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今日のジャズ: 4月24日、2024年@ブルーノート東京

Apr. 24, 2024 "CHILDREN OF THE LIGHT"
By DANILO PÉREZ, JOHN PATITUCCI & BRIAN BLADE at Blue Note Tokyo

ジャズジャイアントのテナーサックス奏者、ウェインショーター晩年のリズムセクション三人の名手が集うというので、ブルーノート東京に足を運んだ。大好きなドラマーのブライアンブレイドは複数回、ベースのジョンパティトゥッチは一回、観に行った事があったが、今回リーダーとなるピアノのダニーロペレスの生演奏は初めて。

パナマ人のダニーロペレスらしく、
スペイン語で”Para Blue Note Tokyo”とある

ウェインショーターのライブアルバム、”Footprints Live!”や”Without a Net”でのゾクゾクするような緊張感の張り詰めた、緊密で濃度の濃い即興に溢れる演奏に感銘を受けて、この三人が揃うなら平日でも観に行きたいと思った次第。

当日は、左にペレス、中央にパティトゥッチ、右にブレイドという配置。ペレスはピアノに加えてシンセサイザーを右手側に、パティトゥッチはアップライトと6弦エレキベースを両刀遣いする形。

ブルーノート東京ホームページより

一曲目は、本人による紹介があった”Whistle Through Adversity”。演奏を終えると「口笛の曲、こうやって吹くんだよ」とメロディーを口笛で吹いて「しんどい時には音楽が助けてくれる」とのコメント。その”Adversity”(逆境)と音楽と言えば、以下の名演もご覧ください。

演奏はリラックスした感じで、リーダーのペレスは音数を抑えて、メロディーや伴奏をシンセサイザーを時折り交えてシンプルに奏でていくスタイル。それは同じく技巧派で手や音数の多いパティトゥッチとブレイドに自由度を与えて音楽全体のバランスを取りに行くような印象。曲は、三人によるアルバム”Children of the Light”からの曲がタイトル曲も含めて幾つかあったように思われる。

2015年リリース

中央のパティトゥッチは、ペレスとブレイドを目線や合いの手を入れるような掛け声でブリッジする役割も果たしていた。ペレスに曲の間で声を掛けたり、シンセサイザーの音量の指示も出していたから音楽的なディレクションも兼ねていた感じ。自由自在にベースを操り縦横無尽にフレットの上を指が動いて無尽蔵に旋律が繰り出される。

そして右側に座するブレイドは、他の二人が視界の正面に入るようにドラムの向きが設置されて、実際に二人を目視しながら、変幻自在なリズムの緩急と強弱を静と動といったダイナミズムで奔放なパルスを送り出す(見出し画像が当日のドラムセット)。ブレイドの予期せぬタイミングでのひと叩きは、ボクシングで言うところの、気を抜いた時に一発KOをもたらすボディへのフックのよう。そんな間合いの「ガシッ」にパティトゥッチが嬉しそうな表情で「アー」と合いの手的な雄叫びを上げる、そんなステージ。

曲の合間が分かりにくい程に円滑に流れて続くので、曲の後に拍手をするタイミングを客席が自分を含めて少なくとも二回は失っていたほど。このトリオの動画があったので興味のある方はどうぞ。

公演前の想像と違ったのは、ショーターのシリアスな即興とは音楽の指向が異なり、リラックスして和気藹々としたバランスの取れたトリオミュージックという点。ショーターの醸し出すミステリアスな世界観はその唯一無二の魔力によるものだと改めて認識した。

ペレスのスタイルを観て、音楽の全体観を示し、それを目指して演奏においてはバランスを取りに行く、こういったリーダーシップのあり方もあるのかな、と思った次第。ジャズにおけるサーバントリーダーシップのあり方を体現しているのかも知れない。これは先のショーターカルテットと本トリオでのペレスの演奏スタイルがまるで異なる事から感じ取れる。

最後は、ショーターへのトリビュート曲で締め括られた。約75分のステージに満席の観客もスタンディングオベーションも交えた喝采で応えたら、ペレスはステージからその光景をスマホに収めていた。

多分この写真
ペレス本人の4月30日
(International Jazz Day)
Facebook掲載写真

その観客はお店の方も話されていたように、比較的若い男性が中心という珍しい光景で、如何にも音楽を演っていて、第一人者を目の前で観ようと演奏中に奏者の手元や足元を熱心に注視する方が多かったように思う。ジャズ漫画で映画化された”Blue Giant”において、主人公が「いつかはここで演奏する」と目指した”So Blue”として登場しているこのブルーノート東京だから、それを聖地的に追体験するために足を運んだ方も少なからず居たのではないか。

その観客としての目線で思い出したのが、このドラマー、ブライアンブレイドによる、これまで観たライブ演奏で最高に盛り上がったステージだった。それは、2005年頃のニューヨークの老舗ジャズクラブ、ビレッジバンガードでのブレイドがリーダーとなる”The Fellowship Band”の演奏。

二作目”Perceptual”、1999年9月録音

ブレイドが当時既にトップドラマーとしてのポジションを確立していたのと、バンドの評判が知れ渡っていただろう事から、開演前から店の前で列をなして、会場は満席。今やジャズギター界を牽引するカートローゼンウィンケルによる妖艶なギターから始まり、結束の固いバンドが送り出す音楽と、体格の大きいサックス奏者達が体を絞り切るような渾身の力強いプレイもあって会場の観客も徐々に熱を帯び、ブレイドのタイトなリズムと不意打ちに客席のあちらこちらから掛け声や雄叫びが同時多発的に上がり、そのリズムに合わせて身体を動かす聴衆が演奏者と垣根無く融合して、あの小さなバンガードの会場で一体化した観客が文字通り波を打つ光景を目にした。そんなステージは、ジャズ以外の音楽でも観たことのない熱狂的なものだった。そのフェローシップバンドによるバンガードでの2008年のアメリカ公共放送によるライブ音源があるのでご興味がある方はこちらをどうぞ。

https://www.npr.org/2008/06/18/91567367/brian-blade-live-at-the-village-vanguard

冒頭の紹介のくだりで「ニューヨーク中のドラマーが今日ここに観に集っている」とアナウンスされる程の注目の的、ブレイドのパンチ力のあるフック、如何でしたか。ラジオのライブ音源ですが、10:40あたりからブレイドのシンバルへの鮮烈な一撃がマイクのレンジを超えて「グゥワッシャーン、、、」と痺れるように響きわたるのと、掛け声や雄叫びが背後に収められているのがライブならではのダイナミズムです。

そのブレイドについて言うと、ジョシュアレッドマンカルテットやチックコリアトリオでの長年の盟友、ベースのクリスチャンマクブライドとの組み合わせも相性が良いが、今回のパティトゥッチもそれに比肩すると思った。ブレイドの演奏スタイルが大きく変わらないから、ブレイドを軸に二大ベーシストの個性が浮き彫りになる。パティトゥッチは白人らしいモーダルで複雑なベースラインを踏み、マクブライドは王道のウォーキングスタイルで豪快にスイングする。二人が共演している貴重な映像はこちら。

それでは最後に、観客は居ませんが、ブレイドのフェローシップバンドによるバンドの絆を感じるアメリカーナな演奏をどうぞ。手を高く振りかざして降ろすかと思いきや降ろさずに間を置いて、からの一撃が垣間見えます。

素敵なゴールデンウィークをお過ごしください。

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