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【インタビュー】団地ノ宮、“いきものたち”が閉じ込められた第1章締めくくるニューAL『ゆうやみずかん』

懐かしく仄かにメランコリックな風景を透明な歌声に乗せて歌う姉妹ユニット・団地ノ宮が、本日12月7日にニューアルバム『ゆうやみずかん』をリリースした。初の全国流通盤かつ「団地ノ宮の第1章〆」と自ら語るニューアルバムは、ピアノのサウンドを主体として美しいハーモニーが折り重なる13曲入り。今回のインタビューでは、ニューアルバムの楽曲や、団地ノ宮の音楽を生み出す琴子・弥子の音楽のルーツについて詳しく語られた。


──ニューアルバム『ゆうやみずかん』、聞かせていただきました。とても良かったです。一番気になったのはおふたりの音楽歴なのですが、これまでどんな形で音楽をやってきましたか?

弥子:音楽を始めたのは完全に両親の影響です。父と母がバンドをやってる人で、地元でちょっと有名でして。父は地元のゆるキャラソングを作ったりもしています。なので、「歌が上手いと父も母も嬉しそう」みたいなことが結構多かったです。お姉ちゃん(琴子)は中学2年生くらいまでヤマハ教室に通い、私は合唱団に入っていました。

──琴子さんはヤマハでは何を?

琴子:エレクトーンですね。

──そんな感じしました。弥子さんは何か習っていましたか?

弥子:特に何かを習ったりは無かったんですけど、一瞬だけ吹奏楽部でパーカッションをやり、早い段階で辞めて、父が音楽監督をやっている地元の青少年セミナーみたいなもののバンド部門に入り、ドラムをやっていました。お姉ちゃんとも一時バンドを組み、今とは方向性の違う音楽をやってたことがあります。小さい時からずっと音楽をやっているから、「いつから音楽をはじめましたか?」って言われるとわからないんです。

──もともと音楽一家で、音楽が普通にある環境で育ったんですね。でも、その中で「団地ノ宮をやろう」と思ったきっかけがあったわけですよね?

弥子:高校2年生くらいの時、姉とやっていたバンドを抜けて、そのバンドも解散してしまい、そのとき初めて自分は「○○ってバンドの弥子です」と言えなくなったんです。何の肩書きも無くなってしまったことに焦り、「歌いたい」ということもあったし、たまや『ガロ』の漫画とつながってるような音楽をやりたくて、「早くやらないと」みたいな気持ちになり、お姉ちゃんに「こういうことをしたいんですけど」と口頭で音楽性を説明して、“お願いだから!”みたいな感じで一緒に(ユニットを)やってもらいました。お姉ちゃんはけっこう「?」って感じだったんですけどね。

──それまではしばらく個々で活動を?

弥子:お姉ちゃんはソロでやったりとかしてたんですけど、なんかつまらんかったんよね。

琴子:うん。ソロでオリジナル弾き語りをしていたのですが、自分の音楽をひとりでやってても、なんかこう、「ちょっと違うなあ」と考えていました。そこを埋めるのが何かっていうのは、(当時の)自分もわかっていなかったです。

──そしてユニットの結成に至ったのですね。

琴子:(弥子に)歌う場所を与えてあげたいという気持ちもあったし、私は自分をプロモーションする才能が無いので、プロデュースもしてくれ、みたいな所はありました。弥子に方向性を作ってもらって、私は音楽の“器”を作っていくのがいいのかなとうっすら思っていたところで、どちらからともなく(ユニットを)結成したという感じです。

──団地ノ宮はどのように作曲されているのでしょうか。

琴子:昔から、私がピアノと歌とコーラスを録音し、弥子に送って、歌詞をつけて返送してもらう……というやり方です。ハーモニーなどは(予め)私の頭の中にあったとしても、とりあえず先に歌詞を考えてもらってから、編曲していく感じですね。

──「この曲はこういう感じに作ろう」というのは事前にすり合わせがあったりするんですか?

弥子:姉からデータが送られて来るとき、たまに仮タイトルがついていることがあります。アルバム『11月3日』の収録曲「ずるやすみ」は「ずるやすみ」というタイトルで来たんですよ。で、「“ずるやすみ”ってすごい入れやすいキーワードだな!」と思って(歌詞を)書いています。全く違うタイトルで来たものもあります。

琴子:「ゆうやみずかん」は、私たちが住んでいた(団地の)棟と、その隣にあった、今は無くなってしまった思い出の公園に対する鎮魂歌のような感じで作ったんですが、(最終的に)その要素は薄れています。

──それでは「3棟の午後」はお住まいになっていた場所からですか?

琴子:3棟に住んでいたわけではないのですが、3棟には3棟の雰囲気があって、それをタイトルにしてくれたのかな。

弥子:お姉ちゃんの断片的な(場所の)イメージがタイトルとしてつけられて送られてくるときもあるのですが、それを聞いた私が別の場所を思い浮かべることもあります。それをくっつけて歌詞にしたりもします。でも、もっと精神世界な部分を書いてる部分もあるから、自分の脳内に残っていることを並べてるだけなんですね。コラージュみたいな感じです。

──そうなると、おふたりの間で「この曲はこうじゃない!」みたいなことは無いのでしょうか?

琴子:全く無いです。歌詞に関しては“超えて”きますね。私はやっぱり器を作っていて、そこにいろいろ入れて貰って(楽曲が)完成しているんだなといつも思います。

──琴子さんが歌詞を書くことは無い?

琴子:ソロの時は詞を書いていて、周りからも好評なのですが、自分の歌詞が好きじゃなくて。弥子の歌詞で埋まる感じが良いです。

──埋め合ってる感じなんですね。声の質も違うじゃないですか。ちょっと甘いのとちょっと真っ直ぐなのと。声質によって歌う場所の割り振りも変えていますか?

琴子:してます。私がパートを分けるんですけど、「ここは絶対に弥子だろ!」「ここは絶対に私だろ!」という所があって。あとは歌いやすさです。私にピアノソロがめっちゃあったりしたら、次の初手は弥子にしてもらおうかな、みたいなこともあります。

──今作でいうと、「この曲ではこの声を聞いてほしい!」みたいなところ、ありますか?

琴子:全部の曲にちょっとずつあるんですけど、「メロディ」の後半、たたみかける所の裏で弥子が歌っている、奥の方で張り上げるようなコーラスがめちゃ好きです。金管楽器っぽいんですよね。それがファンファーレみたいで。そういう弥子の、裏の方で鳴ってる張り上げた声のコーラスを見つけて聴いてもらいたいなって思います。

弥子:ありがとう……。

琴子:(笑)

──弥子さんはありますか?

弥子:「ファクシミリ」かな……お姉ちゃんの声の真っ直ぐさと、私の声の、どうしても気持ちが乗ってしまう揺れ動き方とか。“どうしてここにいるの 走り書きの手紙の~”の所では、お姉ちゃんが私の歌い方に寄せてくれている所があって、ニヤニヤしちゃいました。

──琴子さん、寄せました?

琴子:ここは……寄せたわけじゃなくて、“歌詞”なんですよね。「どうしてここにいるの?」を真っ直ぐ歌うっていう手もあるんですけど、この曲に関しては真っすぐではなかった。私も感情を乗せたほうがより良かったんですね、流れ的にも。結果、寄ったっていう感じ。

──なんか良い話聞きました。今作って、全体を通したテーマはあるのでしょうか。

弥子:実は毎回無いんです。今回「ゆうやみずかん」をタイトル曲にして、1曲目に持ってきたのも、MVを作ったのも、この曲のメロディのキャッチーさで選んだだけみたいなところはあります。毎回「曲がこれくらい溜まって来たからアルバムを作ろう」という考えなんですね。たまたま「夜に近づいていく闇の曲」が多かったので、コンセプトっぽくなってます。「ゆうやみずかん」の歌詞には“おおきないきもの”ってフレーズがいっぱい出てきますが、曲が“いきものたち”であり、“図鑑”に載っているという体だと美しいなと思って、選んだところもあります。

──なるほど、確かに標本集のようなアルバムでした。楽曲に対するストーリー付けはあまり大きくないのですね。

弥子:物語にしている曲もあるかもしれないけれど、瞬間的な風景を歌詞にしていることのほうが多くて。

──そこはたまっぽいですよね。

弥子:私が歌詞を書いて曲を作ってバンドでやってみたいと思ったのが、中学校の美術の授業でジョルジョ・デ・キリコの『通りの神秘と憂愁』を見た時に、「この絵を描いた人、私の脳味噌覗いたことあるのかな?」と思ったことがきっかけなんです。それを音楽でやってる人がいるのかな?と思って、探して見つけたのがたまでした。漫画だと“ナンセンス”というジャンルでシュルレアリスムが描かれていますが、音楽だとたまがそれをやっています。見つけたときには凄く嬉しかったんですよ。「やってる人いるんだ!」と。でも、私はたまになれないから、私なりのノスタルジックやシュルレアリスムに近いものやれるのは、私と同じ風景を見ていたお姉ちゃんなんじゃないかと思いました。

──なるほど、兄弟バンドが多いのもわかります。

弥子:団地に住んでいるとわかるんですけど、団地ってすごく変な場所なんです。「なにこれ?ここどこ?」みたいな。寂しさが満ち満ちていて、人がほとんどの家に住んでいる。これはなんなんだ?みたいな気持ちがあって、それがジョルジョ・デ・キリコの絵とリンクする所があって。海外の街並みのハズなんだけど、見た事ある気がする。それを私たちなりの目線で、お姉ちゃんが書いた曲でやると、新しいものになるんじゃないかという希望があり、(ユニットを)やっている所があります。

──琴子さんもそんな感じですか?

琴子:実際にジョルジョ・デ・キリコの絵を見たら、「ああ……」って思って。私が曲を作るときは写真を見てデモを作ったり、「あのとき団地の敷地内にあった、あの変な石なんだったんだろう?」とか、そういう細かい所から作っていきます。夢の内容から作ることもありますが、団地の夢をすごく見るんですよ。見るよね?

弥子:見る。絶対に(夢の中で)住んでるのが団地なんです。

琴子:当たり前に(団地に)住んでる夢を見て、その夢がジョルジョ・デ・キリコにすごく近いので、「なるほど!」となりました。

──もしかしたら団地暮らしの人に刺さる音楽というのはあるかもしれません。

弥子:タイトルに「3棟」とつけることはあるんですけど、歌詞の中には絶対「団地」を使わないようにしてます。まあユニット名が団地ノ宮だからという所もあるんですが、(団地という単語は)いろんな人のノスタルジーに刺さるはずだと思っています。

──おふたりともたまは好きなんですか?

弥子:私が好きすぎちゃってます。

──団地ノ宮は普通の長調や短調ではなく旋法を多用していますが、由来はあるのでしょうか。

琴子:私がバリバリのクラシックで来ているからです。フォーレとヘンデルが大好きで、それが残っています。知っている音楽は少ない方なんですけど、吸収したのはヘンデルとフォーレですね。最近の方で言うと、新居昭乃さんひとりです。

──ユニット名の由来は団地生まれ・団地育ちだから……で良いんですか?

弥子:そうですね。(ユニット名に)“団地”を使いたいなと思っていて、駅名や地名っぽくしたいという思いで“宮”をつけたんです。“団地ヶ丘”とかも考えたんですけど、団地ノ宮が一番語感が良くて。でも、活動して7年目くらいに「やっぱり(団地は)神聖な場所だから“宮”なの?」って聞かれたときに、それイタダキ!と思いました(笑)

──7年目って、ついこの間じゃないですか(笑)ところで、おふたりが人生で一番影響を受けた「1曲」ってなんですか?

琴子:曲だけだとヘンデルの「ラルゴ」です。昔持ってたカシオのポータブルキーボードに、この曲がプリセットとしてパイプオルガンの音で入っていて、それを聞いた時に「なんだこれは?!」と思いました。そこからすぐに耳コピして、ピアノのレッスンでは練習不足で弾く曲がないときにこの曲を弾きました。美しい中にも狂気を感じて、その影響を今でも受けてます。

弥子:めっちゃ弾いてたな!狂ったように弾いてたな!(笑)

──弥子さんは思いつきましたか?

弥子:たまの「金魚鉢」かな……。

──ちょうど“団地”という歌詞がある曲ですね。

弥子:そうなんですよ。あの曲聴くと、団地ノ宮の曲を聴いて「好き」ってなるときの気持ちとすごく近くて。あの曲ってすごい不思議なんですよね。バンド編成のときのアレンジが、全メンバーずっと最高なんですよ。柳原幼一郎さんのオルガンの音だけが入ってて、ほぼ他が入ってない所とか、石川浩司さんの引き算とか。石川さんのパーカッションって引き算なことが多いから、それが最高だし、滝本晃司さんは全体的に最高です。私が追いかけている風景に一番近いかもしれません。

──団地ノ宮も引き算の音楽ですよね。

弥子:ライブだったらピアノと声だけですが、「ここに1個楽器を足してもいいな……」というときもあるんです。だからこそ石川さんと、憧れの人とホワイトズを組んでもらって、「これだよ!」みたいな部分もあります。音源に関してはお姉ちゃんに任せきっている所もありますが、「もっと引き算して!」と言いがちではあるのかな。

琴子:私はぼやかすのが好きというか……コーラスを重ねたりするのが好きなのですが、その裏のオルガンを削るように弥子に言われて、削ってみたりしています。アルバムで言うと、2曲くらいは「ちょっと減らす?」という相談をしました。

──今作のメインサウンドはピアノですが、打ち込みや電子ピアノですよね?どうして生ピアノではなく電子音を使うのでしょうか?

琴子:平成初期のポータブルキーボードを使っています。最初は特に意識してなかったんですけど、ある方が「団地は電子ピアノ等が禁止されていて、ポータブルキーボードなどで(ピアノを)始めるから、団地ノ宮の音楽を聴くと“団地”を感じるんだ」と書いてくださっているのを見て「確かに!」と思いました。

──なんだかめちゃくちゃ納得しました。なんで生ピアノじゃないんだろう?と思ってたんです。最後に、本作の聴きどころを教えてください。

弥子:情報量が多く、時間軸の移動が多いアルバムなので、通して無理やり聞く必要は無いと思ってます。この曲ってこの時間帯の曲だなと思ったら、その曲を選んで聞いてもらうとか、「バス停だ!」と思ったら「バス停」を聴いてもらうとか、「あ、ここ“ゆうやみずかん”」と思ったら、その時間に「ゆうやみずかん」を聴いてもらうとか……という楽しみ方ができるかなと考えてます。

──風景の中にお花を飾るような聴き方、というか。

弥子:ベストソングだけ聞いてもらったらいいかな、という思いもありますね。選んで聞いてもらうのもアリかな。

琴子:今回のアルバムで、団地ノ宮は第一章〆というか、次回から大きく変わりますので、この雰囲気の曲たちを最後に聞いてくれたらなと思います。

──それでは、3年後くらいのニューアルバムを楽しみにしています(笑)

弥子:みんなで楽しく生きよう(笑)

取材・文:安藤さやか

■団地ノ宮『ゆうやみずかん』
2022年12月7日(水)リリース
価格:¥3,000
[収録曲]
1.ゆうやみずかん
2.3棟の午後
3.ひこうき
4.はてな
5.ファクシミリ
6.ゆうえんち
7.白い風船
8.おいのりの次の日
9.かえりみち
10.反射鏡
11.メロディ
12.バス停
13.アメジスト(ボーナストラック)

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