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今日のジャズ: 8月29日、1964年@ストックホルム

August 29, 1964 “It Could Happen to You”
by Monica Zetterlund, Bill Evans, Chuck Israels & Larry Banker at Europa Film Studios, Stockholm for Philips (Waltz for Debby)

ビルエバンスのトニーベネットを代表とするボーカル伴奏作品の一つ。スウェーデン出身の女性歌手、モニカゼタールンドが当時のビルエバンストリオを伴奏に迎えてスウェーデンのストックホルムで録音されたアルバム。

ありがちに前のめりなエバンスに対して、ゼタールンドが落ち着いた後ノリの意図的に崩したテンポで歌い始めて調和するという流れ。如何にもジャズらしいのは、エバンスが27秒に鍵盤をひと払いグリッサンドすると、即座にゼタールンドが喉を鳴らすような形でその音を追うところ。

ゼタールンド自身によると彼女自身の生涯最高のアルバムだそう。若干、北欧訛りの英語が特徴的で、エキゾチックな雰囲気を醸し出しているのも印象的。

ここでのエバンスのトリオ、ベースのチャックイスラエルとドラムのラリーバンカーは’63-‘65に本作を含め五作のアルバムを制作している。6月25日紹介曲に登場する最愛のベーシストを本作の約三年前に失ってから、更に内省的となったエバンスを尊重してか、このトリオの演奏は、その当時とはスタイルの異なる、調和を重視した落ち着いた傾向がある。

そんな中で終盤2:25からのエバンスの伴奏の壊れかけたような和音の入れ方のエグいこと、何が起こったのか知る由もないが、優等生的なゼタールンドの歌唱に対して敢えて仕掛けたものだろうか。

本曲は、”Polka Dots and Moonbeams”等のスタンダード曲を複数輩出した名コンビ、ヴァンヒューゼン作曲、バーク作詞の以下映画向けに作曲された楽曲。

“And the Angels Sing (邦題: 天使は歌う)”

大作曲家のジョニーマーサーが手掛け、ベニーグッドマンが演奏して1939年にナンバーワンヒットとなった曲を土台に制作されたこの作品で同曲を歌ったドロシーラムーアは歌唱力もあり、女優として挿入曲を歌うことで、本曲を始めとして幾つかのジャズスタンダード曲の誕生に関わっている。

先ずは“I Remember You”。映画”The Fleet's In(艦隊入港)”でラムーアが歌った挿入歌。

そして、本曲と同じバークとヒューゼンによる“But Beautiful” 。映画”Road to Rio(邦題: 南米珍道中)”でビングクロスビーが歌う場面に登場している。

名曲ばかりですね。ラムーアは、ミスニューオリンズとなった後、ビングクロスビー、ボブホープと映画「珍道中」シリーズにヒロインとして登場した。

アカデミー賞歴代最多18回の司会を務めた

本アルバムのレーベルは、その後CDを開発するオランダ家電メーカーのフィリップス。

アルバムカバーの写真は、Lars Falckによるもの。スウェーデン拠点ということで、その国民的アーティストのABBAの写真も多数手掛けているそう。

さて、エバンスの3年後のトリオ演奏に興味がある方はこちらからどうぞ。強力なメンバーに刷新されてピアノ偏重気味の演奏から三者のバランスが是正されているように思われます。

如何にジャズ演奏家がポピュラー音楽をジャズに取り込むのか、モダンジャズの開祖チャーリーパーカーによる”I Remember You”の演奏をどうぞ。先のオリジナル曲との比較が面白いです。

最後に、ストックホルムの空気感を更に味わいたい方は、こちらもどうぞ。

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