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一桁

人間誰しも、間違いは、ある。だが、してはならない間違いというものも、どうしても、あるものである。

会社から、昔は、勤続20年なりを経れば、それなりの報償は、あった。朝会などで表彰されたり、ちょっとばかりの旅行券の補助などがあったりしたものだ。しかし最近は、そういうものが一切なく、ただ、自己研修補助などという名目で、使い道が制限された、研修補助の制度に様変わりしている。

しかもその制度は、自己申告で、人事からは、その年に当たる人は、権利は、あるのだと宣言は、される。しかしあくまでも自己責任で、制限期間内に、制限された使途で領収書を取得し、申請して、それが人事に認められた場合は結果的に補助されることになるという具合になった。

手続きは、全て、オンライン。領収書は、郵送。何のやりとりもなく、認められたら振り込まれる。

使途が本当に限られていて、語学やビジネススキル研修の補助か、家族への感謝を込めた慰安旅行しかなく、家内に相談したところ、もちろんのことながら、慰安旅行用途を指示された。

それが、私の場合、3年前が、その年に当たっていたのだ。

ところが、その年は、本当に、忙しかった。転勤もあり、旅行どころではなかった。制度を使う期限の翌年度繰越を願い出たが、それもメールのみでの受付で、すげなく、「期限は限定されていますので」と、認められないという、お断りのメールだけが手元に届いた。


仕方がないので、家内と相談し、近くのホテルで家族で食事をすることにした。それ以外に、お金を使う使い道がないので、食事の中身を豪華にしたが、その時、家内の妹一家。長女の親友、次女の親友を入れて、バイキングコースをそれぞれのテーブルで楽しむということにした。

金額的には、ある程度の金額が出たので、結果的に、身内や知り合いに対して、本当は、やらなくてもいいような大盤振る舞いをしたわけである。何も、自慢をしたかった訳ではなく、家内が、

どうせ出るんだったら、全額、きちんと使いましょうよ。

ということで、無理矢理のように使い切った。

当日は、色々な人に、半ば苦笑いされながら、さんざん、お礼を言われた。


その後も仕事がかなり忙しかったが、そんな中、その費用の精算も終わり、領収書の郵送も終わった。そして翌月の給与明細に、精算金額が掲載されたのだが、それを見て、あれ?と、思った。

精算金額が、一桁違うのである。

しまった!金額入力を、一桁、間違った!

すぐに制度の窓口にメールを送ったが、「精算期限が過ぎているので追加修正は、できかねます」の、一言だった。

なんとも冷たいものである。

事務局は、領収書の確認もしたのだろう、ならば、間違いに気づくだろうとの指摘には、「あくまで申請された精算金額が、制限金額の範囲内にあることの確認のみをしております」という調子だ。昔は、親切な経理や人事は、金額、大丈夫か?と、逆に、問い合わせてくれたものだ。あの頃は、血が通っていた。それが今は、血も涙も無い。まるで、ロボットだ……。


私は、まるまる9万円、自腹を切って、義妹一家や、長女、次女の親友達に、それこそ、どーんと、驕ってあげたことになった。

いろいろ考えあぐねて、しまいには良心の呵責に耐えかねて、言わなくても良いのに、この事実を家内に告白すると、家内は、非常に不機嫌になって、こう言った。

その9万円、どこかで回収してきたら、許してあげる。

家内のこだわりポイントは、ポイ活とクーポンと、節約だ。その、主義主張に、全く反する行為をしてしまったのだ。許されるはずは、ない。

その時から、家内が、私を詰める言葉が定型化した。

何事かあると、すぐに、

9万円、回収してきて。

あれから3年経つが、まだ、その言葉に、私は、追いかけられている。

くれぐれも、精算の時は、桁間違いの無いように。気をつけないと、大変なことになる。そういうことを、身に染みて、思い至ったのであった。


私の、この回収の宿題は、まだ、終わっていない。

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