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今日のジャズ: 9月19日、1979年@ハリウッド/NY

Sep. 19, 1979 “Theme from New York, New York” by Frank Sinatra with Vincent Falcone, Jr. orchestra arranged by Don Costa at Western Recorders, Hollywood for Reprise (Trilogy)

いつ聴いても、この冒頭のメロディーで「あっぱれ」と晴れたように心が躍る。音楽がその場の雰囲気や心情を瞬く間に変えてくれる、ジャズボーカルの王様、フランクシナトラによる、そんな名曲の一つ。冒頭のメロディーで心がウキウキする感じは9月7日紹介曲に通じるものがある。

マーティンスコセッシ監督、ライザミネリとロバートデニーロがジャズ演奏者として登場する恋愛映画『ニューヨーク、ニューヨーク』からのテーマ曲で、『キャバレー』や『シカゴ』と同じくガンダーとエブのコンビが手掛けた。

ライザミネリのオリジナルバージョンは
同じようで別物に聴こえる

その映画によって曲自体がヒットする事は無かったが、シナトラが取り上げてアレンジを加えたところ大ヒット。 NYヤンキースのオーナーのお気に入り曲で、ヤンキースタジアム球場ではヤンキースの試合終了後に『六甲おろし』の如く本曲が流れるそう。

出身の東海岸的な印象の強いシナトラだが、本曲を含めた多くの作品が、実は西海岸で録音されている。意外ではあるが、拡大した音楽産業が、ハリウッドの一大エンターテイメント産業の一部に組み込まれた、と考えると整理が出来そう。この曲は元々、ニューヨークで吹き込まれたが、シナトラが気に入らず、その後のロサンゼルス収録バージョンが本採用されて本人を代表するヒット作となった。

ブロードウェイミュージカル調ながら、オーケストラを含めて開放感溢れて空気感が明るく軽いのは、西海岸録音だからかもしれない。オーケストラも映画音楽のような番人受けするトーン、展開とアレンジで、シナトラとオーケストラの組み合わせは鉄板だと改めて確信する。

本曲を含むアルバムは、スタンダード曲で構成されたビリーメイ指揮の「過去」、本曲を含む当時のヒット曲集を「マイウェイ」を手掛けたドンコスタがアレンジした「現在」、そして特に40-50年代に活躍したゴードンジェンキンスの作曲とアレンジによる「未来」からなる意欲的なオーケストラ三部作。その名アレンジャー、ビリーメイによる作品はこちらもお楽しみください。

この曲でのシナトラの歌い方は、演出的には通常のクリアな発声では無く、特に後半にかけて喉を大きく開いたダミ声的な表現となっているのが面白い。

この曲は、アメリカ人の心を掴み、シナトラの長いキャリアにおける最後のヒット曲になった。そのシナトラのアレンジに対するこだわりと才能は、オリジナルのライザミネリのバージョンと比較すると良く分かる。作品が単なる歌からエンターテイメントに昇華されているのだ。こちらがライザミネリのオリジナルバージョン。

以前、NYヤンキースが勝つとシナトラのバージョンが、負けるとライザミネリのバージョンが球場で流されて、ライザミネリが訴えた結果、シナトラバージョンに統一されたというエピソードがある。因みに、NYメッツは、ビリージョエルの“New York State of Mind”を球場でかけていたそう。

ビリージョエルのメッツスタジアムでのコンサート
『ニューヨークへの想い』が縁で開催か

また、本曲はアメリカ人の共感を呼ぶ歌詞の内容も魅力のひとつになっている。

“If I can make it there, I will make it anywhere. It’s up to you, New York, New York.”

『あそこでやっていけるなら、どこでもやっていける。それは自分次第、それがニューヨーク、ニューヨークなんだ』

如何にも実力主義のアメリカ、特に競争の激しいニューヨークを的確に表現している。

さて、“New”と名前が付く地名の多くは植民地に名付けられた旧宗主国にある地名の新天地バージョンが多い。ニューヨークはイギリスのヨーク公に習っての命名。その前の名前はニューアムステルダム、オランダ領だった。その近くのニュージャージーは、イギリスのジャージー島(あの濃厚な乳製品に用いられるジャージー牛の原産地)に由来がある。ジャズ発祥の地、ニューオリンズは、元々ヌーベルオルレアン(新オルレアン)というフランス植民地時代の地名が英語に置き換わったもの。

1764年の地図の名前はヌーベルオルレアン
ルイジアナ州の名前にもフランス領の名残がある

他にもカナダにはノバスコシアという州があるが、これはラテン語の「新スコットランド」という意味で、当時のスコットランド王から同地を授かったとされる方が命名した名残だそう。

この”New”が付く地名の由来を探るのは、結構面白い。アメリカ東海岸の避暑地、ニューポート(新港)についてご興味ある方は、こちらをどうぞ。

話をニューヨークに戻すと、その発音は、アメリカ英語、特にニューヨーカーによると「ヌーヨーク」に近く、シナトラも、これに従っていることが分かる。

因みにこの作品の収録の二ヶ月前に画期的なウォークマンの第一号が発売されている。音楽がパーソナル、且つポータブルになる事で鑑賞方法のみならずライフスタイルにまで多大な影響を与えた偉大な発明。

さて、シナトラが映画俳優としてジャズドラマー的な役で登場する作品についての小話は、こちらをどうぞ。

最後に、シナトラとジョビンの二大巨塔によるオーケストラをバックに従えたボサノバ作品をどうぞ。

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