自立できないミズゴロウ

読了後に想ったことを綴ってゆきます。

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最近の記事

「ミッキーマウスの憂鬱」 松岡圭祐

 母の手を握りながら入場ゲートを潜ると、そこにはお祭りのような喧騒が広がっていた。目の前にあるそこはぼくが毎日暮らしている町とは全然違くて、まるで起きているのに夢を見ているみたいな景色だった。  最初はどこに行こうか、と話し合う両親の先に、二匹の動物が見えた。  あれは、ねずみだ。目立った大きな耳から、そう思った。でも、ねずみなのに立っている。ねずみなのに手袋を嵌めているし、ねずみなのにリボンをつけている。(リボンをつけている方がおんなの子?)  そんな不思議なねずみたちは動

    • 「かがみの孤城」辻村深月

       廊下側、最前列。1番。  いつもそこが、彼女の席だった。  席替えの季節になって、学級委員が意気揚々と場を取り仕切る。生徒が座る机を順番に周っていき、手作りのくじ引き箱から番号札を一枚ずつ引いてもらう。皆が自分の希望する番号を思い、くじを引く。でも、僕たちは決して1番を手に取ることはできない。  恐らく隣席同士になった女子2人が手を取り合ってきゃあきゃあと歓喜している中、僕は13番を引いた。今座っている位置と同じだ。くじ引きを終え、僕以外の生徒たちが机を移動させる。ガタガ

      • 「さよならクリームソーダ」 額賀澪

         それは、よくある恋愛小説のなれの果てだった。主人公の男が恋に落ちる。魅力的で少しミステリアスな、何やら秘密を抱えた美しい女の子と。主人公は彼女の隣にいることに安らぎを覚え、彼の世界は徐々に彼女を中心に動き始める。  ところがそんな二人は、彼等の力ではどうにもできない悲劇によって引き裂かれる。主人公は一人、世界に取り残される。彼女のいない世界を彼は生きていく。彼女の笑顔と言葉を抱えて、生きていく。  「泣いた」とか「感動した」とか。そんな声に埋もれて見えなくなった、主人公のそ

        • 「スロウハイツの神様」 辻村深月

           僕は、読み終わった作品から次の作品を読み始めるまでの一連の過程を「引っ越し」と呼んでいる。全く異なる世界間の移動にいつも脳が悲鳴を抑えきれない、が新たな出会いによる高揚感には勝てるはずもなくワクワクしたヤドカリのように次々と住処を渡り歩く。  本作「スロウハイツの神様」では、その名の通り「スロウハイツ」というアパートが主な舞台となる。覗き見…なんていうと気味が悪いけれど、まるで架空の一室に部屋を借りて一緒に生活していたかのような気分でこの物語と過ごしていた。 「夢」「希望

        「ミッキーマウスの憂鬱」 松岡圭祐

          「本日は大安なり」 辻村深月

           結婚はいいものだな、と思う。 って言っても僕は結婚というものを経験したことがないし、実際どういうものなのかも理解していない。ただ、僕の中でのそれは漠然と憧れるものであって、いつかは自分もするんだろうなという根拠のない確信が付属するものだった。 神秘的な部分だけを抜き見て美化しているんだろうなっていうのは分かっている。でも、辛いことも、大変なこともありふれた世界だからこそ、飛び込んでみたいと思わせてくれる。 それが僕にとっての「結婚」なのだ。 若僧は今日も、結婚に憧れている

          「本日は大安なり」 辻村深月

          「明け方の若者たち」 カツセマサヒコ

           スクリーンに映った曙の空は、そこはかとない美しさを感じさせる。あれは、決して綺麗とは言えない物語の結末を表現していたのか、それとも主人公の未来への希望を示していたのか。結局どちらともわからず、「お前なんぞには理解できぬ」と、映画監督の力量を見せつけられたような感覚だった。館内に照明が戻り、周りが騒々しくなったところで僕は現実に目を覚ました。存在を忘れていたのか、半分以上も残ったコーラをもって席を離れる。世界を代表する清涼飲料水としての使命を全うさせてあげられなかったことに後

          「明け方の若者たち」 カツセマサヒコ

          「君の話」 三秋縋

           今、逢いたい人がいる。  僕は君を知っている、でも君は僕なんか知らないだろう。いつも隅っこで君を目で追いかけていただけの僕だから。君より魅力ある人なんてあの学校にはいなかったし、きっとこの先も出会うことはないと思う。「好き」なんておこがましい。ただ僕の記憶に居てくれさえいれば、それでいい。本気でそう思っていた。ひとつ考えてみる。もし今の僕なら、何ができるだろうか。あの日に戻って君に会ったら、「僕」を伝えるだろうか。対等になって、好きになって、想いをぶつけて、、、そんな妄想は

          「君の話」 三秋縋

          「かくしごと」住野よる

          —18歳。高校3年生。あの瞬間のぼくは何を考えながら生きていただろうか。将来のことを考えるなんて立派なことはしていなかっただろうし、好きな子のことで頭がいっぱい、なんて青春な人生でもなかっただろう。 「でっ、でも、決してつまらなかったわけではないんだぞっ」 こうやって自分の人生の平凡さと退屈さを励ましながらこの物語を読み進めていた。  懸命に生きる5人の高校生たちに想いを馳せながら、ぼくの青春も幕間を終える。  京くん。地味で控えめな少年。  優しい性格はすごく魅力的だ

          「かくしごと」住野よる

          「名探偵誕生」 似鳥鶏

           本をぱたんっと閉じて革鞄に仕舞う。物語を読み終えたのは電車の中だった。電車を降りて家路について、ぼくはいつまでも「名探偵」の余韻に浸っていた。このとき、ぼくが感じていたのは「満足感」でも「達成感」でもなく「なぜ終わってしまったのだろう」という無念だ。そのくらい、この作品の世界観に日常を感じていたし、没頭していた。  この世界を忘れたくない。いつまでも、「名探偵」には心踊らされた。  主人公・星川瑞人の恋は、どこまでも儚い。想いの行先は「隣のお姉ちゃん」。当時高校生だった

          「名探偵誕生」 似鳥鶏