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幸せっていろいろ【おじいちゃんの愛人】

もう亡くなってしまった祖父には、

愛人がいた。



私の母方の祖父母は、変わっていた。

昔は、遊びに行くと、
常に二人は喧嘩していた。
泊まりに行った翌朝は、
その大声で起こされることも多かった。



「おまえなんか出てけ!」

「うるせーっバカじゃねーのかーっ!」



なんてのも日常茶飯事で、子供ながらに
「おばあちゃん出てったら遊びに来れないなぁ…」
と考えていたことも覚えている。


母が子供の頃はもっとすごかったらしい。


家にはお金を入れず、
よその奥さんと良からぬ関係になって
そちらにお金を落としたり、

祖母に暴力をふるったり…。


色々、普通じゃないことが多く、

「早く離婚してほしかった」
「おばあちゃんが殺されるんじゃないかと
いつも怖かったよ」

と母から教えてもらったこともある。


そんな祖父には、愛人がいた。


………家族公認の。


私も会ったことがある。
というか、よく遊びに来ていた。


「愛人の愛ちゃん」


という、

いまとなれば本名なのか
あだ名なのかわからない呼び名で、

年は祖父母より少し若いくらいかと思うが、

しょっちゅう祖父母の家に来て、
すごく高いアロエジュースを祖母に売っていた。


私たち孫は、
いつもなんともいえない感情で
アロエジュースをもらっていた。
意外と美味しかった。風邪も治ったし。


私がもう家を出てからの話。

私の両親が遠方に転勤となってしばらくして、
祖父母が両親の家に車で遊びに来る、ときいた。

もう祖父は体が弱くなっているし、
(もともと家族のために
運転してくれることはなかったそうだが)

祖母に長距離運転というのも心配だったので
詳細を母に聞いたところ、

「あ、愛ちゃんが運転してくれるんだって苦笑」


え、3人で車乗るの…??


祖母も

「いんだいんだ、愛ちゃん車好きだから」

と言って、
愛ちゃんなる人も快く引き受けてくれたらしい。

楽しく観光もしたらしく、後日写真も見せてもらった。


カオス。



祖父の末期、自宅療養になってからも、
愛ちゃんはよくお見舞いに来てくれていた。


「あんな死にそうなじーさんのところにも
来るなんて、愛ちゃんすごいよね」


と、母が言っていた。


いや、

あなたたちの家族、もっとすごいところ、
たくさんあります。



祖父が亡くなって、
祖母は寂しそうにはしているが、
自由に毎日を過ごしている。


「なんでおじいちゃんと別れなかったの?」


と尋ねたことがある。

祖母はこう言った。

「私はあんたのお母さん連れて
出て行っても生活できる自信はあったけどよ、


じーさんみたいなのは捨てられたら
誰も拾ってくれないべ。

それはじーさんがかわいそうだから、
私が捨てないであげてるのさぁ」


祖母の愛情の深さ、

幸せの意味、

色々なことを考えさせられる。

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