NOW AND THEN vol.3

これを書くために、今までの部分を書いてきたわけなんだけれども、そこに時間がかかりすぎてだいぶ公演から時間が経ってしまいました。さすがに終了直後のふわふわした非現実感は抜けてしまって残念です。

それでも、本当に久しぶりに、心から揺さぶられるライブを体験できた充実感は身体のどこかにじんわり残っていて、もう少し歩いていけるという気がしています。


私は幸運なことに、NOW AND THEN vol.3の神奈川公演を、二日連続ホールの最前列で聴くことができました。

いずれもセンターではなかったのですが、一日目はステージに向かって右側から、二日目は左側から鑑賞しました。そのため、それぞれ異なる視界が広がっていて面白かったです。

一度「卒業」してしまった後は、ライブで「見る」ことはほとんどしなくなっていたのですが、今回ばかりはガンガン「観て」しまいました。勿論「聴く」ことも充分に堪能できました。

隣の人とも適度な距離があり、鑑賞しやすいホール公演で、最前列、しかも二日続けてです。何ということでしょう。演奏している姿、表情、ギターやベースを弾く指、エフェクターを操作する様子、暗転中の楽器持ち替えやウィスキーを飲む様子、その一つ一つを見てとることができました。(そういえばローディーさん変わったのかな?)とにかく、ステージが近いので、無駄に(?)心的距離も近づいてしまった気がします。

今回は、本当にギター(ギターだけじゃないけど)の持ち替えが多かったです。ほとんど毎曲終わるたびに変えていたんじゃないかな?


ギターと言えば、岸田氏のFenderギターとの出会いの話を聞けたのがとても良かったです。あと、HOW TO GOのこと。

もっくんの脱退やスランプなどで苦悶していた2004年頃、貯金が200万円ちょっとしかない状態で、岸田氏は120万円もするギターと出会ってしまう。それが、もう手に取るなり名器だ、愛器になると分かる一品で、高いというのはあるけれども買うことにした。(当時岸田氏はカードも持っていなかったので、ATMでお札をふぁふぁふぁふぁと引き出し現金で買ったのだそう。(笑))それが、今でも使っている茶色いボロボロのギターで、そのギターがあったから、アンテナという作品ができた。

そのスランプは本当に重くて、それまでに無い位、曲が書けない時期だったのだそうです。そんな中悩んで悩んで、HOW TO GOという曲ができた。

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「HOW TO GO」のテーマは、希望でも絶望でもない。手引きや提案でもない。勇気である。

踏み出す勇気、傷付く勇気、諦める勇気なのである。

(岸田日記Ⅱより)

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私はアンテナ発売当時はTEAM ROCKの音源ばかり聴いていてバンドのこともメンバーのことも知らなかったのですが、製作時の背景を知った上で改めて作品を聴き直すと、本当にこの時期、もがいていたんだなと、痛烈に思いました。岸田氏が、今回のツアーやアンテナについて

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相当のエネルギー(というよりは念のようなもの)が込められている。演奏するだけで相当骨が折れるというか、本気で魂込めないと全然カタチにならない。

このツアーで心身共にボロボロになってしまいました。

(岸田日記Ⅱより)

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と言っているのもすごく理解できる。

初日のHOW TO GOは界王券800倍、2日目は北斗神拳で演奏されていたけれども、それくらいの負荷をかけなければできなかったんだろう。
それはつらいことでもあるけれども、だからこそ本当に揺さぶられた。
HOW TO GOは、元々ものすごく好きな曲だったんだけど、ますます好きになった。岸田氏が自分を抉り出しながら、必死に鼓舞しながら書いた曲だったんだ。
そして、それができたからこそ、当時のスランプも開けてその後のくるりも存在しているわけだ。
本当に良かった。岸田氏があのギターと出会えて、そしてHOW TO GOができて。


他にもアンテナの曲には、短いことばで紡がれる精神世界というか心象スケッチと音の中で泳いでいるような印象を持っていたんだけれども、今回はその背景が明確になり、そして何より最高の音響と環境の中でフルで体験をすることができて、本当に素晴らしかった。

彼らには長く活動を続けてほしいから、あんまり身をすり減らしては欲しくないけれども、岸田氏が抱えていた大きな苦悩と、自分の抱えていた苦悩が、形は違えどどこかで共鳴していたんだ、だから私はあんなにアンテナが好きだったんだな、と思った。

2004年当時の苦悩は、岸田氏はもう越えていて、今もそれとは違うことを抱えてはいるかもしれないけど、もっくんともコラボをしたりしているし、今回の打ち上げ写真にももっくん写りこんだりしているし、長い時を経て色々な変化もあって、そういう「NOW」から逆照射した「THEN」は、当時ともまた違う深みや響きを作り出しているし、とにかく、ライブ中はずっと音が、曲がふっと寄り添ってくれているようだった。

何とも言えない精神世界の海に抱かれて優しくゆらめいているような心地よさと、心身の芯に響く深い振動を感じて、とても優しくて気持ちがよくて、じわじわと来る感動の中、ずっとあの空間の中にいたいと、ひたすら切実に思いました。

私の大好きなギターサウンドとしても、あの、0506年越しの最高のワクワクとリンクしている思い出の曲Morning Paperも素晴らしかったし、黒い扉の岸田氏のギターソロが、まさに魂の叫びという感じで震えた。あと、花の水鉄砲。これも元々すごく好きな曲なんだけど、今回、間奏前の「はぁ~」っていう掛け声が良すぎて砕けた。笑 クリフもギターを弾いてたバンドワゴンもよかったなぁ。(ちなみに、クリフは私がくるりにどハマリしてライブ狂いになった頃にちょうどドラムを叩いていた方だというのもあって、思い出深いドラマーです。)アンテナ以外の曲のセレクトも素晴らしくて、全然予想していなかった地下鉄にも痺れました。とにかく、全ての瞬間が最高でした。

「THEN」の時点から色々あった今、また、こんな体験をできるんだ。なんて貴重なことなんだろう、そして、きっと私は、何だかんだ言っても、たとえまた離れてしまうことがあったとしても、結局くるりを完全に忘れ去ることはできないし、どこかできっと、引き付けられてしまうんだろうな、と、しみじみ思いました。

「NOW」がどうであっても、彼らが作り出してくれた「THEN」は私にとってとても大切な宝物だし、というより、「NOW」でもやっぱり虜にされてしまったわけですし。笑


NOW AND THENはこれから、私が最もくるりを追いかけていた時期、そして離れてしまった時期を迎えます。その時、私はどんな気持ちでライブを聴くのだろう。特に、離れてしまった時期の公演は、ある意味恐くもあるけれども、楽しみでもあります。

だいぶこだわりが強くてこじらせていて面倒なファンですが、ああだこうだ言っていてもやっぱり付いていってしまうのでは?という「FUTURE」も見せられた、それ位素晴らしい公演でした。


は~。あの素晴らしさは、いくら書いても書ききれない。記憶もどんどん薄れてしまっているし。

早く映像化されないかな。あの感動をまた体験したいです。切実に。いやはや。

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