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今日のジャズ: 11月13日、1959年@ニュージャージーRVG

Nov. 13, 1959 “My Ideal”
by Kenny Dorham, Tommy Flanagan, Paul Chambers & Art Taylor at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ for Prestige (Quiet Kenny)

名サイドマンが結集してアルバムを作るとどうなるか。ジャズメッセンジャーズ出身のトランペッター、自身もサイドマンとして活躍したケニードーハムによるアルバム、その名も邦題「静かなるケニー」。そのアルバム名の通り、バラード曲で構成され、終始リラックスしたムードの内容。

ドーハムというとジャズメッセンジャーズやアフロキューバンジャズでの華々しい演奏が印象的だが、こちらではマイペースに自らの表現に徹しているからか、名伴奏者達も、それを慮ったかのように同調して寄り添い、控えめなトーンと手数で心情的に和ませてくれる優しさがある。

ドーハムは、モダンジャズの開祖であるチャーリーパーカーと共演後に、アートブレイキーのジャズメッセンジャーズの立ち上げメンバーとなり、更にその後にマックスローチのバンドに加わった経歴を持つ。それが如何に凄いかというのは、その在籍の前任や後任のトランペッターを見てみると分かる。パーカーには、帝王マイルスデイビスやビバップ創始者の一人ディジーガレスピーが、ブレイキーにはドナルドバードやリーモーガンが、マックスローチには類稀なる才能を持ちながら夭折したクリフォードブラウンがいる。

パーカーとドーハム

超一流の奏者が居る中で比較もされただろうから、切磋琢磨して良い演奏が生まれるようになったのは間違い無いし、そういった過程を繰り返してジャズの音楽としての水準が向上して今に至ると考えると、それ程注目される事は無いが、着実に良い演奏を行うドーハムのような存在は貴重と言えそう。

パーカーにドーハムを推挙したのはマイルスだし、ブラウンの後釜にと声を掛けたのはローチ本人だったそうだから、ドーハムなら任せられる、というその演奏とそれを支える技術や人間的な安心感があったのでは無いかと邪推する。因みにマイルスはパーカーとの演奏だけは苦手と語っていたから、その役回りは大変だっただろうし、ブラウンについては卓越した演奏は勿論のこと人柄がこの上無く素晴らしかったそうだから、その後任としてのプレッシャーたるや大変なものがあっただろうと想像する。

音楽の切磋琢磨には二つの方向性があると考える。一つは演奏の技法、もう一つは音楽の志向性。前者は同じ土俵の中での競い合い、後者はオリジナリティー・差別化で、この二つのバランスの取り方がアーティストのユニークさの源泉だと思う。一流の奏者は、このバランスを非常に高い水準で保っている。

例えば、ジャズの巨人を例に取ると、ディジーは「ビバップとアフロキューバン」、ブレイキーは「ハードバップとアフリカのリズム」、コルトレーンは「モードジャズとフリー」といったところか。マイルスデイビスが偉大なところは、これらを次から次へと自変して新たな形を繰り出し続けたこと。

では、ドーハムはどうしたか。演奏においてはどんな伴奏者にも対応する柔軟性と、音楽においては作曲とアレンジに活路を見出した、と考える。

エリックドルフィーとドーハム

前者はドーハムがお人好しという性格もあったのだろう。基本、声が掛かれば断らずに演奏するような姿勢が、先の経歴からも分かる。

左からドーハム、
フリージャズの始祖オーネットコールマン、
ベースの巨人チャールズミンガス

後者については、幾つかのスタンダード曲を生み出している。これまでの紹介曲にも以下二曲がある。

“Lotus Blossom/Asiatic Raes”

“Blue Bossa”

ドーハムの演奏の雰囲気をさり気なく掴み取り、違和感無く同化する伴奏の凄みは、主張の少ない名サイドマンが結集しているから。しっとりと流れを作る名手チェンバースのベース、控えめながら気の利いたフラナガンのピアノのバッキング、一曲まるまる通してその楽器にのみ耳を傾け続けてみると、その名人芸の凄さが分かる。

そして何よりも、右スピーカーから終始流れる、なんでも無いように地味なアートテイラーのドラムのブラシの音、最後に途切れると虚無感を覚え、それまで心に落ち着きを与えていたという、存在感の大きさに驚きを覚える。これもまた偉大なる職人芸の形の一つ。

曲は、1930年公開の「パリのプレイボーイ」の主題歌がスタンダード化したもの。お人好しドーハムの人柄を反映したトーンの演奏が素晴らしい。

リズムセクションは、同年5月9日のコルトレーンが開眼した超名盤のジャイアントステップスと同じ。

最後に、名脇役の務めを果たしているドラムのアートテイラーによる晩年のリーダー作品をどうぞ。

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