たんすのお花畑

 たんすの一番下と下から二段目には女の子のお洋服が入っています。
 下から三段目と四段目にはお母さんのお洋服が入っています。
 下から五段目と六段目にはお父さんのお洋服が入っています。
 でも、下から七段目、つまり一番上の段に何が入っているのか、女の子は知りません。
 いくらがんばって背伸びしても、まだ一番上の段には届きません。

 「そうだ、いいこと思いついた」

 女の子は一番下の段から順番に引出を引っ張って、階段を作りました。

 「これで一番上まで行ける」

 女の子はたんすの階段を上り、一番上のたんすに手が届くところまで来ました。
 さあ、たんすの一番上には何が入っているでしょう。
 引出を開けてみると、そこからお花畑が見えました。
 赤やピンク、黄色や白や見たことのないお花が一面に咲いています。
 女の子は迷いましたが、思い切ってその中に飛び込んでみました。
 どすんと地面に落ちましたが、たくさんのお花が支えてくれていたおかげでちっとも痛くありません。
 お花のいいにおいに包まれた女の子は、とても幸せな気持ちになりました。
 このままずっとここにいられたらどんなに素敵なんでしょう。
 でもそう思っていたのもつかの間、女の子はだんだん怖くなってきました。
 空を見上げても、通って来たはずの出口がどこにも見当たらなかったからです。

 「どうしたんだい?」

 ぽろぽろ涙を流している女の子に話しかけたのはハチさんでした。

 「お父さんとお母さんのいるところに戻りたいの」
 「でも、出口が消えてしまって困ってるんだね」

 女の子は頷きました。

 「戻してあげられなくはないよ。でもそうしたら二度とここには来られなくなる。それでもいいんだね」
 「それでもいいわ」
 「わかったよ。じゃあこれを飲めばいい」

 そう言ってハチさんは小さなつぼを女の子に手渡しました。

 「ここの花の蜜でできたシロップだよ。これを飲めば君はもとの場所へ帰れる」

 女の子はつぼに入ったシロップを一息に飲み干しました。
 周囲の風景がぼんやりしてきたかと思うと、あくびする間もなく深い眠りに落ちてしまいました。

 目が覚めたら女の子は自分のお布団の中にいました。階段にしたたんすは、すっかり元の様子に戻っていました。

 「やっと起きたのね。よかった。熱も下がったみたい」

 寝ぼけまなこの女の子に、お母さんが微笑みながら言いました。

 「おやつはホットケーキよ。さあ一緒に食べましょう」

 おやつを食べるお部屋は、お花畑のにおいに包まれていました。そしてふわふわのホットケーキは、ハチさんのくれた蜜の味がしました。