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【ONE PIECE】トラファルガー・ローの能力って作劇の邪魔じゃない?って話

※注:本記事に『ONE PIECE』自体を批判する意図はありません。

最近、『ONE PIECE』をアニメ/漫画の両方で鑑賞しています。自分が生まれた年に連載がスタートした漫画ということで、これまで敬遠してきたものの、終盤に差し掛かりつつある作品をみんなと一緒に楽しみたい、と思って手に取りました。

感想としては「やっぱ文句なしに面白いな」という所。さすが長期連載作品、麦わらの一味に好きなキャラがいないという点を除いてはめちゃくちゃ面白いです。致命的じゃねえか。でもサブキャラは敵味方含めてみんな好きだからやっぱ面白いんですよね。

その中で、ちょっと気になる点がありました。
それは主人公一味と度々行動を共にする常識人キャラ、トラファルガー・ローの能力のこと。
ちなみに、個人的にはローが一番好きなキャラです。見た目がSOUL’d OUTの3人足した感じなので。

彼の能力は作中屈指のチートとして知られる「オペオペの実の改造自在人間」。ざっくりまとめるとこんな感じの能力です。

1.任意の範囲に「ROOM」というドーム状の空間を生成する
2.「ROOM」内で物体の位置を自由に入れ替えられる(つまり瞬間移動)
3.「ROOM」内の物体を自由に動かせる
4.「ROOM」内の物体を自由に切断(刀に触れていなくても切断可能)、人体を生きたままバラバラにして自由にくっつけられる
5.あとついでに電撃とかも出せるが今回のコラムにはあんまり関係ない

つまるところ、「任意に生成した空間内で好き勝手できる能力」です。アホみたいにチートなのですが、作中世界でもチート扱いされているので、そもそもチートとして作られた能力といって良いでしょう。
作中では軍艦や島を丸ごと真っ二つにしていました。何でもアリやな。

ちなみに、この能力は外科手術をモチーフにしているらしいのですが、初っ端の置換能力(瞬間移動)とかでもう「どこが手術?」って感じですよね。
まあでも手術で使うと一瞬で心臓移植ができるってことになるから、手術っちゃ手術か。

さて、そんな能力について、ちょっと気になる点があるのでまとめてみました。

1.強すぎて逆に弱くなってる

この能力、はっきり言って強すぎます。敵の探知外から「ROOM」を発動し、刀を振るえば容易に相手を無力化できます。彼の戦闘はゴリゴリの力押しで大丈夫なはずです。

しかし義理堅いローは敵に正面から挑みます。会話もします。その会話してる間に「ROOM」発動すればよくない?

「ROOM」の発動には条件が要らずハイスピード、しかも限界範囲は島丸ごと覆うほど。一応ポーズと発声を起点としていますが、これはおそらく演出的なもので、どう見てもポーズ取ってない・ROOMを展開していない場面もいくつかあります。

ついでにこの能力、ROOM内のモノを透視することもできるので、敵の探知外からROOMを発動してフィールドごと滅多切りにした後、味方が突入してとどめを刺せば勝てるように思えます。
しかも能力で斬られると痛みも出血も生命機能に問題も無い(下半身のみで元気に歩ける)ので、人質がいても大丈夫。

しかしローは敵に正面から挑みます。作者・尾田栄一郎の作劇流儀として「正面から挑むべし」というのがあるそうなので、メタ的に仕方ないことは重々承知ですが、アニメだとちんたら歩いた挙句に(※尺稼ぎ)敵に追いつかれて重傷を負うシーンがあります。さっさと歩けェ!

チート能力者が出し惜しみで舐めプしがちなのは、演出上の都合が最も大きいでしょう。「探知外から能力発動、何もかも滅多切り」が通ったら作劇も駆け引きも何もありません。

なので作中、「今の勝てただろ!」「今こそ能力使えよ!」が連発するのが気になる所。これは『ジョジョ』5部でリゾット(遠隔地にいる人の体内の鉄分からカミソリやハサミなどを生成できる能力者)が敵になかなかとどめを刺さずにいるときに感じるモヤモヤと近いです。

2.能力の制限自体はあるものの

あまりにもチートなこの能力、一応は制限があります。
まず、好き勝手できるのはROOM内のみである点。ROOMが発動できなければ何もできませんし、範囲外に逃げられると再展開する必要があります。

また、「この能力は使うと体力を消耗、過度な使用で寿命を縮める」という制限もあります。使用者が体力を消耗しきるとROOMの展開ができないことは度々セリフにも表れますし(筆者は未鑑賞ですが2022年の新作映画にもあったそう)、ボコボコにされて能力が発動できないシーンはありました。

ただ、それ以外のシーンではあまりにも制限が緩い。使うたびに息が上がったり倒れたりする程度の描写や、1日の使用回数制限があればわかりやすいのですが、そういう描写はほぼ無し。戦闘時は涼しい顔で能力を連発し、元気いっぱい駆け回ります。ストレートに「今おれは(体力温存のために)戦えない!」という台詞もありますが、頻発するときと出し惜しみするときの違いがよくわかりません。あるとすれば「作劇上の都合が見えるところ」くらい。

そのため、この能力は事実上無制限に見えます。
今後「実はもう能力を使い過ぎて寿命が○年しか残ってないから出し惜しみしてる」みたいな描写が出てくるかもしれませんが、今のところはそれが無いので実質無制限でしょう。「体力消耗設定、ドレスローザ編以外では出て来ないよね」という指摘は私以外からもしばしばあります。

というかワンピース世界の住民は基本的にタフすぎるので、「体力消耗」は何の弱点にもならないような気もします。

3.事実上無制限の物体置換能力は作劇の邪魔

オペオペの実の能力は大変に応用が利くはずなのですが、作中ではあんまり多用されません。
特に物体置換能力は「今が使いどころだろ!」と思う瞬間が多く、たとえば

・負傷した主人公を自分の船に乗せるシーンマリンフォード頂上戦争篇ラスト)
・崩れ行く建物の中からトロッコで逃げるシーン(パンクハザード篇終盤)
・死闘の末に捕縛した人質を目の前で奪い返されたシーン(ペトペトの実のところ)
・目の前で仲間を人質に取られたシーン(モモの助誘拐のところ)

このあたりは体力消耗云々を抜きにして置換能力で何とかなるはずなのですが、なぜか使わないでボーっと見ています。
好意的な考察をすれば「その直前の戦闘で負傷したから体力が足りず、能力を展開できなかった」かもしれないですが、それならそれでセリフとして言うべきでは、と思います。

オペオペの実の置換能力は作劇の邪魔というか、大量の「今こそ能力使うシーンだろ!なんで使わないんだ!」を生み出します。
理由は「制限の無さ」。重量制限や大きさの制限、視覚内に限定するなどの特殊制限もなく、完全に目視外のものを手元に転送したり、目視外の位置に移動するシーンもありました。一応覇気がどうたらの設定はありますが、脱出シーンには覇気関係ないでしょ。

ですが、先に指摘したあたりはストーリーを進める上で置換能力を使われちゃ困る場面。作劇の都合で能力は使えません。結果として相当好意的な解釈をしなければ「何ボケっと見てるんだよお前!」という感じがしてしまうのは、ちょっとなあと思うところ。作劇都合で出力を調整されているのが“見えて”しまうのはメタ的に気になります。
もともと『ONE PIECE』は主人公(と全キャラの耐久性)がバリ強くて他がちょっと弱く見えちゃうところがあるのですが、ローはもっとシンプルに強くて便利なキャラでもいいのでは、と思っています。

4.チート能力者の身の振り方

この「ローの能力、本来もっと使い勝手良いはずなのに弱く見える」という指摘、言葉に出してないだけで多くの人がうっすら抱えている疑問だと思っています。

ただ、ここにはチート能力者を物語に出演させるためのヒントがあります。具体的には以下の3点のどれかを設定すれば、どんなチート能力者を出しても良いのです。

・能力の射程範囲を厳格に設定する
・能力の使用制限を明確に描写する
・能力の限界範囲を明確に提示する

つまるところトラファルガー・ローにおいては、

・能力を使う度に自身が消耗している明確な描写(息が上がる、鼻血が出る等)

・能力が使えない(使わない/都合上使わせたくない)とき、「体力が無くて使えない」という台詞

この2点が毎回あれば、「いま能力使う場面だろ!」というツッコミが大幅に減るはず。このあたりがゆるいので、私みたいな考察厨には「なんでいま能力使わなかったの?」が気になって仕方ありません。そして、その答えは「作劇上の都合」しか思い当たらない。「なるほど、このタイミングで使うのか!」があんまり無くて、「何故このタイミングで使わないんだ?!」は結構ある。こういう部分は悪い意味でのご都合設定だと思います。

それでも『ONE PIECE』は面白いので、文句はありません。ローのチート能力も本人が不殺主義に近いので、戦闘時においてはまあまあ説得力があります。
それにローがファンにも制作にも人気あるのは、「舞台装置として上手いこと各勢力に話をまわしてくれる」所でしょう。作劇上の都合で弱体化されてるような気がするのに、ワープ能力と世話焼き苦労人真面目キャラのお陰でローがいるとストーリーと場面転換が良い感じのテンポで進むからめっちゃ便利。つまりこのキャラ、能力は作劇の都合でナーフされがちなのに、存在は作劇の都合で優遇されがちという珍しい存在だと思います。

ただ、やっぱりチート能力はチート能力なのでシナリオライターは整合性に悩むらしく、映画『ONE PIECE STAMPEDE』の時は能力頻発させない言い訳のためか初っ端から立てないレベルの大ケガスタートだったのは笑いました。みんなボロボロになっていくのに何でおまえだけ少しずつ回復していってるんだトラ男。明らかに最初より元気になってるじゃねえかトラ男。そういう所が愛されてるんだろうなと思います。たぶん。


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