小詩集『月と語らう』

朧月夜  2023/02/06


空の低いところに浮かぶ
まん丸な黄色が朧に隠れている
確かにそこに存在しているのに  見えているのに  見えていない未来に似ている  
ぼおう  と  灯る不安
その弱い篝火を持って夜道を歩こう
物語は先を知らないから頁をめくりたくなる

嘘臭い未来予知なんていらない
絶対の運命があるとしたら俺の生は揺らぐ
一度だけ一気読みして終わる物語だ

知識と体験は違う
本をめくる指先より
現実は  心動き手は震える
俺がこれからめくる時の頁は
一度きりの感触だ


2023/03/10


夜が明ける前のa.m.4:00
近くの公園まで少し歩く
誰もいない  車も通らないので  車道の真ん中を歩いても平気だ
みんな気持ちよく眠っているのだろうか
俺もその仲間に入りたいが  あまり上手く眠れない日々が続いている

夜は冷んやりしているが  そろそろ春が芽吹く予感がある
月を探して顔を上げたら  暗闇の一角が白く光っている  少し齧られた月に霞がかかる

ベンチに座りこの言葉を打っている
一段落して空を見ると月は雲に隠されてしまった
光の穴は平坦な闇に塞がれてしまった

物言わぬ大きなものよ
悩み歩く者の道を照らしておくれ
闇に開く穴のように出口が見つかりますように  なお遠いとしても



花と月


花の香る道を歩く
見上げると桜と月
足下を花弁が彩る
月明かりと街灯は闇には勝てない

もう4月になったと言うのに
花開いたというのに
俺はいまだに咲くことも枯れることもなく
薄ぼんやりとした闇を  ぼんやりと漂っている

花の生の匂いは命の実感  死の予感
俺にそれがあるか?俺のそれはなんだろう?




2023/08/02


夜空が瞼を見開いて  しっかりと目と目が合う
月に一回の邂逅  雲に邪魔されることもあるが
お前は約束通りに現れる

俺は  約束を忘れ  呼びかけにも気づかず
殻に閉じこもり  俯いて歩き
すっぽかすこともしばしば

俺らの語らいは
抽象的な押し付けみたいなもの
お前は俺を責めはしないだろう

心と心が中空で触れ合う  隠しごとはできない
最近は頑張れているよと言えたらいいな



2023/08/29  18:32


日が沈みはじめて
文字を読みづらくなり本を閉じた
周囲を歩くと人影が減ったように感じる
野球グラウンドのベンチに腰をおろす
遠くから聴こえる
カラスの鳴き声  ボールを打つ音
肌を撫でる空気が涼しくなった
少し寂しくなった

空に浮かぶ月は
まんまるの木皿のようでお腹は鳴る
ぼちぼち帰って夕食の時間
あのお皿に飾るケーキが思い浮かぶ

今日は一人で  いや今日もと言うべきか
帰っても一人で  簡素な食事を作り食べるのだろう
暗くなった空  18時46分



小人になって 2023/09/30


花壇に立派な森があった
小人の僕は地上から離れて一人になりたかったので木に登った
今日は月光が明るいと感じていたが  遮るものがなくなり 見上げた空に立派な月が光っていた

そこで一瞬言葉をなくす___。

変わり者の僕はみんなの中に居場所がない
森は僕を受け入れ  月は祝福してくれる
雑念が消えて一瞬だけでも  僕も木々と同じ元通りになれた

周りを飛ぶ虫たち
自らの生を懸命に生きている
僕よりも脆く寿命の短いものたち
時間を全力で生きているように見える

僕が不安に沈んで  ここから飛び降りれば楽になるとか一瞬だけ考える
そんな逃避はせずに挑む姿がある

居場所がないなら創る
死にたいなら生きたくする
挑む力にここで火をつける




2023/10/24


無言のお前に言葉を投げかける
言ったところで返答がないから  内側の独り語りを吐露する相手に相応しい  
いつも弱音ばかりで  そんなものは  終わりがないから終わりにしようと思う

苦しい現状に泣いて  不安から逃げるように布団にくるまって  やり過ごすために無感覚になって  そんなものを  やめようと思う

代わりに始めるのはさ
お前に投げかけた言葉と感情を全て  自分に受け入れて  成りたい自分に向けて  望む生活に向けて  進むこと

なんて強がって言ってみても  どうせ一進一退だ  失敗を積み重ねて成長に届くといい
容易く揺るぐ決意を  揺るぎないお前に投げ掛ける  見ていてよ  忘れないように見ているから


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