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「サクラノ詩」プレイから6年半後の感想・思い出を語る

2015年11月1日

私は「サクラノ詩」をプレイし終わった。




今年の冬に続編である「サクラノ刻」が発売されるということなので、すかぢ作品との出会いからサクラノ詩まで語っていこう。特に大きなネタバレはしていない。

過去を振り返り、大体の時期が分かるものは書いた。当時私はTwitterやブログはやっていなかったが、友人に毎週送りつけていた怪文書のデータ(約1MB)や、プレイ中のスクリーンショットを掘り起こし、時系列順に語っていく。
ゲームデータを保存していたHDD我物故割れたので、再プレイは叶わなかった。いや、ディスクはあるから再インストールすればいいんだけど、セーブデータもないし……。大変だし……。
というわけでスクショとテキストで当時の記憶を蘇らせる……、考古学かな。


2014年4月1日

サクラノ詩の公式サイトが立ち上がる。2014年冬発売予定とのことだった。
当時私は美少女ゲームにあまり詳しくなかったが、どうやら発表以来長いこと出てない作品らしい。
サクラノ詩の当時の状況については以下のブログが詳しい。


さて、サクラノ詩は「H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-」と関連した作品ということらしいが、この作品は知ってる。H2Oのアニメは見たぞ。OPが良かったし、結構面白かった記憶がある。最終話ラスト5分の記憶がないが、いい感じの作品だったと記憶している。

シナリオはSCA-自(すかぢ)という人。この人もなんか聞いたことあるぞ。あ、あれだ! 「えびてん 公立海老栖川高校天悶部」の原作の人じゃん。アニメえびてんはあまりにも独特な魅力があって、なぜか原作漫画を全巻購入してしまった。アニメ版はOP曲以外の記憶がないが、漫画は結構面白かったと記憶している。
原作がすかぢさん、漫画が狗神煌さん。小説版もある。4巻のオビには「本当の「えびてん」はココから始まる!」と書いているが、続刊は出ていない。また、2巻の巻末ページでは、狗神煌さんが描く世界地図が見れる。サクラノ詩の草薙直哉の世界地図に匹敵するすごい地図なので必見。
(ちなみに本作の登場人物は著名な哲学者から来ている。後に戸田山和久や野矢茂樹の本を読むことになることを当時の私は知らない)

こういった不思議な縁もあり、美少女ゲームでもすかぢさんの作品を追っていこうとする。


2014年4月

素晴らしき日々(後述)の体験版をプレイ。なるほど、女の子同士の作品なんだな。


2014年5月

当初の予定では「H2O」「√after and another」「サクラノ詩」の三部作になっているということで、先にプレイしておくかーと思った、美少女ゲーム版「H2O -FOOTPRINTS IN THE SAND-」をプレイ。
へぇ、結構いいじゃん……うん……?
アニメと内容違ぇじゃねーか!!!!

当時の私は、「エンディングソングの音量がでかい。」と苦言を呈していたが、それ以外は良好だったと思われる。この当時はまだプレイ中にスクショを撮る文化がなかったので、特に画像はなし。ごめん。
この作品にはサクラノ詩の面々も出てくるっちゃ出てくるが、デザインや性格も少し異なる。そこら辺の考察は避けておく。


2014年6月

終ノ空を偶然発見したので購入&プレイ。非常に独特なテイストの作品で当時の私は衝撃を受けていた模様。電波、という言葉にハマっていたのもこの頃。


2014年8月

素晴らしき日々をプレイ。なんだかすかぢ作品ばっかりプレイしてる気がするが、それは私がミスタードーナツで期間限定商品を絶対買わないレベルの保守派の急先鋒だからだ。知らないメーカーの作品やるのを恐れていたのだ……ケロQ・枕とLump of Sugarの作品以外プレイするのが怖かったのだ……。

ともかく、素晴らしき日々をプレイした。
へぇ、結構いいじゃん……うん……?
体験版と内容違ぇじゃねーか!!!!

百合だと思ってプレイしたら泣くぞこれ!

素晴らしき日々については一言コメント以上のことを語っていこう。名作と呼ばれる美少女ゲームはアニメ化したり、家庭用ゲーム機に移植されたり、全年齢向けに展開されることが多い。Fateしかり、クロスチャンネルしかり。素晴らしき日々はそれらと並び立つ名作ではあるが、全年齢版が出ていない。それは18禁要素がシナリオと密接に結びついているからと言ってもよいだろう。18禁作品でしか味わえない感覚、それが素晴らしき日々の魅力だ。
本作は百合から始まり、幻想的、サイコサスペンス、ミステリー、電波、鬱、兄妹愛、厨二病、哲学と、色んな要素が結合し、一言で言い切ることができない作品となっている。


2015年3月

素晴らしき日々の2周目をプレイした。
私は人生で初めて物語で泣いた。
2章の最後で、間宮様が希実香を追って飛んで抱きしめたシーンで泣いた。びっくりした。泣く時って泣こうと思って泣くんじゃなくて、急に涙が出てくるんだね。びっくりした。
泣くと眼鏡のレンズが涙の跡で汚れるんだね。知らなかった。

私は素晴らしき日々を一回完走しているので、間宮様がどういう人物か知っている。その間宮様が、あの行為に到った。それがなによりの感動を呼び起こしたのだろう。私の人生に刻まれる鮮烈な体験だった。


2015年3月25日

サクラノ詩のOPが公開された。
公式でのアナウンスに先立って、げっちゅ屋のサイトで.mpgファイルのDLリンクが公開された。私はそれを見て、17時37分に友人宛に怪文書を送信したが、これはかなり早く気づいたと思われる。
Twitterで「サクラノ詩 オープニング」等で検索すると、最も早く言及しているこの方でも17時59分だった。

もちろん、当時の私のようにSNSをやっていないタイプの変態は確実にいるので断言は避けるが、私は人類史上かなり早い段階でサクラノ詩のOPを見た可能性がある。
ちなみにげっちゅ屋で先に公開されたのは店舗用のムービーだ。5月に公開された公式OPムービーとは1分10秒あたりの桜の演出が異なっている。


2015年3月27日

サクラノ詩予約開始。発売予定は7月24日。公式Twitterで予約開始の宣伝ツイートがなかったが、とりあえず店舗に行くと予約できた。しかし、この予約券は長く財布の中で封印されることになる……。
当時私は二つ折りの財布を使っていたが、真の発売日には予約券の文字が擦れて消えかかっていた。デキる大人が長財布を使う意味がわかった。


2015年6月

発売1ヶ月前になってスクリプターを募集。
当然のように発売日延期、2015年9月25日へ。


2015年7月15日

待望の体験版が公開された。
葬式のシーンから始まり主人公が男友達と話している。美少女ゲームは美少女が出てくるゲームだが、だからこそ男キャラが重要である。ヒロインよりも先に男のCGが映る美少女ゲームは良作が多い(要検証)。

そして彼らの発言がなんというか、謎めいているというか、当人同士はわかっているが、こちらには隠しながら話している。
こういうの、好き。
物語の世界にプレイヤーである私は不要、あくまでも私は傍観者である。その世界のキャラクターはその世界の常識がある。私のことは無視してキャラクター達が普通に会話をして欲しい。「置いてけぼり感」が好きだ。

2章までプレイできた。それ自体が1つの作品と言っていいくらいの満足感。そして、長い……。12時間もかかった。体験版だぞ? ミドルプライスのゲーム並みにボリュームあるじゃねーか。
私がプレイした体験版のうち、時間を計っていたものが225本あるが、その平均プレイ時間が2時間12分だ。サクラノ詩は最も長い。偏差値にすると118だ。東大生も裸足で逃げ出す。

その後、当たり前のように1ヶ月発売延期し、9月からカウントダウンボイスが始まる。美少女ゲームの恒例行事、発売前カウントダウンボイスは結構面白い。軽妙な掛け合いである事ない事言いまくる。楽しみに聞いていた。


2015年10月17日

カウントダウンボイス6日前を長山香奈が担当する。
誰だよ!
12時間あった体験版にも、公式サイトにも出てこねぇぞ。しかも声は小倉結衣さんじゃん。もしかして結構重要なキャラなのか……。


2015年10月23日

ついに発売を迎えた。2014年冬がようやくやってきた。
当時の私はまだ1年ちょっとのにわか美少女ゲーマーだが、それでも待っていた。

サクラノ詩をプレイする前準備として、私は2ChMateをアンインストールした。YouTubeやTwitter(当時アカウントは持っていなかったが、ブラウザで見ていた)へのアクセスもやめた。どうしてもネタバレの可能性を少なくしたかったのである。
そうして10日間、50時間かけてプレイした。


2015年11月1日

私は「サクラノ詩」をプレイし終わった。当時の私はこう評している。

面白いゲームは感想を書く気が無くなる。
(中略)
さて、「サクラノ詩」の感想である。

最低の感想だ。
「面白かった。お前らもやれ」
以上だ。

サクラノ詩は面白いよ。
普通の、普通の作品だった。
本当に面白かった。

当時の私の怪文書より

完全に思考停止している。自分にとって信頼できるレビュアーの「みんなやってくれ」という言葉こそがネタバレを避けた最良のレビューであるというのは、当時も今も変わらない信念だが、自分が言うと気持ち悪い。
流石にこれじゃあどうしようもないので、今の私が代弁してみよう。

長山香奈というキャラクターが良かった。数少ないプレイヤー目線で、性格が……、うん、性格が悪いというか、ねじれてる。

メインヒロインではなく、いわゆるサブキャラクター

一般的な美少女ゲームはいかにしてヒロインの感触を良くしようかと追求するところがあるが、その逆。感じが悪い。
しかし、ただの悪人というわけではない。天才が多いサクラノ詩の中で、審美眼のみ優れた凡人の立場は厳しい。本物が分かり、努力をするもその領域までは届かない。そりゃ捻くれる。だからこそ等身大で、なんとなく気持ちがわかり、そして気持ち悪い。
つまりめちゃくちゃ好き。

そしてそれに魂を吹き込むのが小倉結衣さん。この人もすごい。
小倉結衣さんが演じる性格の悪いキャラってものすごく良い。媚びた声の中に、人を小馬鹿にしつつも、ある種の諦観を感じさせる。魂を込めると言うが、その魂が2乗3乗と、とんでもない大きさになっている。
後に「ひこうき雲の向こう側」で演じた埠島杏を見て確信に変わったが、小倉結衣さんが演じる性格の悪いキャラってものすごく良い。
(別にこれは小倉結衣さん御本人の性格が悪いとか、心に病を持ってるとか言いたいわけではないことは断言しておく。YouTube等でお声を聞く限りとても優しく素晴らしい方であると思われる)

ちなみに2021年9月12日の歩サラさんのYouTubeに小倉結衣さんが出演した時、すかぢさんとの思い出を語っている(1:38:30頃からのメールと併せてファンは必見)。


さて、サクラノ詩は面白かったが、素晴らしき日々ほどの感動はなかったのもまた事実として抑えておきたい。いや、めちゃくちゃ面白かった。でも泣いてないのよ私。素晴らしき日々の時と違って。作品と作品を比べるのはどうかと思うが、高評価をつけつつも、どこか物足りなさを感じていた。

今になって分かるが、当時の私は行動主義心理学的なものに囚われていたように思う。作品に触れた時の感情という言い表せないモノより、私自身の身体反応を見ることによって物語の面白さを定量化しようとしていた。物語で泣くことこそ、物語の良さのバロメーターと考えていたようだ。
素晴らしき日々で泣いたことがどれほど大きかったことか。



そこからしばらくして、私は友人に勧められた「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」という映画を見た。美少女ゲームから離れるが、結構重要なお話になるので聞いていただきたい。

本作は妻をなくした主人公が、妻がいなくなった事実と向き合うお話。
妻を亡くしても主人公はいつも通り暮らしていた。周りの人々はその様子を強がっているだけかと思っていたが、次第に本当に悲しんでいない主人公を不審に思う。主人公は主人公で、色んなものが気になるようになる。出て来ない自販機、冷蔵庫、工事現場など……。
原題は「Demolition」。破壊・取り壊しという意味だ。いろんなものを解体していき、主人公が向かう先は……。
という映画で、見終わった瞬間はそこまで面白く感じなかった。まあまあかな。普通かなぁ。

1ヶ月後、私は「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」を思い出した。
2ヶ月後、私は「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」を思い出した。
3ヶ月後、私は「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」を思い出した。

そして数年経った今も覚えている。「雨の日は会えない、晴れた日は君を想う」はまさしく良作だ。
なるほど。原題に比べて邦題が変だなと思っていたが、これ最高だな。うん。たしかに雨の日は会えないし、晴れた日はこの映画のことを思い出す。雲ひとつない強い日照りの日は思い出すようになってしまった。そうか、そういう物語なんだな。これは毒だ。遅効性の毒だ。スリップダメージを食らうように、じわじわと心の側方に居座っていやがる。



そして私は、プレイ数年後になってサクラノ詩も同様の作品であるとわかった。覚えているのだ、セリフの端々を! 数年経っても!
プレイ中はあんまり印象になかったはずの若田と健一郎の話が!
なんで美少女ゲームなのにおっさんの会話がリフレインするんだよ!!

こういった言葉を思い出す。私はあまり酒を嗜まない人間だが、たまに飲むと思い出す(その時アルコール度数 4%のお酒しか飲んでないのがちょっと悲しい)。

プレイ後数年になってようやく効いてくる。サクラノ詩は良い作品だとわかる。長山香奈はめちゃいいキャラだし、おっさん達もいいキャラだ。

こうして考えてみると、日めくりカレンダーの人生訓みたいに作品を消費しているな~と自己嫌悪に陥りかけたが、そうではない。
やはり物語の文脈で使われた文章だからこそ印象に残っているんだろう。スクリーンショットで文章をピックアップしたが、それにはそれ以前・以降の物語が付随してくる。網の一部を摘んで引っ張ったら、それを中心にして周囲が持ち上がるように。

サクラノ詩は遅効性の毒だ。プレイ数年後に効いてくる毒だ。

なるほど、思い出す回数を記録することによって面白さを定量化できるかもしれないな。かつて涙の量で面白さを表現しようとしていた私と同じことかもしれないが、面白いかもしれない。
その尺度で評価するなら、サクラノ詩は相当上位に来そうだな。



その後私は美少女ゲームから少し離れたり、百合厨になったり、まあ、いろいろあったが、舞い戻ってきた。こうやってネットで文章を書くようになった。

さて、続編がある。「サクラノ刻」という、サクラノ詩発売前から匂わされてたアレだ。
ついに体験版も出て、発売日も決まった。2022年11月25日だ。11月ってことは、2022年冬ってことだ。発売日が2022年冬ってことは、どういうことだ?

真の発売日がいつかは置いておくとして、サクラノ刻の体験版はやってない。どうせ本編やるし。
美少女ゲームの体験版大好き人間としては、体験版やりたい気持ちもあるけど、まあ、あえて触らないのもありかな~なんて思っている。

……というのが私とサクラノ詩についてのお話である。自分語りが過ぎたが、こういうコラムもまあよいだろう。あらすじとか、キャラクターxx点・シナリオyy点のようなレビューは他の方を参考にされたし。


サムネイル画像はOPムービーから


あれ、私もしかして√after and anotherプレイしてなくね?

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