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どうしたソニーレコード?? 30年前の思い出

ソニーとわたくし

1980年代、日本経済は二度のオイルショックを乗り切り、85年のプラザ合意を機にバブル景気を迎え、絶好調でした。日本企業は時価総額の世界ランキングの上位の大半を占めるなどこれまた絶好調。そしてソニーといえばそんな日本企業の中でも圧倒的なブランド力を誇る一つで、高技術・高品質の代表格でした。
そして私もそんなソニーに憧れがあって、初めて買ってもらったミニコンポもソニー、レンタル屋でレコードを借りてはソニーのカセットテープ(HF-Sとか)にせっせと録音するといったソニーユーザーでした。
で、今回なんですが、レコードに限った話で一時期「どうしたソニー?」と言いたくなるようなことがあったことを書いてみようかと。

CBSソニーとエピック・ソニー

昔のソニーは大きく分けてCBSソニーとエピック・ソニーという二つのレーベルを持っていました。この辺りの変遷はアメリカ本社との関係もあってややこしいので割愛しますが、80年代当時はCBSではアース・ウィンド&ファイア、ビリー・ジョエル、ボブ・ディラン、ブルース・スプリングスティーン、TOTO、ジャーニー、クラッシュ、ラヴァーボーイ、G.I.オレンジらを抱え、その後はストーンズまでいました。かたやエピックはマイケル・ジャクソン、シンディ・ローパー、アダム&ジ・アンツ、メン・アット・ワークらの人気者に加え、ベテランのREOスピードワゴンや、デッド・オア・アライヴ、ポール・ヤング、ワム!、シャーデーなどのイギリス勢も多く所属しており、これまた絶好調の洋楽時代を支えたレーベルでした。

80年代後半のソニーの迷走①片面シングル

80年代後半、ソニーは不思議なことを始めます。それは何かというと「片面シングル」。要はA面しか曲が入っていないシングルです。当時の普通のシングルは700円なのに対し、こちらは400円。ということは、実質的な値上げなわけで、原価率は分かりませんが、アーティストへの著作権料も減るわけなのでおそらくソニーの取り分は通常のシングルより多かったのではないでしょうか。

画像はオークフリーより拝借しました。

現物は写真のようにレーベルは同じですがジャケットも黒1色か2色のみでアーティスト写真もなし。いかにも廉価盤的だったので評判も悪かったのでしょう。2,3年くらいで姿を消した記憶があります。
「変なことをやるもんだ」と当時思いました。

80年代末〜90年代前半のソニーの迷走②おかしな邦題

日本のレコード会社による邦題は一連のフランク・ザッパなど定番ネタもありますが、それはあくまで笑える邦題でもあったと思います。が、80年代末のソニーは邦題が明らかに変でした。特に印象に残っているのがバングルス。
88年のアルバム「EVERYTHING」ですが、タイトルからそのまま英語表記。曲はといえばこんな感じ。

なんも言えねぇ。

英語表記そのままもあれば、日本語と英語表記をセットにしたもの、従来型の邦題がチャンポンになっていて、なんともムズムズする。
今回この記事を書くにあたって、なんとこれらの邦題をつけた当時の担当ディレクターのブログを発見。どうやら60年代のアメリカンポップスのエッセンスを入れるためにこのような表記にしたらしく、ご本人はドヤ顔(で書かれたような文章)で語られておりました。
ご本人には申し訳ないですが、はずしてるとしか思えない。日本のアイドルのアルバムの曲名表記みたいで安っぽいし読みにくいし。

最大の被害者、ビリー・ジョエル

この頃のソニーの最大の被害者といえば、マイケル・ジャクソンと並んでソニーの稼ぎ柱であったであろうビリー・ジョエル。ビリーもバングルスと同様の被害プラスアルファで何とも言えないセンスの邦題をつけられています。
かつては「素顔のままで」「街の吟遊詩人は…」「夏、ハイランドフォールズにて」など印象的な名邦題の多いビリーですが、89年のアルバム「STORM FRONT」はバングルス同様、英語表記そのままのタイトルが付けられ、何とも嫌な予感が…。

ビンゴ。

何なんだ

前述の元ディレクターのブログでは発見できませんでしたが、間違いなく同じ方の仕事でしょう。バングルスはまだ「60年代ポップスのイメージ」というエクスキューズがあったとはいえ(その意味も正直よくわからない)、ビリーに関してはそのコンセプトは無関係。おまけに従来型の邦題にしても「ハートにファイア」って…まあ歌詞的にも間違っていないけれど、どうなんですかね。まあビリーの場合は83年の「イノセント・マン」でも「あの娘にアタック」だの「今宵はフォーエヴァー」だの「君はクリスティ」だの微妙なものがありましたが。

ビリーへの被害は続く実質的な最終作93年の「リヴァー・オブ・ドリームス」でも引き継がれてしまいます。今度は英語表記ではなく、単純に変な邦題が付けられていました。
"A Minor Variation"が「憂鬱なバリエーション」はまだ我慢できるとして(なんか変なんですけどね)、"Shades of Grey”は「見えないのは真実」という変な体言止め、最後の大傑作曲と言える"All about Soul"は「君が教えてくれるすべてのこと」という長ったらしい上に意味不明なタイトルが付けられてしまいました。同じように長ったらしいシカゴの「いったい、現実を把握している者はいるのだろうか?」"Does Anybody Really Know What Time It Is?"はまだ直訳だし、当時の混沌としたアメリカの状況に合っていたようにも感じる(そういえば当時のシカゴもCBSソニーだ。ところで"25 or 6 to 4" が「長い夜」で良いのかはいまだに疑問)のでいいのですが、「君が教えてくれるすべてのこと」はもう違和感しかない。で、結局その後シングルカットされてしまい、さすがにこのタイトルではダメだと思ったのか、「オール・アバウト・ソウル」に変えていました。何だったんだ。
一応、このディレクターの擁護もしておきますが、彼は一方でソニー時代のフロイドの邦題も担当しており、そちらは「時空の舞踏」など非常に印象的な邦題もあります。

なお、この「リヴァー・オブ・ドリームス」にはもう一つおまけが。アルバムのライナーノーツを書いたのが何と小田和正氏。当時の小田さんは91年にあの「ラヴストーリーは突然に」の大ヒットを生み、ソロとして本格的な成功を収めた直後。そういうこともあったのかソニーは小田さんにライナーを依頼するわけですが、その内容がまた物議を招いてしまいました。詳細はぜひ現物を読んでいただくとして、簡単にかいつまんで言うと、レコード業界への愚痴を吐きまくる内容だったわけで、そもそもレーベルもソニー所属でもなく(だから好き勝手書いたのかも)、レコード会社とはオフコース時代からいろいろあった彼に依頼すること自体どうかと。音楽的にもバカラックやカーペンターズのようなA&M系のMORや、ボズ・スキャグス、TOTOのようなAOR系と親和性のある小田さんとビリーの接点はありそうで実はあまりない。そもそもそんな彼にわずか3曲しかアドバンス・テープとして渡していなかったというのもイライラした文調に窺えます。

3曲だけ渡されてBilly Joelの新しいアルバムについて書けと言われた。こんなことが、この業界では当たり前のように通用する。引き受ける方も引き受ける方だ。
(中略)
そうこうしているうちに、まだ発表もされてもいない3曲について公に書くのが厭になってきた。

小田和正氏によるライナーノーツより

この後のソニーはといえば、ベン・フォールズ・ファイヴなどを見る限り元に戻った感じもするので、一時的な気の迷いと思ってますが、妙に思い出します。

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