見出し画像

【物語詩】暴力を禁止された国


「いいですかみなさん、この国では物理的な暴力は禁止しています。躾と称する平手打ちから、鈍器を使用した強盗まで、種類や大小を問わず厳しく取締ります。罪はとても、とても、重いです。いいですか?再々何度も確認して下さい。罪は、とても、とても、重い
、です。」


「この国で暴力を振るったら厳しく処罰されるそうだ。何も初めから死刑になるわけではない。12歳以下までなら厳しく処置されて、12歳を越えたら3回までは許されるそうだ。処罰は段階を踏んで過酷になり、4回目で死刑だそうな。
罰の内容は公には明かされていないが、とても、とても、厳しく重い、との噂だ。罰せられて出てくる頃には人が変わったように改心して、大方は二度と暴力を振るわないそうだ。」


「いつか誰かが建てた理想郷。表向きは殺人も窃盗も殆どなく、貧困で暮らしていけない者もいない。 この国に来て驚いたのは国民の言語能力が総じてとても高いことだ。語彙に富んでいるし、明瞭にすらすら話す。
だけれど、悲しいことだ。その言葉は一見すると朗らかで微笑んでいるのに、その奥底にあるのは自分を上げて他人を下げる自惚れだ。口角は上がっていても目は笑っていない。親切を装って近づいてきては、隙あらば言葉の針で刺してくる。決して物理的な暴力は振るわず、振るえず。そうして人を屈服させ支配するのが喜びらしい」


「奴らとうとう精神的暴力も取り締まるつもりらしい。なんでも俺らの身体に埋めこんでいるデバイスや、手首に巻くデバイスやらでコミュニケーションを録画・録音したり、精神状態の変動なんかを観察する実験をしているみたいだ。一見して自由なこの国は、その実すべてを監視されている。言論の自由は心の底から善良な国民にしか残されていないのだろう。かろうじて監視の目を抜けるのは心内の声のみになるだろう。それも精神安定の条件つきで。」


「なぁ、私たちのやっている事は本当に正しいのか?これが、かつて夢見た理想なのか?確かに貧困もなくなり、犯罪も減り、自殺も減ったさ。国民の自由度も一見すると増している。だが、みんな行動が逐一監視されている可能性を知っている。誰もが本音を呑み込んで当たり障りなく接している。波形を見ても明らかだ。これが、誰もが自由に生を謳歌していると言えるのか?」


【自由・じゆう】
①自分の思うままにふるまうこと。
②他からの強制や束縛をうけないこと。

字面に惑わされるなよ
そのまま鵜呑みにするなよ
強制からの脱出は難しいが
していいこと
しちゃいけないこと
自分の思うままに考えるんだ
自分と同じ人間が沢山いる中
その手で振るう物はなんだ


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?