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ジャズ記念日: 8月29日、1961年@ニューヨーク

August 29, 1961 “You Don’t Know What Love Is” by Lee Konitz, Sonny Dallas & Elvin Jones
at Olmsted Sound Studio, New York City for Verve (Motion)

8月3日紹介曲に登場しているアルトサックス奏者ポールデズモンド(ご興味ある方は以下)に影響を及ぼしたとされる、「クールジャズ」派の一人で虚無僧尺八サックスの元祖、リーコニッツによるアルトサックスのトリオ演奏。

クールジャズのスタイル演奏を繰り広げる印象のあるコニッツだが、内に秘める音楽への情熱たるや実は半端ないものがある。それがドラムのエルビンジョーンズのパワーと夏の暑さに影響を受けてか、その心情が表出して熱気を帯びた演奏となっている。そして真夏の熱気と湿度を感じさせる空気感が演奏と共に捉えられている。エルビンには、その全力投球するスタイルから、熱気とほとばしる汗がトレードマークのように似合う。

ここではバラードということもあって、エルビンのブラシによる演奏は控えめで、デズモンドが見習ったようにイディオム的なお決まりのフレーズを使うことなく、その場の流れに賭けてメロディーを繰り出すアドリブの鬼、コニッツの浮遊感ある抽象度の高い旋律と、それを支える力強いベースのソニーダラスの自由度の高い演奏が記録されている。

コニッツによるライナーノーツには、コードの制約を受けないトリオ編成を組むことによって、三者三様にアドリブするという自由度の高い演奏を繰り広げたいという意向を受けての収録だそう。その話を聞くと、先人となるソニーロリンズのコード楽曲レスのトリオ演奏がベンチマークとなっているはず。

上記の演奏もさることながら、ロリンズが本作同様にエルビンとのトリオ演奏の名作も遺しているので、11月に紹介するが、この演奏を聴いてコニッツはエルビンを招聘したのではないか。

本演奏では、主旋律をおいつつも1:41秒からコニッツがスイッチを入れると、エルビンも即座に反応してテンポを上げ、この二人に誘われるかのようにソニーダラスも2:57の和音を皮切りにペースチェンジしていく加速的な流れがあるが、これも即興演奏ならではの面白みだろう。

エルビン、比較的控えめな演奏ではあるものの、よく聴くと背景には他の作品同様に唸り声が終始捉えられている。このように演奏中にハミングや唸り声を上げるジャズ演奏者は少なくない。そのエルビンの約四年前の激しいブラシ演奏はこちらからどうぞ。

唸り声というか、うめき声というと、ピアノの巨人キースジャレットが代表格。気になる方は、耳障りとも受け取れる、うめき声対策も含めて、こちらをご覧ください。

本曲は以下映画向けに作曲された後、マイルスデイビスが1954年に取り上げた結果、ジャズスタンダードとなって演奏が数多。マイルス、選曲眼も秀でている。

曲調とは異なりコメディ映画だそう

話が若干逸れるが、映画内でこの歌を歌っている女優はキャロルブルースといい、その娘さんと結婚したのは、ジャズギターのイノベーターの一人、ラリーコリエル。

左手前のコリエルと中央にキャロルの娘ジュリー
@ビレッジゲイト正門

ではブルースによるオリジナル曲を聴いてみましょう。

如何でしたでしょうか。曲調が暗い感じですが、ジャズ奏者の心を掴んで離さない理由は、曲そのものだけではなくて、その歌詞をご覧頂けると理解できるかと思います。

You don't know what love is
Until you've learned the meaning of the blues
Until you've loved a love you've had to lose
You don't know what love is

You don't know how lips hurt
Until you've kissed and had to pay the cost
Until you've flipped your heart and you have lost
You don't know what love is

Do you know how lost heart feels
At the thought of reminiscing?
And how lips that taste of tears
Lose their taste for kissing

You don't know how hearts burn
For love that cannot live yet never dies
Until you've faced each dawn with sleepless eyes
You don't know what love is

You don't know how hearts burn
For love that cannot live yet never dies
Until you've faced each dawn with sleepless eyes
You don't know what love is

さて、本作のレーベルはヴァーヴ、プロデューサーは巨匠クリードテイラー。アルバムカバーは、その後にテイラーが立ち上げるCTIレーベルの御用達となる鮮やかな色彩が特徴のピートターナーの手によるもの。その黄金の組み合わせに興味がある方は、こちらをご覧ください。

そのカバーには、アルトサックスを吹くコニッツの手前に、ちょっと目障りな感じに、お好み焼きのヘラ状のピンク色の物体が写っているが、これはエルビンのドラムスティックを持つ左手に照明が反射したもの。かなり異色な構図ではあるが、本作の随所にエルビンの存在感がある、という事を象徴的に写真で示した、という事なのかも知れない。

最後に、本曲と同じ作曲家、ジーンデポールが手掛けたもう一つのスタンダード曲をどうぞ。コニッツと同じアルトサックスでも、アートペッパーの演奏は明快で分かり易い。

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