作品を解体せよ

失明する前に通っていた小学校の体育館(そこは卒業式の行われた場所でもある)に、級友とともにいた。
僕たちはもうすでに卒業し、僕も失明していたが、そこでは当時の年齢に戻っていた。
体育館には僕が卒業前にやり残した美術(図工)の作品があって、それをみんなで取り壊すのが目的のようだった。

作品は跳び箱をもとに細工をほどこしたものだった。
ほんとうにいいの? と気にしてくれた女の子もいたが、僕はかまわないと首を縦に振る。
それを合図に作品の解体がはじまり、友達の手によって作品は元の跳び箱になった。
解体にはそれほどの時間はかからなかった。
僕は、これでもう心残りはないと思った。
体育館には、特有の、汗と埃が混じったようなにおいがしていた。

帰りは体育館内を一周しようということになった。
僕は一緒に歩いている友達に言う。
「この日のことはきっと忘れないだろう。そして目が見えなくなったからこそ、壁に設置された校歌や校章、時計など、体育館の細部にいたる視覚的なイメージを、永遠に心に刻むことになるだろう」
でも友達は緊張した様子で肩をこわばらせ、
「少し黙っていてくれないか」
と、僕のことばを制した。