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【ライブレビュー】鮮烈・壮絶・妖艶・破壊的。カトラ・トゥラーナ!

鮮烈・壮絶・妖艶・破壊的。カトラ・トゥラーナの音楽に抱く第一印象はそれだったし、2時間のライブを観たあとも変わっていない。ついでに「ヴォーカルは絶世の美女」という印象も全く変わっておらず、ステージに立つ広池敦は2022年も本当に美しかった。

7月22日、吉祥寺・Star Pine's Cafeにカトラ・トゥラーナのライブを観に行った。この日は久々リリース(なんと36年ぶり!)のアルバム『REBOOT』のレコ発ライブということで、開演前には「久しぶり~!」と再会を喜ぶファンの姿も多かった。なお、同アルバムには2020年に急逝した三木黄太(チェロ)の音色も収められている。

今回のライブは、チェロに佐藤研二を迎えて開催。佐藤は90年代にマルコシアス・バンプのベーシストとして『イカ天』に出演し、たまとの名(迷?)勝負を繰り広げたミュージシャンでもある。故・三木黄太とはチェロ三重奏団COTUCOTUで共演しており、ステージ上での存在感は流石のものがあった。

「ツリガネムシの唄」で幕を開けたライブは、ニューアルバムの収録曲を中心に鮮やかに進行。広池はアンニュイな空気を纏って耽美な歌声を響かせながら、ロックやシャンソン、タンゴ、中東風の音楽を往復し、中性的なヴォーカルスタイルで魅了する。楽器を持てば飄々と轟音を鳴り渡らせ、物静かな雰囲気から繰り出される鋭い音色で観客を突き刺していく。

カトラ・トゥラーナには「和音楽器が少ない」という特徴がある。今回もキーボードこそいたものの“音楽を印象付けるアクセサリー”としてのイメージが強く、サウンドの中心はバイオリンとチェロ、ベースが担っていた。驚いたのは一般的なギターが使用されず、チャップマン・スティックと呼ばれるタッピング奏法に特化した弦楽器が採用されていたこと。ジャカジャカ鳴らすよりも単音弾きが中心で、最近流行りの「コードにコードを重ねて音圧とする」バンドサウンドとは全く違う理論構成をしている。

しかし、彼らのサウンドは重厚だ。もちろん和声的には厚くなく、むしろ全員が同じメロディを奏でる場面の印象が強いけれど、“薄さ”を感じる瞬間は無い。7拍子、11拍子と激しく変動するリズムにメンバーが喰らい付き、異国風のメロディを歌うヴォーカルに対して堅実なハードロックのリフを返答する場面はさながら“共闘”という様相である。

バイオリンとチェロの使い方も堂々とメインを張っている。弦楽器はクラシック音楽のイメージが強く、楽曲に華やかさや高貴さを“添える”目的で使われがちだが、松井亜由美と佐藤研二の音色は粘りがあって鋭く激しい。特に松井の大地を踏みしめ踊るようなサウンドと音楽の相性は抜群で、ハードロックとバイオリンとの蜜月を感じさせる。

弦楽器の存在により、バンドの音楽は現代音楽的に寄る。それを締め上げる北島妙枝子の躍動的なベースは本人のスタイルと相まって超クール。途中、楽器から手を離してスマホを取り、観客に手を振って撮影していた姿も素敵だ。長沼武司のドラムは激しいながらも緻密で、藤田佐和子・野澤美香の鍵盤楽器は煌びやかな雰囲気を添える。楽器的には低音に偏重気味だが、耳で聞いたときのサウンドのバランスは極めて良いのも面白かった。

よく「宇宙的」と評されるカトラ・トゥラーナの音楽だが、燦然と降り注ぐ金属音やピアノの音色の中で朗々と歌い上げられた旋律は、まるで音楽創造の神話を伝え歌う儀式のよう。均整が取れていながら、どこか奇妙な対位法を持つ「あうのがつらいの」で本編が締めくくられると、優雅さと猥雑さを織り上げた舞踏会の幕が静かに下りたようだった。

アンコールで景気よく歪んだT・レックス「20th Century Boy」のカヴァーが鳴り響くと、なるほどこの分類不可能なバンドはグラムロックなのではないかということに気付く。とはいえ、カトラ・トゥラーナの音楽には“カトラ・トゥラーナの音楽”という名が付けられている。それで十分じゃないか。そんなことを思いながら優美な熱狂と鋭い爆音に身を任せる夜だった。

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