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今日のジャズ: 5月19-20日、1961年@ニューヨーク

May 19-20, 1961 “Filthy McNasty”
by Horace Silver, Blue Mitchell, Junior Cook, Gene Taylor & Roy Brooks at the Village Gate, NYC for Blue Note (Doin’ the Thing)

ミスターファンキー、ピアノ奏者ホレスシルバーのクインテットバンドによるニューヨークの老舗ジャズクラブ、ビレッジゲートでのライブ録音、”Doin’ the Thing”からの一曲目、ホレスのオリジナル曲。

曲名は、「かなり怪しい架空の若い男」という前触れで”Filthy McNasty”とホレスが紹介すると、観客が笑う。何故かと探ってみたら”Filthy”は、「汚らしい」、”McNasty”は、”Mc”が「息子」の意味を持つ接頭辞、”Nasty”が「タチの悪い(人)」という意味で、合わせると「汚らしいタチの悪い人の息子」という意味と、名前が韻を踏んでいてキャッチーなこともあって思わず観客が吹き出した、ということのようだ。

本演奏は、ライブ録音にしては珍しく、冒頭のホレスの収録告知と楽曲の紹介から収録されている。そしてその背景にはピアノとベースの音合わせまで収められている現場感が良い。

ジャズクラブではよくある光景ながら、レコーディングでは録音時間の制約から、これらの前置きが収録されるパターンは稀。それはビレッジゲートでの観客の一人として、リスナーが、ありのままを味わうという演出と思われる。

トランペットのブルーミッチェルの若々しい、勢いあるソロから始まり、ジュニアクックのテナーの演奏を経て、ゴスペルスタイルのコールアンドレスポンスを繰り返して徐々に盛り上がりっていくのは観客の顔が見えるライブ録音だからこそ。そして、ホレス独特の左手と右手がピンボールのように対話するような演奏が堪能できる。そのソロでは、7:50秒過ぎから、ふらふらと着地点の見えない怪しげな旋律を辿り始めるが、ロイブルックスのハイハットを軸にグルーブするドラムのリズムキープ、特に8:02の鋭いフィルインと、陰ながら重要なアンカーを務めるジーンテイラーのベースによって均衡が保たれるところも聴きどころ。

ライブでスタジオ演奏のクオリティーが維持されるどころか、本演奏のようにそれを凌ぐことがあるのがジャズ。だからこそ思う、ジャズライブに行こう。そして、行ったら肩肘張らずに楽しんで、ホレスが冒頭で話しているように(以下一部抜粋)音楽に合わせて体を揺らし、手を叩き、演奏者を一緒に盛り上げよう。

“We'd like to have you all join in with us on this one, and help us find the groove, by patting your feet, or popping your fingers, or clapping your hands, or shaking your heads, or shaking whatever else you want to shake...”

観客の反応を見たら演奏者はさらに白熱した演奏を繰り広げる事、間違いなし。恥ずかしがったり遠慮してはいけない。掛け声だって、歌舞伎は良くて、ジャズがダメなはずはない。9:32の男性の絶妙なタイミングでの「イエー」と言う掛け声が、まさにそれ。そして演奏が終わったら惜しみない拍手を。ライブ一曲目からこの盛り上がりは流石、ミスターファンキー。演奏後のトークでは会場の盛り上がりに自身の驚きを隠していない。

ジャズは背筋を伸ばして、クラシック音楽のように大人しく聴く性質の音楽では無い。観客も演奏の一部になれるのがジャズだ。それを本演奏のクオリティの高さが証明している。これは観客あってのもので、スタジオでは生まれない産物だ。

東京にある某有名ジャズクラブで、皆大人しく聴き入っているものだから、外国人演奏者が反応の無い観客にどう応えたら良いか戸惑う表情を見せるという場面に何度か遭遇したことがある。本国では盛り上がるはずなのに、手を替え品を替えても反応が薄いのだ。

そういう時に、盛大な拍手なり掛け声なりで静まった会場に口火を切って場を盛り上げると、アーティストの表情が和らいで演奏が熱を帯びてくる。勇気を持って実践してみよう。曲の最後だけではなくて、奏者の各ソロが終わる度に拍手をするだけでいい。三秒では中途半端なので少なくとも五秒続けて躊躇せずに思い切って手を叩くのが要諦。奏者が頭を下げたり笑顔といった反応を見せたら大成功。そして前半からやることも重要。火が付けば、大抵の場合、恥ずかしがって遠慮していた他の観客も追随するから、その後は尻上がりに盛り上がる。一回試してみて欲しい。

さて、38年の営業を経て閉店したビレッジゲートは、マンハッタンのグリニッジビレッジにあって、数あるジャズの名録音を遺している。

調べてみたところ、日本ではボブディランの名曲「風に吹かれて」のB面に収録された”A Hard Rain's a-Gonna Fall”が、この建物の地下に住んでいた同クラブの舞台照明家のアパートで作詞されたとの逸話がある事から、建物が旧跡扱いになっているそうで、看板も上の写真のように現在も保たれている。

この照明家は、その後にアポロシアター、モンタレーポップフェスティバル、ウッドストックフェスティバル、更にはロサンゼルスオリンピックの開閉幕式を手掛けて名を成す、チップモンクという方だそう。一流は一流を呼ぶのでしょう。

この楽曲がスタンダードになっている特異性は、多種多様な解釈のカバーがあること。まずは、ジャズのカバーから。後に付けられた歌詞には、ジャズミュージシャンの名前が満載。曲名が名前だから、それにかけて名前を多数登場させる歌詞、ということなのかも知れない。

次は、あのエリッククラプトンともバンドを組んでいたジョンメイオールによるブルースハープを交えたブルージーなカバーのライブ録音。こちらでもメロディーが流れた際の拍手や掛け声が収録されている。

最後に、ロック系ミュージシャンでロックの殿堂入りしているスティーブミラーバンドを率いた、ミラーによるAOR風のカバー曲。ジャズから始まって、それ以外のジャンルに派生する伝播力は、まさにオリジナルの本ライブ演奏の凄まじさがあってのものだろう。

最後に、観客の声が少し騒がしいライブ録音もどうぞ。

(2024年4月30日追記)
お昼過ぎにスーパーの「まいばすけっと」に入ったところ、本曲が最後の拍手喝采まで、BGMとして流れていました。なかなか乙な選曲ですが、改めてこの季節に合っているなと感じた次第。

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