バスの運転手

大学卒業後に田舎に帰ってバスの運転手をしている友人がこちらに来るということで、一緒に酒を飲んでいたときの話。

「そっちの仕事ってどうなん?」
「バス動かしてるだけだよ。別に変わったことなんてないよ」
「知らない業界の話って面白いもんだよ。どんなのでもいいから話して欲しいな」
友人はあまり話すのが得意ではないので、軽く促すことにする。
「うーん……こんなのはどうだろう。うちの方は田舎のせいか行動がルーチン化されてるっぽくて、人の流れが大体一緒なんだ」
「ほう、なんだ面白そうじゃないか」
「じゃあ話すよ。俺の働いてるとこの路線は、誰も乗ってないところからスタートするんだ」
「一人でバスってのもなかなか乙なものじゃない?」
「すぐ慣れるよ」
「やっぱりそんなもん?」
「まあね。ただ、景色はいいよ」
「……おっと話が逸れたね。最初の停留所では誰も乗ってこないんだ」
「過疎化の流れを感じるな」
「うん。ただ、誰もいなくても少しは停車することになってるんだ」
「そうなん?」
「そう。じゃないと、次の停留所は着く時間が変わってしまうかもしれないだろう?」
「あぁーそうか……」
「で、次の停留所では3人乗ってきて2人降りる。その次の停留所では……4人乗ってくるだけだったかな。ここでは誰も降りない」
「算数の問題みたいだな。では今バスに乗ってるのは何人でしょう?って」
「……7人だね」
「おいおい流石に酔っ払うの早すぎだろう」
「あ、そうか。自分数えるの忘れてたね。8人か」
「いやいやお前足して6人だろう?」
「……あれ?そうだっけ?」
「そうだよ」
互いに首を傾げ合う。
「まあいいか。その後はどうなんだ?」
「その後は流動的かな……」
「なんだ、別にそこまでルーチン化されてないじゃないか」
その後、俺の方の仕事の話や、互いの趣味の話を大体3時間ぐらいして別れた。

帰りの電車で、話していたことをのんびり思い出しながら酔いに浸っていた。
バスの話を思い返したところで、何であんな変なことになったんだろうと考えてみた。
疑問が解けると、
「あいつが合っていたのか……」
思わず声が漏れ、一気に酔いが覚めていくのを実感した。