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今日のジャズ: 二月、1969年@ニューヨーク

Jan. 30, Feb. 3, 4 and 5, and Mar. 11, 1969 “Love Theme from Spartacus” by Jeremy Steig, Bill Evans, Edie Gomez & Marty Morell at Webster Hall, NYC for Verve (What’s new?)

ジャズピアノの巨匠ビルエバンスは、モダンジャズという自らの主戦場は保ちながらも、異なる楽器との異種格闘技的な交流戦を幾つか行なっている。それは飽きやすいエバンスが演奏の質を維持すための術として、知的好奇心をくすぐる共演者を求めての本能的な行動だと思われる。

11月に紹介したハーモニカとの共演もあるが、ここではフルートとのカルテットに挑んでいる。

布石としては、2月23日に紹介した七年前のエリックドルフィーによるフルートとの共演。

因みに本作の録音時にはドルフィーはこの世にいなかったので再共演には至らなかった。エバンスの音楽キャリアはフルートから始まっているそうで、フルートにはかなりのこだわりがありそうだから、フルート奏者のスタイグも相当気合が入っていたのか、エバンスに引けを取らない息のこもった迫力ある熱演となっている。

左からゴメスの硬質なベース。右からスタイグによるフルートと、シンバルを主体としたドラム。エバンスも、このメンバーの演奏に刺激を受けて、印象に残る傑作メロディーと共にピアノに没頭していて44秒からの天に駆け上がるようなフルートの主旋律への美しい絡み方に顕著なようにハーモニーに優れる名演。

心に染みるフルートによる旋律が、冬の静けさ、寒さと寂しさを感じさせる。二月のマンハッタンは、一年の中で最も冷え込むマイナス気温になるが、底冷えや場所によっては強いビル風があることから体感温度は凍えるように更に寒い。フルートの空気を切るような音は、その冷たいビル風を彷彿とさせる。

録音場所は、ビルエバンスが度々収録を行ったイーストビレッジにある、1886年建設の由緒あるWebstet Hall。禁酒時代にもアルコールが提供されていた事から、あのアルカポネがオーナーでは無いかとの噂があったとの由。この録音前後はRCAレコードが所有していた事もあって、頻繁に収録に活用されたようだ。前年のエバンスのグラミー賞受賞作、”Alone”の収録場所もこちら。今でもコンサートホールとして活用されている。目立たないが、Verveで確実に良作を送り出すVal Valentineのプロデュース。音質は今ひとつだが、それを補って余りある作品になっている。

1960年に公開されたスタンリーキューブリック監督、カークダグラス主演映画『スパルタカス』のテーマ曲がスタンダード化したもの。オリジナル曲はこちら。クラシックスタイル。

エバンスは、ソロアルバム、”Conversation with myself”でもこの曲を取り上げられているから、さぞお気に入りなのだろう。

スパルタカスのテーマについては、こちらの詳細記事と考察が素晴らしい。本曲も登場しています。

最後に、Webster Hallの外観はこちら。プリンスやエリッククラプトンといった大御所のコンサート会場にもなっている。

本作品の収録が複数日に跨っているため、二月の合間に掲載させて頂きました。

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