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【観劇レポ】ミュージカル『Jack the Ripper』

2021年9月9日(木)より東京・日生劇場にて上演中のミュージカル『Jack the Ripper』。
今回は9月23日(木)に行われた公演を観劇。Wキャストはそれぞれ、ダニエル役を木村達成さん、アンダーソン役を松下優也さん、ジャック役を加藤和樹さんが務めた。

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19世紀末にロンドンで起こった猟奇的殺人事件とその犯人像をモチーフにして2007年にチェコ・プラハで制作された本作は、その後、韓国上演に際しストーリーの大幅な脚色がなされ、また新曲も追加されたことで、韓国で度々上演された。そんな大ヒットミュージカルの演出を白井晃さんが務める。

舞台は1888年のロンドン。

物語は、刑事のアンダーソン(松下)が娼婦だけを狙う連続殺人事件の犯人を追うというところから始まる。7年前に死んだはずの殺人鬼ジャック(加藤)がこの街にまた戻ってきたのではないかと、不安に駆られる人々。事件解決の糸口が見えず、警察はマスコミを追い払い、非公開で捜査を進めようとする。しかしロンドンタイムズ紙の記者モンロー(田代)は、何としてでも特ダネを掴もうとアンダーソンに近づき、情報提供の取引に応じさせる。

その後、新たな殺人現場でアンダーソンの前に「犯人を知っている、名前は…」と告白する男が登場。彼は7年ぶりにアメリカからロンドンにやってきた外科医のダニエル(木村)だった。ダニエルと元娼婦のグロリア(May’n)は、7年前にジャックに会っていたのである。

犯行が重ねられ、事件はますます謎に満ちていく。アンダーソンはダニエルの供述をもとにおとり捜査の計画を立てるが、ロンドンタイムズ紙がジャックザリッパー(=切り裂きジャック)の殺人予告記事の号外を出してしまう。アンダーソンの元恋人・ポリーまでもが事件に巻き込まれ、思わぬ終わりを迎えることとなる。
犯人の正体は果たして…?というストーリーが展開される。

公式パンフレットで白井さんは、本作には「辞めることができない」人物が多く登場すると表現している。
例えば、刑事のアンダーソンは「真犯人を追うことを辞められない」し、新聞記者のモンローは「特ダネを掴むことを辞められない」。殺人鬼のジャックは「人を傷つけることを辞められない」し、外科医のダニエルは「人を救うことを辞められない」。そして誰もが「愛することを辞められない」というように。
「辞めることができない」という言葉が、人間のリアルな部分と重なり、この作品にぴったりだなと思った。

ダニエル役の木村達成さん。
一幕はとっても好青年で仕事熱心なお医者さん。M13の「もしかしたら」でのグロリアとのデュエットが印象的で、ダニエルが「(ドキドキして)今も胸が痛い」と、グロリアの手を取り、自分の胸にそっと手を置かせるシーンが良かった…。その後のM14「みんな、聞いてくれ!」も喜びが全身に溢れてて、ギターの爽やかなメロディがダニエルの少年っぽさをより際立たせていた。そして二幕でも、グロリアへの愛は健在。ただその愛ゆえに…物語の展開が大きく動いていくのだけれど、二幕は闇落ちしてからのジャックとのシーンが強烈なのでぜひ劇場で見てほしい。

アンダーソン役の松下優也さん。
刑事として真犯人を必ず探さなければならないという力強い想いがありつつ、どこか脆さを感じさせる部分もある。M26の「俺はこの街が嫌いだ」からのシーンが好きで、切ない歌詞に松下さんの歌声がよく合う。おとり捜査の依頼のため、アンダーソンはポリーに会いに行き、バラを渡す。喜ぶポリーがまるで幼い少女のような可愛らしさで。本当の目的を何も知らないポリーを見てアンダーソンはその苦しさを心に押し込むのだけれど、その時の表情に思わず胸が熱くなる。最後、ポリーのために…というところも涙が止まらなかった。

ジャック役の加藤和樹さん。
まず言いたい。加藤さんと、狂気性×不敵な笑み×色っぽい歌声×不穏な空気感(メロディの♭感)の親和性が高すぎる。低く、深みのある声が殺人鬼・ジャックとしての恐ろしさを強め、その笑みでさらにゾクゾクさせてくる。黒と赤の衣装に身を包んだジャックが、マントをひらりと翻す姿はとてもかっこよく、もしジャックの魔の手に捕まったら、もう二度ともとには戻れない。誰の心にもジャックのような不気味さが潜んでいるのかとさえ思わせていた。

グロリア役のMay’nさん。
元娼婦のグロリアは芯がある強い女性だけれど、「どこか遠くへ連れて行ってくれないかな」とも思っている。M15で、娼婦役だった碓井菜央さんがグロリアのもとに近づいて、彼女の未来を応援するかのようにそっと一輪の花を渡すシーンが私は好きで、グロリアは、娼婦たちのやるせない気持ち?を救ってくれる希望みたいなものでもあったのかなと思う。ダニエルを一途に思うMay’nさんのお芝居が最後まで素敵だった。

ポリー役のエリアンナさん。
M3「捨てられたこの街に」を歌い始めた瞬間、鳥肌が立ち、そこからはずっと聞き入っていた。ポリーも娼婦で、「偽りの愛を売るしか、私の生きる術はない」と思っている。抜け出したいけど、抜け出せない。そんなもどかしさがエリアンナさんの歌声に表れていて、とてもよかった。アンダーソンの前では1人の、アンダーソンを想う女性として立っていて、M27「ずっと昔の話」から、ポリーの素直な感情がダイレクトに伝わってきた。

モンロー役の田代万里生さん。
かっちりとした役を演じているイメージがあったからか、モンローのようなお調子者でコミカルな役は新鮮だった。自分の人生をかけてでも特ダネを掴みたいという想いがもはや執念にも見える。周囲がどんなにシリアスな状況でも、彼だけは一人笑っていて、ただひたすら自分の欲望に忠実。その正直さがある意味一番怖いのかもしれない。

あとはとにかく楽曲が素晴らしくて…。ロックテイストな曲もあるけれど、しっとりとした曲だったり、ポップな曲だったり、色んなジャンルの楽曲があって、聴いていて気持ちが良い。ステージの不気味な雰囲気や照明も、全てが大満足だった。

東京公演は9月29日(水)までで、10月8日からは大阪公演もあるので、観に行ける方はぜひ…!!

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