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今月のジャズ: 10月、1981年@ニューヨーク

Oct. 1981 “Are You Going with Me?”
by Pat Metheny Group at Power Station, NY for ECM (Offramp)

フォーキーな楽曲でジャコパストリアスを起用したトリオによるデビューアルバムを発表してから5年、グループを組み、所謂ノリの軽い耳心地の良いフュージョンとも異なる、音楽を聴くと情景が目に浮かぶ映画のようなストーリーテラースタイルの音楽で、ブレずに音楽を進化させ、ジャズの新たな潮流を開拓して、ファンを着実に増やし、遂に本作でグラミー賞を初獲得する。

当時のパットメセニーグループ

そのアルバムの目玉がこの曲で、繰り返される「タッタ、タッタ、タタッタ」のリズムに乗って、当時としては最新鋭のギターシンセサイザーを駆使した哀愁に満ちたソロが展開される。

邦題は、「ついておいで」だが、オリジナル曲名の最後にクエスチョンマークが付いているのが肝。メセニーの紡ぎ出すメロディーはあてもなくふらふらと彷徨いながら何処かに着地点を見出すような風情で、明確な行き先が決まっていて、そこに向かって突き進むというような内容では無い。躊躇して立ち止まったり、訳もなく同じ道を辿ったり、あくまでも自分は目的地すら定まっていない道を手探り的に歩んで行くけれども、一緒に行ってくれるかい?というようなニュアンス。3:00あたりからの何処までも落ちていくような下降フレーズがその象徴。

メセニーは、今でもこの曲をライブのレパートリーとしていて、その際には必ずギターシンセサイザーを持ち出して熱演している事から、頭の中で一般的なギターでは表現出来ない音色と音作りのイメージが出来上がっているのだろう。

ギターシンセ、Roland GR-300を操るメセニー

キーボードのシンセサイザーも、以下の約5年前収録の紹介曲からの流れを汲みつつ、トランジスターの進化の恩恵を受けてエレキピアノから発展を遂げていて、本作の重要な味付けを果たしている。因みに以下紹介曲の作曲・演奏をしているベースのジャコとその前年にメセニーがデビューアルバム”Bright Size Life”を制作しているというのが時代的な背景。

スタジオに篭って長期間に亘って緻密な作品作りをするメセニーなので、アルバムに録音時期が明記されていないケースが大半だが、本作は10月ニューヨーク録音と記載されている。感受性の強いメセニーゆえに、その演奏から収録した秋の日暮から夜のイメージが想起され、秋の到来と深まりを感じさせるアルバムからの象徴的な一曲。日本でもテレビやラジオで度々BGMとして耳にする機会があるが、変わった所ではNBAのLAレイカーズのチャンピオンシップのオフィシャルドキュメンタリー映像に採用されているそう(残念ながら映像は見つからなかった)。

本作もECM王道の組み合わせ、名エンジニアのコングスハウクによるNYの名門スタジオ、パワーステーションでの録音。

右からコングスハウク、メセニー、ナナ、
ECM創業者のマンフレートアイヒャー

この曲には、本人による幾つかのバージョンがある。先ずはポーランド人女性歌手を交えたエキゾチックなもの。パットの頭の中では、こんなイメージの音が鳴っているのかも。

オーケストラ付きの演奏もあります。ギターシンセを縦横無尽に弾き倒すソロが圧巻です。

個人的な話として、シアトルのジャズクラブに演奏を聴きに行った際に、メセニーがシンセサイザーギターを手にこの曲の演奏を始めて、のめり込んだクライマックス、5:15以降の一連のくだりで、「キュイーン」という音と共に背後のけ反った際に、倒れそうになるというアクシデントがあった。後ろが壁ではなくてカーテンだった為に寄りかかる事が出来ずにバランスを崩したので、あわや大事故と観客全体がまさに息を呑む如くに凍りついたが、本人は体勢を立て直し、その間全く音は崩れないという光景を見て、一流のプロ根性を垣間見た。

パットメセニーグループ(PMG)も一回、”The Way Up”ツアーで観に行く機会があった。二部構成で前半が同アルバムのフル演奏、そして後半が本曲を含む代表曲のメドレーで、その充実した内容に圧倒された。公演後、ファンが会場の外で待ち構えていたので、そこに留まっていたら、パットメセニーとその盟友のライルメイズが現れて幸いにもサインをもらう事が出来た。

左がメイズ、右がメセニーのサイン
ライブでは本名盤からの”Minuano”も演奏された

メセニーは社交的でファンとも気さくに笑顔で会話していたが、メイズは寡黙且つ気難しい表情で対照的だった。そしてそのバランス感覚が、PMGのクリエイティブな音楽の源泉なのだろうと思った。因みに本曲は、この二人の共作となっていて、前半のハーモニカ調のソロがメイズ、3:44からメセニーがそれを引き継いで展開する進行。前半のメロディーは心許無い感じだが、後半に意思が芽生えてドラマチックな終焉を迎えるような流れが、この二人の構成美と阿吽の呼吸の産物と言える。

最後に、ECM、コングスハウクとパワーステーションの組み合わせによるキースジャレットトリオの演奏をどうぞ。

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