤さんに、設立の経緯や第一弾プロジェクト「TSUMUGI」の概要、今後の展望についてお話を伺いました。

【お話を伺った方】

一般社団法人アップサイクル 事務局長 瀧井和篤(たきい・かずしげ)さん
新聞社を経て、ネスレ日本株式会社に入社。使用後の紙資源や食品残渣の有効活用を模索する中で、企業や自治体が連携できる場を作りたいと考え一般社団法人アップサイクルを設立。未利用な資源を価値あるものに生まれ変わらせながら、消費者に届けるために仕組み作りを目指している。


■サステナビリティ活動をいかに継続させるか

“普段は捨ててしまうだけ”の紙パッケージを回収し、アート作品としてリユースするなど、エシカル消費について知ってもらう試みを実施

mySDG編集部:瀧井さんは、現在もネスレ日本のコーポレートアフェアーズ統括部といういわゆる「広報」部門でお仕事をされていらっしゃるんですよね。「ネスカフェ」などのコーヒー製品のPR業務の一環として取り組んでいたサステナビリティ活動が、一般社団法人アップサイクル設立の原点になったとか。

瀧井さん:そうですね。ネスレ日本はサーキュラーエコノミーの構築に向けた取り組みとして、製品パッケージの改善に取り組んでいます。たとえば、「キットカット」の大袋製品の外袋を紙パッケージに変更したり、「ネスカフェ」の詰め替え用製品を2008 年の発売以降、環境に配慮した製品として段階的に進化させたり。しかし一方で、紙パッケージになったからといって消費者が製品を選んでくれるかというと、それは別の問題であって、あくまで企業目線での発信に過ぎないと思ったんです。

消費者の立場から見て、「紙パッケージだから買おう」と思えるようなものを作っていきたいと思ったとき、これらの紙パッケージを回収して何か違うものとして生まれ変わらせることはできないかと考えました。そこで始めたのが、スーパーマーケットチェーン「西友」の全国48店舗で回収した紙パッケージをアート作品に再利用し、展示するという取り組みで、2022年3月にネスカフェ原宿「MOTTAINAIクリエイティブリユース展in 原宿」として開催しました。

mySDG編集部:新しい試みに対する手応えはいかがでしたか?

瀧井さん: メディアからも取材が入り、多くの方々から注目いただいたのですが、継続性という点では課題が残りました。そのため、もう少し生活に根差したものにしたいという観点から、日清紡グループのニッシントーア・岩尾さんと「廃棄された紙から繊維を開発する」プロジェクトを始めることになります。

mySDG編集部:なぜ「繊維」に辿り着いたのでしょうか?

瀧井さん:色んな活用法を探していたときに、当初は再生紙として使うという案もありました。しかし再生紙は世の中にたくさんあるわけですし、消費者が本当に欲しいと思えるようなものになるのか考えた結果、今までなかったものを作りたいと思ったんです。色々リサーチしていたところ、「紙糸」の存在を知りました。紙糸とは、千年以上の歴史をもつ工芸品で、和紙を細く切り、撚って作られていた糸です。手間とコストがかかるため、綿紡績の進化や化学繊維の登場によって、次第に需要が減少していったそうです。

mySDG編集部:あらためて紙糸という歴史あるものづくりを蘇らせようと思われたのはなぜでしょうか?

瀧井さん:国内における繊維産業の空洞化という課題がある中、日本独自の技術から生まれた紙糸を見直したいという考えがありました。そこで、紙糸の製作を機械化されている会社を見つけ、回収した「ネスカフェ エコ&システムパック」の紙パッケージから紙糸を開発しました。開発期間は1年ほどでしょうか。2022年2月にはニッシントーア・岩尾さんと紙糸を使ったアップサイクル衣服を作り、ネスレ日本直営のカフェ「ネスカフェ 原宿」のユニフォームとして活用しました。

回収した紙資源から紙糸を製作。さらにネスレ日本の直営カフェでコーヒーを抽出した後に発生する残渣等を染料として活用した
「ネスカフェ 原宿」等のネスレ日本の直営店のユニフォームとして使用。綿の3分の1程度という軽い着心地はスタッフ間でも好評だったそう

■各企業が強みを活かせるプラットフォームとして設立

mySDG編集部:業務を通してサステナビリティ活動に奔走される中、一般社団法人アップサイクルの設立にはどのように結びついていったのでしょうか?

瀧井さん:紙糸の開発やアップルサイクル衣服の製作は、前回のアートイベント同様に、メディアからも注目が集まり、取材もたくさんしていただきました。とはいえ、コスト面やサプライチェーンの構築といった点では課題が多く残ることに。そこで取り組みを続けていくための仕組みづくりを考えていたところ、神戸市さんや日本ロレアルさんなどさまざまな企業や団体からお問い合わせをいただくようになりました。たとえば「紙資源を提供したい」だったり「間伐材を有効活用できないか?」といったご相談です。

われわれ1社では資金面や継続性において難しさを感じていたのですが、各企業が連携し合えるプラットフォームがあれば新しい価値を生み出せるのではないか。企業がつながることで活動の広がりを実感したことから、一般社団法人アップサイクルの設立に至りました。

mySDG編集部:現在はどれくらいの企業・団体が参画されているのでしょうか?

瀧井さん:現在は30の企業・団体が参画しています。

mySDG編集部:どのような思いや考えから参画される方々が多いのでしょうか?

瀧井さん:参画理由は主に3つあると思っています。一つ目は事業で発生する廃棄物を有効活用したいという背景から。二つ目は、自分たちの技術を異業種で応用したいという、いわばチャレンジ精神からです。三つ目は、「こういった素材でものづくりをしたい」というご相談から参画いただくケースがあります。

mySDG編集部:各企業や団体が連携して強みを活かしたり、活かされたりすることで、新しい取り組みが生まれていく可能性に満ちていますね。瀧井さんが当初感じられていた継続性の課題は一般社団法人化することで、形になってきていると実感されていますか?

瀧井さん:そうですね。色んな企業や団体と関わることによって、ものづくりの幅も広がり、当初は作れなかったはずのものが作れるようにもなっています。特別な思いを持って事業に取り組む方々がつながれる場を創出できたことも、すごく意義のあることだと思っています。

■人の想い、Made in Japanの技術を未来へ紡ぐプロジェクト

使用後の紙資源や未利用の間伐材を紙糸にアップサイクルする第一弾プロジェクト「TSUMUGI」

mySDG編集部:第一弾プロジェクト「TSUMUGI」について教えてください。

瀧井さん
:「TSUMUGI」は廃棄される紙資源や未使用の間伐を「紙糸」に生まれ変わらせる取り組みです。今回は紙糸からTシャツとトートバッグを製作し、2023年10月23日より販売を開始しました。スーパーマーケットの店舗や参画企業のオフィス、神戸市の環境啓発施設を中心に回収した紙資源と、六甲山の間伐から発生するスギやヒノキを素材として活用しています。

Tシャツ3種と、トートバッグ2種の、合計5商品を販売。ロゴは六甲山などをモチーフに自然の風景をイメージして制作

mySDG編集部:「TSUMUGI」の魅力はどんな点にあるのでしょうか?

瀧井さん:いくつかあるのですが、その中でもトレーサビリティが確保されている点です。原材料がどこから来て、どういう構造で加工されて、どのように届けられるのかが全て見える化されています。

紙糸の開発しかり、本当にたくさんの人の想いを紡いで生まれたものです。Made in Japanの技術や伝統を未来へ紡ぐという想いが込めていることから、プロジェクト名も「TSUMUGI」と名付けています。

mySDG編集部:日本がもつ文化的な豊かさやユニークネスを次世代にちゃんと受け継いでいこうという想いも込められているということですね。


瀧井さん
:そうですね。ものづくりとして一時的に話題になるのではなく、本当に長く使っていけるものを作りたいと想いから生まれたものです。良いものを長く使い続けるという価値観が根付いていけばいいなと思います。

あとは、今回のプロジェクトでは、スーパーマーケットでも紙資源の回収を行いましたが、SDGsといっても何から始めていいのかわからない方でも、「使い終わった紙資源をスーパーマーケットへ持っていくこと」で参加できる仕組みを構築できたと思います。今後もこのような形で消費者を巻き込んで、サステナビリティ活動を推進できる取り組みを広げていきたいです。

mySDG編集部:さきほど、「たくさんの人の想いを紡いで生まれたもの」というお話がありましたが、今回のプロジェクトにおいて、参画企業はどのように関わられていたのでしょうか?

「TSUMUGI」のオリジナル商品は東京・後楽園のカフェ「クラフト&テロワージュ」とECサイトで販売中

瀧井さん:資源の供給については、紙資源はネスレ日本や日本ロレアルさん、メットライフ生命保険さん等に供給いただいています。間伐材は神戸市役所さんが六甲山で間伐作業を実施し、間伐材の加工は「SHAREWOODS.」さんにご協力いただきました。さらに紙糸の開発には備後撚糸(びんごねんし)さんや日清紡さんに、染色や縫製は艶金さんにお力添えいただきました。

販売においては、シーエヌシーさんが運営する東京・後楽園のカフェ「クラフト&テロワージュ」の一角で商品の販売と、紙糸ができるまでの資源やアップサイクルの工程、素材の展示などを行っています。

■「競争」よりも「共創」できる企業間の関係を目指す

一般社団法人アップサイクルが目指すのは「人々がつながり合いながら、廃棄やロスに新たな価値を吹き込み、持続可能な社会を実現すること」

mySDG編集部:最後に、今後の展望についてお聞かせください。

瀧井さん:今までは、企業が競い合って成長していく関係性があったと思うのですが、今は競争というよりも、共に創るという「共創」の方が大事かなと思っています。サステナビリティ事業を1社だけで推進していくのは難しいけれど、規模・業種問わず、色んな企業・団体がつながることでものづくりの幅が広がります。つまり、一緒に新しい価値を作っていける関係性がすごく大切なのだと思います。人と人との輪を広げて、取り組みの場を広げていくことは、取り組みのひとつのあり方として、今後続けていきたいですね。

mySDG編集部:今回、お話を伺っただけでも、各社による技術の結集を感じられました。企業が連携することでそれぞれが補い合い、実現できることもずいぶん広がっていきますよね。

瀧井さん:そうですね。これまでだったら、アップサイクル商品を開発してもネスカフェ直営店などあくまで自社でしか活用できず、プロモーションとして終始してしまうところがありました。しかし今は、一般社団法人アップサイクルの参画企業として、色んな出口を一緒に作っていくことによって、継続した取り組みができるよう変わりつつあります。色んな方々と一緒にものづくりをしながら出口も含めて共創できることは、非常に価値のあることだとあらためて実感しているところです。

■「TSUMUGI」オリジナル商品の販売場所
<ショップ>
「TSUMUGI」商品の販売だけでなく、紙糸ができるまでの資源やアップサイクルの工程、素材を展示するほか、焙煎したてのコーヒーを楽しむことができます。(運営:シーエヌシー株式会社)

「クラフト & テロワージュ」 概要
●住所 東京都文京区春日1-2-3 メトロ・エム後楽園 2階
東京メトロ 丸ノ内線/南北線 後楽園駅より徒歩1分
都営三田線 水道橋駅より徒歩5分
●時間 10:00~21:00

<ECサイト>
「TSUMUGI」商品の販売やイベント情報等を発信するほか
新規コラボレーションの問い合わせも受け付けています。
(運営:ReNewStyle株式会社)
●URL https://tsumugi-upcycle.com


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mySDGへの取材依頼・お問い合わせは mysdg.media@bajji.life までお気軽にご連絡ください。


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