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盛岡市紺屋町の14階建てマンション建設計画に対する懸念

盛岡市紺屋町に建設予定の14階建てマンション、レーベン盛岡紺屋町に関しては、既にいろいろな情報が出されているようですが、概要をざっとつかむことができるサイトは今のところないようですので、こちらにまとめたいと思います。なお、私は盛岡市の河南地区(中津川南側の紺屋町を含むエリア)に居住しており、建設予定のマンションは徒歩圏内にあります。2024年2月9日の住民説明会には参加していないため、その内容は主に伝聞に基づいていますが、なるべく正確なニュアンスが伝わるように記載しているつもりです。もし事実誤認や補足等があれば、遠慮なく私(https://twitter.com/n_koid)までご連絡をいただければ幸いです。


1.何が起きているの?

2024年2月9日(金)に、アイーナでマンション建築計画に関する住民説明会がありました。これによると、盛岡市紺屋町にあった旧菊の司跡地に14階建てのマンションを建設する予定があり、2月1日から着工予定であったが、施工業者が決定していないため、現在はまだ未着工だとのことでした。

赤丸がマンション建設予定地(旧菊の司跡地)です(出典:Googleマップ)

説明会で配布された建築計画については、以下のリンクから見られます。これは、私が説明会出席者から提供していただいたもので、問題はないとのことでしたので公開します。

また、建築計画については、以下の通りです。「高さ43m」が気になるところです。

マンション完成後のイメージ図については、nyororoさんが以下のようなものを作成してくださっています。実際の見え方とは多少違う可能性がありますが、14階建てのマンションが周囲と比較してどれくらいの大きさに見えるかの目安にはなると思います。タカラレーベンさんから提供された図があれば良いのですが、説明会でも配布されず、周囲の状況と合わせたパースは見せてもらえなかったようです。正確を期すためにも、タカラレーベンさんには、ぜひパースを公開していただきたいと思います。

ちなみに、以前の様子は以下のとおりです。「菊の司」の看板がある建物が現在更地になっており、そこに上のような巨大な建物が建つイメージです。

また、説明会で示された図では、マンションの色は盛岡市内のタカラレーベンと同様の黒色だと聞いています。白系統の建物が多い紺屋町との調和については気になるところです。

2.何が問題なの?


2.1 景観への悪影響

マンション建設予定の盛岡市紺屋町は、盛岡市景観計画の「景観計画の区域と方針」において、「歴史的な街路」「中津川」に該当するように思われます。

盛岡市景観計画
https://www.city.morioka.iwate.jp/shisei/toshiseibi/toshikeikan/1010226/index.html

ここで、「歴史的な街路」の方針としては、以下のように記載されています。

位置:寺社や旧城下町の風情を残す歴史的まち並みとの関係を十分に意識し,建築物,工作物及び 屋外広告物等(以下「建築物等」という。)の位置,規模,形態,意匠,色彩及び素材につい ては,歴史的景観と調和するよう配慮すること。

高さ :歴史的なまち並みを継承するため,建築物等の高さを低層に抑える配慮をすること。

形態・意匠 :
・屋根,軒及び壁面の位置,形態及び意匠等に和風の共通性のあるまち並みでは,これらを継承し,屋根,軒及び壁面の連担性に配慮すること。
・建築物の形態及び意匠については,極力,和風の二段屋根とするよう配慮すること。

https://www.city.morioka.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/010/228/gairo-rekisi-2.pdf

また、「中津川」については、以下のように記載されています。

高さ:
・河川の対岸から見たときに,建築物等が河川の景観に対し圧迫感を与えないよう,対岸から見たときの仰角による建築物等の高さ及び河川に面する側の建築物の配置,形態,意匠並びに色彩等について配慮すること。
・建築物等の高さについては,各橋上からの愛宕山や南昌山等,周囲の山並み眺望への影響を踏まえて計画すること。

https://www.city.morioka.iwate.jp/_res/projects/default_project/_page_/001/010/228/kasen-nakatu-2.pdf

今回のマンションの建設計画は14階建てとなっており、「建築物等の高さを低層に抑える配慮をすること」「建築物等が河川の景観に対し圧迫感を与えないよう、対岸から見たときの仰角による建築物等の高さ及び河川に面する側の建築物の配置,形態,意匠並びに色彩等について配慮すること」「屋根,軒及び壁面の位置,形態及び意匠等に和風の共通性のあるまち並みでは,これらを継承し,屋根,軒及び壁面の連担性に配慮すること」等に該当するかどうかについては疑問が残ります。

ニューヨークタイムズの「2023年に行くべき52か所」では、盛岡市に歴史的な街並みや個人商店が多く残る点が高く評価されましたが、紺屋町は、江戸時代後期から残る建築物「ござ九」があるなど、その中でも中心的な地域の一つです。今回のマンションが建築されると、このような街並みが大きく変化することになり、後述するように、周囲の店舗にも影響があることが危惧されます。

2.2 環境への悪影響

紺屋町における、ほとんどの建築物は2~5階建て程度なので、14階建てのマンションが建築されると、もちろん、日照には大きな影響があります(日照条件の詳細については、前述した説明会の配布資料に記載があります。

今回のマンションで新たに陰になるエリアには、推定樹齢118年で盛岡市景観重要樹木にも指定されている「大イチョウ」が含まれています。この大イチョウは1973年に道路拡張工事の際、市民の声により伐採の危機を乗り越えたものですが、マンション建築による悪影響が生じないかどうかについてはまったく疑問がないわけではありません。大イチョウについては、以下のNHKの記事が参考になります。

また、県の環境保全基準でも、中津川周辺は「保全区分A」とされていますし、通常の建築物と同様に、水質その他の環境への影響は一定程度生じる可能性があります。サケが遡上する街としてアピールしている中津川周辺への影響が気になるところです。

2.3  紺屋町の周囲の建築物・店舗の営業への影響

旧菊の司跡地の隣には、人気の喫茶店や100年以上の歴史を持つ染め物屋など、紺屋町は、古い個人店・家族経営の店舗が多いエリアです。また、このような歴史的な雰囲気を生かして定期的にアンティーク市も開催されています(以下のYouTube動画は岩手という帰れる場所さんによるものです)。

また、紺屋町では「もりおか中津川まち歩きスタンプラリー」も行われるなど、イベントも頻繁に開催されており、街のシンボルでもある紺屋町番屋と合わせ、住民はもちろん、観光客を多く集めています。

説明会では、個人店の経営者の方などから、このような店舗の営業に対して影響がないかどうかについて懸念が示されたようです(具体的な内容についてはいくつか聞いていますが、ややセンシティブな内容なのと、伝聞なのでここに書くのは差し控えます)が、タカラレーベン側からは、街並みとの調和についてはほとんど返答がなかったようです。

あまり想像したくはないのですが、今回のマンションの建設により、周辺の雰囲気が一変し、周囲の店舗の営業に悪影響を与えることで、長期的にこの街が魅力を失うようなことになるなら、取り返しのつかない影響があるように思います。そして、これは、もとから住んでいる人だけでなく、このような雰囲気に惹かれて建設されたマンションに住もうと決めた方にとっても不幸なことではないかと思います。

2.4 まとめ

住民説明会では、これらの問題について十分な説明があったとは言いづらく、冒頭から、「(建設予定の盛岡市ではなく)仙台市の皆様」と呼び掛けて始まるなど、事業者の対応は誠意に満ちたものとは言いがたかったようです。事前に、この周辺の状況について十分にリサーチをした上で事業の提案をするのであれば納得できる面もありますが、少なくとも2月9日の説明会ではそのような姿勢があまり見られなかったと言わざるを得ないように思います。

3.何ができるの?

3.1 行政に対して

住民説明会に関する岩手日報の報道によると、今回の建築計画は、市の景観計画に適合したものだとのことですが、前述したように、紺屋町は「歴史的な街路」となっており、「建築物等の高さを低層に抑える配慮をする」という方針を素直に読めば、14階建てのマンションの建設計画が適切かどうかについては疑問が残ります。

したがって、今回のマンションの建設計画が景観や環境に大きな影響があると感じるのであれば、盛岡市に確認したり、意見を伝えたりすることも一つの方法であろうと思います(私は、以上のような内容をかいつまんで伝えました)。また、市議会議員など、市に直接意見を述べる立場の方がお知り合いにいらっしゃれば、そのような方に相談してみても良いかもしれません。今回の件はSNS等で取り上げられてはいるものの、ご存じない方もまだまだ多いと思われますので、家族や知り合いの方と話すときに、この計画について話題に出すのも良いと思います。

さらに、このように、盛岡市には景観計画があるものの、(一般的な商業地域ではなく)歴史的な街並みにおける14階建てマンション建設を抑制できないということであれば、現在の景観計画や景観条例があまり実効性がないものである可能性もあります。したがって、このようなことが二度と起きないように、個人で、あるいは市会議員などを通じて、盛岡市に景観計画や景観条例の改正を求めることも今後重要になってくるかもしれません。

3.2 ディベロッパーに対して

また、2月9日の説明会は、直前での告知となったため、私も含めて開催を知らなかった人が多いように思いますが、ディベロッパーであるタカラレーベン側に対して、さらなる説明会の開催を求めたり、低層にする・意匠を街並みに調和したものに変更するよう要望するなど、住民・市民としての声を伝えることも一つの手段だと思われます。

ただ、こちらに関しては、個人として要望をしてもなかなか聞き入れられない可能性もありますので、同じような意見をまとめて伝える方が効果的だと思います。現時点では、この問題について住民側の意見をまとめる組織等は作られていないようですが、もし、そのような動きがあれば、この記事の追記として情報提供を行いたいと思います。

<2024/2/29追記>
河北新報によると、2月28日に紺屋町近隣の商店主らが作る「紺屋町まちづくりの会」が市に要望書を提出したようです(下のリンク、有料記事ですが、会員登録すれば1日1本は有料記事が読めます)。ひとまず、現在行政に対して働きかけを行っているようですが、今後、市の立ち合いの元で事業者との協議を行う可能性があるとのことです。現時点では、住民や市民の声を代表する組織はここだけになりそうですので、この会を支援する形で声を伝えることはできると思います。

4 最後に

なお、先方もビジネスで事業を行なっているわけで、必要な法規を守っているのであれば、形式的には建設を妨げるものはないのかもしれません。しかし、これまで述べてきたように、景観計画の趣旨に本当に適合するのかどうか等を含め、今回の計画には問題が多いように思われますし、個人店が衰退すること等により紺屋町の街としての魅力が低下したり、住環境が悪化したりするのであれば、盛岡市の住民やそこを訪れる観光客にとってはもちろん、そこに居住する住民の方にとっても、ひいてはディベロッパー自身にとっても不利益になるように思います。

この件についてはいろいろな意見があると思われますが、SNSやインターネットだけでなく、現実においても(単に「自分は違和感を覚える」というようなものでも)しかるべきところで、しかるべき形で意思表明をしなければ、先方にとっては、当然「与しやすい」相手だと見なされるでしょうし、おそらく、同じようなことはこれから何度も起こると思います。私自身は、それはさすがに受け入れがたいので、少なくとも、自分ができることはやっていくつもりです。

<2024/2/28追記>下に、これまであまり話題に出てこなかった一つの方法について触れてみました。


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