文学の門

どうしてろくに役にも立たない文学など存在するのか。
もしそう聞かれたら、どう答えればいいだろう。

文学を味わう最大の喜びは、自らの認識枠組みが解体され、全く新たな視点で世界を見られるようになることだ。
決して語彙や知識が見に着くためではない。もしそのためだけに文学を読むなら、それは極めて退屈な作業に成り下がってしまう。

特に生きることに絶望していた若い頃、文学に惹かれたのは、自分の一面的で浅薄なものの見方を少しでも広げたかったからだ。
事実は変わらない。でも認識は変えられる。ひいてはそれが世界をも変える。
そして文学にはその力がある、と。

最大公約数の社会通念だけが正解ではない。むしろそこから零れ落ちるものにこそ深い意味がある。
どこにも行けないなら、いっそ立ち止まったっていいではないか。
人生に行き詰まったときほど、文学は役に立つ。

そう信じて文学の門をたたいては来たけれど
門はなかなか開いてはくれなかった。
秘密の鍵を手に入れることはできなかった。
文学に行き詰まった僕は、これからいったいどうして生きていけばいいのだろう。