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ジャズ記念日(祝60周年): 8月27日、1963年@ニューヨーク

August 27, 1963 “Say It Isn’t So”
by Benny Goodman, Teddy Wilson, Lionel Hampton & Gene Krupa at New York City for RCA Victor (Together Again)

スイングジャズの王様、クラリネット奏者のベニーグッドマンによるカルテット演奏。作曲は「ホワイト・クリスマス」を手掛けた大作曲家のアーヴィングバーリンによるものでヒットチャート一位を記録、邦題は「はっきり言ってよ」。

この二人の共通項はユダヤ系ロシア移民であること。実はアメリカに移住したユダヤ系ロシア移民のジャズ界への貢献度は計り知れず、ガーシュイン兄弟、ロジャースとハーマンスタインといった作詞作曲家、テナーサックスの巨人スタンゲッツ、アルトサックスの巨匠リーコニッツらが挙げられる。ロシアでのユダヤ人に対する圧政や社会的な抑圧に耐えかねての移住で、貧しい家庭に生まれながら才能を活かしてアメリカでの社会的地位を確立、そしてリベラルな立場で人種差別が厳しい時代から黒人を積極的に起用して自ら同様にその社会的地位の確立に貢献して行く。

この曲でピアノを弾くテディウィルソン、鉄琴のライオネルハンプトンもその恩恵に預かった黒人演奏者で、ベニーグッドマンを起点に黒人と白人の混成バンドの流れが出来上がるが、有色人種差別が合法だった時代においては、勇気と実行力を伴う果敢な行動だったに違いない。特に一般社会に知名度のあるグッドマンによる影響力は相当なものだったと想像する。

グッドマンはユダヤ音楽、クレズマーでお馴染みのクラリネットを操り、ジャズでも独自のスタイルを編み出したが、この曲でも独特の暖かみのある音色が、相性の良いライオネルハンプトンの鉄琴と交錯して、リラックスした夏の昼下がり的な雰囲気が心地良い。グッドマンからハンプトン、そしてピアノのテディウイルソンのソロまで、グッドマンの演奏の流れと雰囲気をうまく汲み取り、聴衆を第一に考えた耳心地良いなめらかな旋律を紡ぎ出す。

グッドマンはジャズの大衆化への貢献は勿論のこと、グッドマンなかりせば、現代のロックは別のものになったのでは、と指摘する音楽評論家もいる。その理由は、エレキギター発売当初に、それを巧みに操る黒人奏者のチャーリークリスチャンをバンドに起用して、その普及に一役買ったから。

グッドマンとクリスチャン
背後にギターアンプが見える

革新的だったのは、それまでバンドではリズムを刻む脇役的な役割のギターが、アンプによる音の増幅によってシングルトーンでのメロディを奏でる演奏が可能となり、管楽器と対等のメイン奏者の地位に引き上げられたこと。良く使われる「ホーンライクな」という言葉は、このことを指している。エレキギター演奏の開祖、クリスチャンなかりせば、との話については、1939年のクリスチャンの演奏を聴いて確認してみましょう。

どうでしたか。当時の演奏で現在のギター演奏に通じるエッセンスが随所に聴き取れたかと思います。そこからクリスチャンの偉大さが伝わってきますし、敷居の高いカーネギーホールでフィーチャーする当時人気絶頂のグッドマンの後ろ盾の貢献も計り知れないものがあったかと推測します。

更に踏み込んだ話をすると、そのクリスチャンをグッドマンに推挙したのは、大物プロデューサーのジョンハモンド。全米黒人地位向上協会の役員に名を連ねる一方で、ビリーホリデイ、アレサフランクリン、ジョージベンソンといった才能溢れる黒人アーティストを音楽を最優先にして人種に関係無く発掘した。

右からハモンド、グッドマン、ボブディラン

因みにハモンドはブルーノートレーベルの初レコーディングに口利きの手助けもしている。その結果、思いの外、トントン拍子に実現したと、その創設者であるアルフレッドライオンが語っているような例を含めて音楽業界への貢献は計り知れないものがある。

アルバム名の”Together Again”というのは、時を経て再開したメンバーによる演奏だから。アルバムジャケットの裏面に、その比較写真が掲載されている。ハモンドのサポートを得てグッドマンが1935年に結成したメンバーが約25年の時を経て再演するという企画。まさに古くからダイバーシティ&インクルージョンを実践していたグッドマンとハモンドには敬意を表したい。

この四人の編成に違和感は無いだろうか。そう、アンカーとなるベースが不在なのだ。それを感じさせない構成美がどう生まれているのか、音楽理論には疎いのでよく理解が出来ないが、バンド全体のトータルバランスがとても素晴らしい。ライオネルハンプトンが叩き出す美しい鉄琴の旋律、特に力強く叩いたその音は、あたかも冷たいアイスを無理に飲み込んだ時に感じる頭痛みたいに「キーン」と頭の中に響き渡るかのような非日常の刺激が味わえる。

最後に、バーリンによるスタンダード楽曲、「ロシアの子守唄」のコルトレーンによる、過激な演奏をどうぞ。

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