自分の家庭が異常だと気づくまで【中編】
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大学時代の話。
平和な家庭を知る
【親は嫌いで当然】
この頃は高校までの経験に基づき、おおよそ次のような固定観念を持っていたと思う。
親は人生最初の敵である
親は自分勝手な生き物である
家族というのは大抵嫌なものである
親と一緒に暮らすのは、他に仕方がないからだ
仲のいい家庭はごく限られている
つまり、親に対する反感はあった。それでも、まだ家族幻想の呪縛から逃れられていなかった。むしろ、「自分が生まれたせいでQの人生が滅茶苦茶になってしまった」という罪悪感で枕を濡らすことが多かった。
一人暮らしをして、十代後半〜大人の人々と関わるうちに、徐々に自分の家庭は少しおかしいのではないかと思い始めた。
【親が好きな人】
最も印象深いのは、妊娠を期に親と同居するという知り合いと話したことだった。私はその人の家族が温厚で愉快な人々だと知っていたし、知り合いも嬉しそうだったので、幸せな家庭ってあるんだな〜でも一緒に住むなんて大変そうだな〜と思って話を聞いていた。そして逆に「あなたは?親御さんとまた一緒に住まないの?」と聞かれたときに「え、ないない」みたいな反応をしたら、「えーなんで?」と不思議そうな声が返ってきた。私はなおも「また親と一緒なんて嫌だ」みたいなことを、さもそれが常識であるかのように言った。この時点で、この人は子育てとかのために仕方なく親と一緒に住むわけじゃないんだ!と気づき、驚いた。もっと後になって、それが必ずしも少数派とは限らないということにようやく思い至る。
毒親認識の形成
【「母」じゃない】
親への嫌悪感からか、この頃から「お母さん」という呼び方をやめて、名前を呼び捨てにするようになる。私にとってQは世間一般のいわゆる「お母さん」ではない、という認識がそうさせたのであろうか。
【お前は失敗作】
私はずっと「自分は普通の能力も倫理観もなくてダメなやつ」という考えを概ね持ち続けていた。そしてその一因は、曽祖父の時代から連鎖してきたハラスメント気質のせいであると考えるようになった。
詳細は忘れたが、Qの前でそういう考えを当然のことのように喋ったところ、Qはしおらしく「世代ごとに改善して、毒が薄まっていけばいいなと思っている」と言った(濃縮される可能性は考えないらしい)。その反証が私だ、と言ったんだったか、とにかくこちらが反論したところ、「私の子育ては失敗だったんだ〜えーん」と悲しまれてしまった。それは我が子の存在の否定であり、常識では言うべきでない言葉であると、私はもう知っていた。だから、毒親の見本みたいなやつだなと苦笑したのを覚えている。
参考:
今だからわかること
今振り返るとおかしいことはもっと起きていた。しかし全て100%自分が悪いと思い込まされていた。いくつかピックアップする。
【私を喜ばせろ】
例えば、機嫌が悪くないのに「いい加減にしろ」と怒られたことがある。Qの妄想だったんだと思う。
また、私が機嫌を悪くしたから、という謎の理由でいきなり頭を叩かれ、無理やり笑顔を作らされた。
参考:「機嫌が悪い」について
【価値のない子】
また、貧乏のせいで肉体的にも心理的にもそれなりに苦労した。私は金食い虫であるという負い目が常にあったので「金は足りているからいらない」と言うのだが、Qは送ってくる。断ると「受け取れ」と怒る。それなのに、Qの方で金がなくなると、こちらが頼んでもほとんど送ってくれなかった。
そんな感じだったので、電車賃が出せなくて歩いたり、安い食材を探してスーパーをハシゴしたり、もやしばかり買って食べるしかなかった。祖母の金と奨学金で行けた留学でも、キャスターの壊れた数十年前のスーツケースを持たされて体を痛めたりした。十分恵まれていたのだろうが、学生ながら海外旅行に出掛けている周囲と比較すると惨めだった(金がないのに子供を持ってはいけないと強く思わされた)。
本当に困窮していたときもQは金を貸してくれず、私は再度限界まで我慢してから「じゃあ親戚に借りたい」と漏らしたが「だめ」と一蹴された。結局、サラ金で3万円借りて、ギリギリ利子なし期間内に返済した。そのくせ、卒業式の袴の金は出してやるだの(もちろん着なかった)、親戚と一緒に進学祝いで豪華な食事をするだのと言ってきた。そんなものはいらないから日々の生活費が欲しいと伝えたが、聞く耳なし。
貧乏とモラハラが絡むとろくなことがない。
文脈は忘れたが「あなたが生まれる前は私だって500万円くらい稼いでいた」と言われたこともある。
こういった出来事の積み重ねで、自分には金をかける価値がない、生まれてこなければよかったのに、という刷り込みがされていった。
関連記事:
【お前が悪い】
この頃はまだQの異常性を完全には見破れなかった。その原因は、Qがしばしば私への言葉や態度に込めた「お前が苦しいのはお前自身のせい」というメッセージのせいだったのだろう。それはまたQ自身を苦しめる彼女の内面の規範なのだろうということは、容易に想像がつく。
中編は短めでここまでとする。
続き:
余談:父親について
血縁者のなかではまだ好意的に捉えられる相手だが、もちろん不信感もある。
まず養育費を払っていない。生み出した生命に対する責任感がないことがわかっているので、諦めみたいなものを前提に交流するほかない。まあ事情があるのは知っているし、今更どうにもならないので養育費は未納で構わないとしよう(追記:「本当は欲しかった」という気持ちもあるはずなのだが自分ではまだ認められていない)。
しかし、Qが常軌を逸しているとおそらくわかっていながら私をQに任せたことについては、拭いきれない不信感が残る。父方の親戚はみな温かくて安心感があるし、これが普通の家族なのかなと好ましく思うが、それでも私を過酷な環境に置き去りにするくらいには倫理観に瑕疵、あるいは行動力に限界があるんだな〜という印象。そう思うと関わりづらい。
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