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ジャズ記念日: 8月17-18日、1967年@ビレッジバンガードNY

August 17-18, 1967 “Wrap Your Troubles in Dreams” by Bill Evans, Eddie Gomez & Philly Joe Jones at Village Vanguard, New York City for Verve (California Here I Come)

夏のニューヨーク、名門ビレッジバンガードにおけるビルエバンストリオ。エバンスは、基本的には、せっかちなのか気に留めるものがないと一人で突っ走る傾向が強い。その名盤のパターンは大概、二つのパターンが多いように思われる。エバンスが伴奏者を傾聴してペースが落ち着くパターンか、本作のようにエバンスが唯我独尊の如く、突っ走るものの、伴奏者が見事に追随するパターン。もう一つ付け加えると、サイドマンとしてリーダーに従う伴奏者としても名演が多い。

この演奏は、基本後者のパターンだが、前者も若干入り混じっていて、両方の要件が揃っている。エバンスが速いペースでリードを取るものの、冒頭から存在感を示す相性の良いドラムのフィリーが、スリリングな演奏を繰り広げることで、エバンスの独壇場に歯止めを掛けるのと、ベースのエディゴメスが、その速度に苦もなく追随するどころか、アドリブまでしてしまうという超絶テクニックで、結果として調和の取れたトリオ演奏が納められている。

6月25日紹介曲から約六年後の同じジャズクラブで同じトリオのフォーマットながら、レーベル、伴奏者と楽曲が変わって音楽の嗜好性が、内向的なハーモニー重視でバランスを取るスタイルから、本作はスイング優先となっており、それは多分に楽曲と各ドラマーのスタイルに連動していると考察する。

この曲を大音量にしてフィリーのドラムを浴びるように聴くとスイングとは何か、が体感出来る。エバンスはフィリーを長年にわたって事あるごとに起用しているように相性が良い。それは、キレの良いドラミングスタイルに加えて、フィリー自らがピアノを嗜むことからピアニストの心情を理解した演奏をする事も理由の一つかも知れない。

エバンスとフィリー

そして、このスピード感でも更に先回りして果敢に間合いで手数を入れるベースのエディゴメスのテクニックはズバ抜けていて、「口があんぐり」してしまいそうなくらい。2:57のピアノの「キンキン」に秒速で追随するアドリブの瞬発力も並では無い。こちらも生涯に渡ってベース奏者を探索するビルエバンスの最良のパートナーの一人となった。

エディゴメス@1967年

本曲は名クルーナーのビングクロスビーが歌ってヒット、ジャズのスタンダード曲になった。エバンスとフィリーは約五年前に制作された別アルバムにトランペットとギターを交えた演奏を記録しているので、比較してみてください。

エバンスは「サッ、カシッ、スコッ」というような綺麗でキレの良い清音派ドラマーとの相性が良い。本作のフィリー、シェリーマンや以下のロイヘインズといった面々。

一方で「ザッ、ガシッ、ズコッ」という激しくて粘りのある濁音派とは相性が今ひとつ。アートブレイキーらとの演奏記録が見当たらないし、あったとしても例えばエルビンジョーンズとの録音ではエバンスの良さがかき消されてしまう事が伺えるので、そこは本人も認識していたはず。

本アルバムジャケットのモチーフ写真はこちら。このまま整髪料の宣伝に出ても違和感のない感じで、様になっているのが、さすがエバンス。

本作から二年後の1969年の撮影写真

こちらの撮影をしたチャックスチュワートは、数あるジャズミュージシャンの写真を手掛けていて、何と2000枚以上のアルバムジャケットに携わったという。中でもジョンコルトレーンの屈指の名盤”A Love Supreme”の収録時の写真はスミソニアン博物館に収蔵されているとの事。ご興味ある方はこちらでご覧ください。どの写真もアーティストの個性や表情をよく捉えています。

さて、フィリージョージョーンズの巧みなドラム捌きに興味を持たれた方は、こちらもどうぞ。

ビルエバンスをもう少し堪能したい方は、こちらもどうぞ。先ずはフルートを交えたカルテット演奏。

最後に、エバンスによるジムホールのギターとの大人なデュオ作品をどうぞ。美しさをどこまでも探求するエバンスの姿勢が一貫して伺えます。

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