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【2022年夏最新版】SOUL’d OUT怪文章【今更語るVOODOO KINGDOM】

オタクに優しいギャルは実在しないと言われているが、オタクに優しいラップグループは存在する。それがSOUL’d OUTだ。

「ネットには年1くらいでSOUL’d OUTにまつわる怪文章がアップされる」──実しやかに囁かれている噂だが、この文章を書いている私はこれまで数年ごとに別名義を使ってSOUL’d OUTにまつわる怪文章を書き散らしてはネットの海に放流している。つまり、フタを開けてみたら5人くらいが怪文章をローテーションしているだけなのかもしれないのである。それでも十分多いけどさ。

オタクはSOUL’d OUTが大好きだ。数ヵ月前にも「sold out(売り切れ)」と「SOUL’d OUT(違う次元のformula)」の無邪気なスペルミスをきっかけに、Twitterが一日中ア アラララァ ア アァしていた。
ちなみにこのスペルミスだが、実をいうと2022年6月に話題となる前から結構よくツイートされてたりする。

どうしてオタクがSOUL’d OUT好きかって、そりゃもうわかりきった話である。歌詞にわざわざ「アッ オウ アッオウ アッ」「アン アン アン」とカタカナで書き、歌い出しでは自分たちのことを「おでましだS.O 超 Bad」なんかと自己紹介するような社会人としてキッチリしている礼儀正しいグループが嫌われるわけない。

それにまあ、何言ってんだって話ではあるのだが、SOUL’d OUTってなんというか、自宅では珈琲豆を焙煎してじっくり淹れてるけど、安い缶コーヒーも美味しく飲んでるし、差し入れで缶コーヒーを貰ったら「これ美味しいよね」って言ってるようなタイプの音楽をやっていると思うんだ。ホントに何言ってるんだろうね。

しかし、今思えば彼らがデビューした2003年頃というのは、主に某掲示板で日本語ラップがおちょくられまくっていた時代。「日本人ラッパーってすぐ誰かに感謝するよなwwww」みたいな書き込みをいっぱい見た覚えがある。言うほど感謝してるか?

そんな中でネット民に愛されまくり、ちょっとでも名前を出そうものならみんなが一斉に半角カタカナでしゃべり出すSOUL’d OUTは異質な存在と言えるだろう。いやまあSOUL’d OUTはどの時代に聴いても異質だし、「S.O.は時代が追いついてなかったけど、今が旬だと思う」なんてコメントは毎年各SNSに書き込まれているのだが。なんだか雨が降るまで続く雨乞いみたいである。

しかしまあ、SOUL’d OUTが本格的にオタクに好かれたのは名曲「VOODOO KINGDOM」の存在がデカいと思う。いろんな意味で伝説となっている映画『ジョジョの奇妙な冒険 ファントムブラッド』(ソフト化されてないのでマジモンの“伝説”作)の主題歌であるこの曲は、一言で言えば“最強”。全方位に隙が無い理想的なキャラソンで、これを出されちゃファンになるしか無いような作品なのである。

1.詞の解像度がヤバイ

まず、「VOODOO KINGDOM」は歌詞の解像度がヤバい。この曲は『ジョジョの奇妙な冒険』という大河ドラマ的作品の中で世界各地に迷惑をかけまくった男ことディオ・ブランドーの視点で作られているのだが、あまりにもキャラへの理解が深く、聴けば聴くほど「すげえ!」としか言いようが無いのである。

しかも、この曲で描かれているのはおそらく「作中で描かれているそのままの表面的なディオの姿」ではなく、「ガチのファンが脳内補完して作り上げた理想的なディオの姿」だと思う。

実際のディオは子安武人のゴキゲンな演技がよく似合う、テンポよく名言を連発する謎テンションのキャラなのだが、「VOODOO KINGDOM」で描かれているディオは大仰かつ尊大、ナルシストで優雅、そして泥臭くも気品があってめちゃめちゃカッコいい。
その表現は決して美化しているわけではなく、作中で何度も語られる「ディオのカリスマ性」に焦点を当て、1部のみならず3部以降をも含めてガッツリ読み込んでアウトプットしてるんだから恐れ入る。

単語ひとつひとつにしても「ディオらしくない表現」が存在せず、その上“SADISTICな愛に支配されて”なんていう「そう解釈するか~!」「確かに一理ある!」って表現が出てくるんだから、もうこの歌詞自体が立派な評論文として機能しちゃってる。

こういうものは一朝一夕のニワカ知識では作れない。考察センスが光るファンが真剣に組み立てなければこうはいかない。そんな作り手の“ガチ”さはファンが聴けばすぐにわかる

なんとなくの作品のイメージを網羅したイメソンではなく、『ジョジョ』のためだけに徹底的に作り込まれたキャラソン。こういった曲を作るグループは、『ジョジョ』のファンのみならず愛する作品を持つ全ての人に愛される。

2.バッキバキの楽曲構成

楽曲構成もバッキバキだ。正直、19世紀のロンドンを舞台とするジョジョ1部と、1960~70年代生まれのラップという音楽ジャンルが合うと思っていた人はあんまりいなかったと思う。

そのあたりのハードルを、SOUL’d OUTはやすやすと越えてくる。「VOODOO KINGDOM」は、彼らの他作品より多めに“歌っている”楽曲だ。つまりこの曲は歌メロの部分が多く、ラップに拒絶感や疑問を持つ人でも聴きやすい構成となっている。

冒頭で語りを入れるのも、ラップに流れ込んだ際の違和感を消してくれる。“堂々巡る歳月”以降はお得意の高速ラップが披露されるが、アクセント的に入るコーラスやバックトラックの引き算、単語自体が持つリズム感の緩急が巧みで、一瞬たりとも隙が無い。

つまるところ、この曲は何だかんだ言ってとにかく聴きやすい。サウンド面でもシンプルなピアノリフにハンドクラップや渦巻くコーラス、荘厳さを添えるストリングス、ヘヴィメタル風の重いギターサウンドが混ざってバランスが良く、普遍性もあって時代を感じさせない。

それでいながら、この曲は個性的でもある。“Here's a taste of tha remedy (Yeah!)”“Got it?!(Got it) Got it?!(Yes, I got it)”の掛け合い部分なんて絶品だ。優雅さを感じさせるイントロやダークな1st verseを超え、一気に野蛮な空気を纏ってテンションをぶち上げる。

聴く者を選ばない王道的な楽曲構成の中、「こう来るか!」と舌を巻くトリッキーな部分は、ビッタビタに音楽好きのツボをついてくる。こういう所があるから、SOUL’d OUTは普段どんな音楽を聴いている人でもナチュラルに愛せるんだと思う。

3.アニソンっぽさが薄い

しかし最もヤバいのは、この曲が優れたキャラソンでありながら、パロディっぽさが薄い所だろう。

『ジョジョの奇妙な冒険』は全体的に演劇的というか、シェイクスピア劇のように大仰なセリフ回しが特徴の作品。セリフや象徴的なオブジェクトをそのまんま歌詞として入れ込むことは容易く、アニメ版『ジョジョ』の各OPは本編の要素をこれでもかと盛りこんでいる。“震えるほど心 燃え尽きるほど熱く”って歌詞、ヤバくない?

対して「VOODOO KINGDOM」の歌詞には、『ジョジョ』本編からの直接引用部分がほとんど無い。一応ジョジョ1部を象徴する単語、たとえば「血統」「Vampire」「仮面」「霧の都」等はあるが、これらはどれも一般名詞。一応「WRYYY(劇中でディオが度々上げる奇声)」と言っているように聴こえる部分もあるのだが、律儀なSOUL’d OUTにしては珍しく歌詞外であり、「刻まれたSTAR ON THA NECK」が最もストレートな表現だが、それ以外は意外と見つからない。

つまりこの曲、フラットに見るとけっこう抽象的な作品なのである。
こうすることで『ジョジョ』を全く知らない人でも楽曲を楽しめるのはもちろん、元ネタがあることを知っても普通に聴ける。元ネタに対する“ガチ度”がわからなければ、この曲に登場する表現はおしなべて「なんか知らんけどジョジョって漫画をイメージしてるっぽい」程度のものなのだ。

対して、この曲を聴いた『ジョジョ』のファンは「なんという作り込み!ジョジョらしさで全てが構成されている!」と驚嘆する。このバランス感覚って最強だと思う。こんな曲聴いたら他の曲も聞いてみたくなっちゃうもん。

そしてそんなオタクのために、これまた『ジョジョ』に出てくるアイテムをモチーフとした「Magenta Magenta」という名曲があって、2段構えでオトされる。MVでもパロディしまくりだ。

さらに注目すべき部分は、「VOODOO KINGDOM」の歌詞の約半分が英語で書かれていること。これはSOUL’d OUT全体としての傾向でもあるのだが、「VOODOO KINGDOM」ではファンが英語部分を「ジョジョっぽいワードチョイス」で翻訳して楽しんでいる。全部が日本語の詞だったらこういう楽しみ方は無かっただろう。この特徴により、楽曲はさらに「高精度なキャラソン」になっている。あまりにヤバい。

4.アーティストの「入口」として最高の曲

「VOODOO KINGDOM」を入り口にSOUL’d OUTに出会った人はたくさんいると思う。私も最初に聴いた時には衝撃を受けた。何にびっくりしたかって、この曲があまりに“アニソンっぽくない”所だ。

「なんかこの『VOODOO KINGDOM』って曲めっちゃカッコいいんだけど誰の曲? 歌詞どんな感じなんだろ?」

「調べてみるか。ふ~んカッコいい、英語部分の意味は?」

「えっ、これめっちゃ『ジョジョ』じゃん!どういうこと?」

「ほかの曲も聞いてみよう……えっ、この曲も『ジョジョ』?!」

……とまあ、こんな感じである。

しかも、SOUL’d OUTは他邦楽アーティストと比べて(良い意味で)歌詞が聞き取れない方なので、「カッコいいラップだなあ、なんて言ってるんだろ……えっ?!めっちゃ『ジョジョ』じゃん?!」といった「ワンクッション置いた衝撃」がある。

これがなんというか、カタルシスを感じる部分なのだ。ただ聴くだけでは、流行りのユニットのタイアップソング。しかし細かく聞けば聴くほど隅々まで『ジョジョ』。気付いた時の感動は圧倒的で、聴き込むほどに気持ちいい。

「VOODOO KINGDOM」が名曲たる所以は、この曲がSOUL'd OUTの良い所を全部詰め込んだ作品という所だろう。卓抜した音楽性、元ネタを誠実にリスペクトする姿勢、語彙力豊富で“魅せる”高速ラップ、驚異的なサウンドセンス。好きになっちゃうよマジで。脱帽だ。

この曲を入り口にSOUL’d OUTに入って行って、他の曲を聴いていっても、大きくイメージが変わらない所も凄い。カッコいいんだかダサいんだかの絶妙なライン上を反復横跳びする80年代洋楽風トラックに、コッテリした味わいの歌詞表現、それを音として聴いた時の快楽、幅広い知識と語彙力と音楽センスが完璧に噛み合って生まれる広大で緻密な世界観。いつ聴いても斬新で、信じられないくらい耳に残る。

そんな超絶クオリティとキリっとしたアーティスト性の割に、親友みたいな距離感で愛せて、歌詞と絡めてなんかウマいこと言いたくなるのがSOUL'd OUTの不思議なところ。どんなに時が経っても、再評価されても、SOUL'd OUTと聞いた途端にみんなが涼しい顔して半角カタカナでしゃべり出すこの“愛され方”だけは変わんないんだろうなという確信がある。それってとっても凄いことだ。

ちなみに、これだけ長文書いて「VOODOO KINGDOM」について語っておいてアレだが、筆者の一番好きな曲は「ルル・ベル」です。
ア アラララァ ア アァ。(敬具)

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