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今日のジャズ: 1月27日、2024年@ブルーノート東京

昨年大晦日のジョンメイヤー公演に続いて、1月も27日にブルーノート東京に足を運んだ。ジャズベーシストの重鎮ロンカーター(86歳)が、現役ジャズギタリスト最高峰のパットメセニー(69歳)と若手ドラマーのジョーダイソン(34歳)でトリオ演奏するという組み合わせが非常に気になったから。個人的にカーターを一度は生で観ておきたいという思いと、何度か観ている変幻自在なメセニーが、カーターにどう対峙するのか、その組み合わせに興味を抱いたという経緯。

公演はセカンドセットの定刻通り19:30に開始された。如何にも生真面目と評されるカーターとメセニーらしい。

では、当日のラインアップ曲を、多作家のカーターとメセニーの過去の音源や、これまでに「今日のジャズ/ジャズ記念日」で取り上げた演奏を交えて紹介していきます。

三人が立て続けにステージに上がり、椅子に腰掛けると、アナウンスもなく淡々と演奏を始める。因みにメセニーが椅子に座って演奏するのは、大型のピカソギターを含めたアコースティックギターしか観たことがないので、通常のフルアコのエレキギターを手にして腰掛けた演奏は新鮮に見えました。

ブルーノート東京ホームページ掲載写真

一曲目は“All Blues”

マイルスとカーターによる演奏で真っ先に思いつくのは、こちらのテンポ速めのライブ演奏

当日の演奏の雰囲気に近いカーターのリーダー作品

二曲目は、マイルスの名演で有名な”Bye Bye Blackbird”。テナーサックスのベテラン、ヒューストンパーソンとの味のあるカーターのデュオ演奏

今回のトリオ演奏に通じているように感じられる
、晩年のチェットベイカーによる図書室で腰をかけてのリラックスした同曲のライブ演奏の紹介曲

次いで、マイルスの1965年収録アルバム、カーターも参加している”E.S.P.”から、両名の共同作品”Eighty-One”

聴いたことがある曲ではあるのですが、馴染みのあるスタンダード曲では無い為、本曲に辿り着くのに時間を要し、本記事の掲載が遅れてしまいました、、、

更に、マイルス作曲のスタンダード曲が続いて“Milestones”

カーターを含むマイルスのリズムセクションでのトリオ演奏

上記作品メンバーからピアノがトミーフラナガンに入れ替わった演奏

マイルスのオリジナルバージョン

中盤では、雰囲気を一変させるバラード、“I Fall In Love Too Easily”

マイルスとカーターとの共演ライブ演奏

マイルスが当時若手のウィントンマルサリスに入れ替わったメンバーでの演奏

カーター同様のマイルスの門下生、キースジャレットによるピアノトリオ演奏の紹介曲

ここで、バラードとマイルスから路線変更、ちょっと意外な選曲感のある“Sunny”

何か由縁があるのだろうと調べてみたら、ギターで弾き語りする同曲の作曲者とカーターのファンキーなスタイル(服装も!)のエレキベースによるデュオ演奏の映像が見つかりましたので、こちらを意識した選曲かと思われます。当日のライブ演奏もこちらのバージョンに近い印象で、感傷的にならずにサラッとドライに流れるような展開でした。

その後、約十分近いカーターのベースソロは、『アランフェス協奏曲』や『荒城の月』のメロディーを交えたもの。カーター独特の期待を裏切らない微妙なピッチ、こぶし、弦を押さえたまま上下させて「キュイン、キュイン」グリッサンドしたり、ベースの本体をパーカッションとして叩いたり、カーターの特徴が凝縮された内容でした。この間、メセニーとダイソンはその場で何もせず黙って聴き入る姿勢を保ってたのも印象的でした。

カーターのベースソロ演奏はこんな感じ。独特のピッチ感、グリグリしているカーターの特徴が満載

カーターが参加している『アランフェス協奏曲』と言えば、相性の良いギタリスト、ジムホールの代表作品

そして、メセニーが好んで演奏するスタンダード曲”All the Things You Are”

カーターと先のジムホールによる親密なデュオ演奏

そのホールとメセニーによる同曲のデュオ演奏

メセニーによるエネルギッシュなトリオ演奏

それから、一聴しても何の曲か分かり辛かった”My Funny Valentine”を演奏

マイルスとカーターの共演

カーターのリーダー作品

トランペッター、エンリコラバのリーダー作品へのメセニー参加による演奏

ここで、三人が立ち上がりステージは終了。拍手が響き渡り、スタンディングオベーションもあり、ステージを降りることなく始められたアンコールは、カーターのマイルスバンド所属時代の盟友でもあり、メセニーとも共演歴のある、現代ジャズ界の大御所、ハービーハンコックが手掛けたスタンダード曲、”Cantaloupe Island”を演奏。

カーターが参加しているハンコックのオリジナル

メセニーとハンコックによるライブ演奏

当日は、こちらのメセニーのトリオ演奏に近い印象

約75分の演奏時間はあっという間でした。

ステージを降りて控え室に戻ると、トリオでの貴重な時間を惜しむかのように、早々と三人一緒に会場を去って行きました。会場に残ってファンサービス的な対応を行っている姿を見かけるメセニーにしては珍しいと思った次第。

カーターを軸とするスタンダード曲で構成された公演で、カーターと共演歴のあるマイルスとメセニーの師匠的存在のジムホールへのトリビュート色が強い印象を受けました。カーターによる期待を裏切らない独特の演奏、甘いトーンとピッチを直接自分の耳で聴けたのが今回の収穫でした。そして、メセニーがスタンダード曲を弾く事で認識したのは、メセニーのアイドル的存在のウエスモンゴメリーの影響。テクニカルな面はよくわかりませんが、その演奏を聴くとウエスが何処かに浮かび上がる印象を受けるほどでした。また、メセニー自身がジャズの巨人と若手との接点になる事で、後人の育成を意識しているように受け止められました。ロンカーターへの敬意は、選曲から寄り添う演奏に至るまで随所に感じられる一方で、その反動かもしれませんが、演奏に物足りなさを感じたのも事実です。メセニーの冒険的なアプローチはほぼ封印され、ダイソンのドラムもアンコール曲を除くと叩く力が2-3割程度ではないかと感じられるほど若手のエネルギッシュさを抑制した、しっとりとした演奏でした。それは、自分が以下の様なメセニーの演奏に聴き慣れているせいかもしれません。

公演後に、メセニーのテクニシャンの方と話したところ、ギターの撮影をさせてもらえました。その際、今日は1本だけだから楽だけど翌週に控えているソロ公演では、これら10本のギターをフル活用するから準備が大変なんだ、と語っていました。ソロではオーケストリオン(楽器演奏機械)の仕掛けもあったようなので、そちらの方でメセニーの冒険心は満たされたに違いありません。

ステージ横に格納されたメセニーのギター類

最後に、カーターとホールによる、マンハッタンにあったプレイボーイクラブでのデュオ演奏をどうぞ。カーターはメセニーと演奏しながら、今は亡きホールとの演奏を意識したのではないでしょうか。

今晩も素敵な夜をお過ごしください。

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