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4月4日の再開に向けて『テラフォーマーズ』の面白さを振り返る

※少し本編の内容に触れております

漫画『テラフォーマーズ』の連載が、約5年半ぶりに再開されることが発表された。4月4日発売の「週刊ヤングジャンプ」18号にて、彼らが誌上に帰還する。

物語の舞台は火星。宇宙空間で巨大化したゴキブリと、彼らに対抗するため特殊手術を施した人間の闘いを描く。連載再開を記念して、「ヤンジャン!」アプリにて4月24日まで全話無料公開中。なんて太っ腹なんだ。

まんまと徹夜しながら読み進めているのだが、これが本当に面白い。そう思う理由が大きく分けて2つあるので、連載再開前に本稿でつらつらと語っていく。

マーズ・ランキングの当てにならなさ

設定の珍しさやアクションのかっこよさはもちろん、まずはこれ。既読の方なら「マジ当てになんね〜」の言葉に頷いてくれる人も多いのではないだろうか。でも、このランキングの不正確さが面白い。

本作には「マーズ・ランキング」という、テラフォーマー(ゴキブリ)の制圧能力を順列化したものがある。ちなみに、1位は首だけになっても生きているジョセフ・G・ニュートン。2位は今は亡きアドルフ・ラインハルト、同率3位は艦長の小町小吉とドイツ班幹部のシルヴェスター・アシモフだ。上位はわりと幹部が固まっていて、その強さは人智を超えているので(ほぼみんな人智を超えているけれど……)納得感がある。

だが、中国の班長・劉翊武が44位と幹部にしてはやけに下だったり(※ランキングは100位まで)、同じく中国の班員が下位に固まっていたり。おや……?と感じる疑いのタネがばら撒かれている。ここまで書くともうお分かりのとおり、実は中国班はめちゃくちゃ強い。ある目的のため、弱く見せかける必要性があったというのだが、「マーズ・ランキング」をも利用してくるとは。これを中国勢にやらせたのも含めて面白いし、黒コゲになったはずの彼らが普通に姿を表したときの驚きったら、ない。

さらに、ランキング最下位のエヴァ・フロストという女の子。エヴァのベースは「プラナリア」。切っても切っても再生してくる、あの不死身の生物である。死なないことはある意味最強なのだが、蜂のような毒針も、大蓑蛾のような強力な糸もないので闘えない。だから、テラフォーマーの制圧能力としては最弱に数えられたのだろう。そんな彼女は、班長のアドルフらとともに大量のテラフォーマーに囲まれ、爆発に巻き込まれ、長らく死亡したものと思われていた。だが、絶対死んだじゃん……という状況だったにもかかわらず、彼女は戻ってきたのだ。しかも、超強くなって。しかも、超いいタイミングで。

強くなったというのは、いない間に成長したとかではなく、アドルフのデンキウナギの能力を取り込んだから。そう、爆発で散り散りになった時に、運良く能力も取り込んでしまったというわけだ。生きていたのは、言わずもがな彼女のベースがプラナリアだったから。最弱が2位の力を手に入れるのも熱いが、守られるだけの非戦闘員だった彼女が、やけにたくましい顔になっていたのがとても痺れた。こんな感じでランキングは当てにならないのだが、この想像力の外側を持ち出してくる感じがたまらなく面白い。

蓋を開けてみれば人間同士の競り合いだった

本作では、テラフォーマーと人間の闘いが描かれる。こう聞くとすごくSFっぽいが(実際SFバトル漫画だけれど)、実はずっと国同士の、人間同士の競り合いをしている。

第二章ではそれが顕著に表れていて、最後らへんではしっかりと「代理戦争」という言葉まで出てきたほど。こうなると、ゴキブリ退治どころではなく(こっちも容赦なく襲ってくる)、どこかとどこかの班が手を組んで、あそこの班を叩く、というような話になってくる。一気に、裏切り者が……?というサスペンスさながらのヒリヒリした展開に変わるのが面白いし、ぐっと没入感が出てくるのも愉しい。多国籍部隊は一丸となって地球を守ろうという平和的なものではなく、技術を、手柄を、相手を出し抜くためのものだったというのがなんとも言えないけれど。

また、設定的には西暦2620年頃とかなり先の未来だが、米国とロシアの対立や共産主義など現在とリンクしているのも深いところ。たぶん、うん百年先もあんまり変わってないんだろうな〜みたいな、ちょっとした風刺をきかせてる感じがする。地球での会議シーンも好きで、日本の首相・蛭間一郎の「トラスト・ミー」からの「根が回っている」には、なんて腹の底が見えない会話をしているんだ、と(あと、ここは蛭間が首相と明かす、満を持した感も好き)。ズブズブの勢力争いのリアリティが感じられた。こういう、本来清いものの黒い部分を見せてくれるのも本作の面白さである。

ここまで、『テラフォーマーズ』の面白いと思うところを語ってきた。なぜこのコラムを書いたのかというと、とにかく、とにかく再開が嬉しかったからである。「男達は闘う。生命以上の何かを、取り戻すために」。ここで止まっていた本作は、4月4日より再び動き出す。大事に、読み進めたいと思う。

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