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今日のジャズ: 10月17日、1957年@ロサンゼルス

Oct. 17, 1957 “Makin’ Whoopee”
by Ben Webster, Oscar Peterson, Ray Brown, Herb Ellis and Stan Levey at Capitol Recording Studios, CA for Verve (Soulville)

1957年10月収録曲の第三弾。10月10日収録曲から更に一週間後、西海岸に留まったであろうオスカーピーターソントリオが、1940年代から活躍した数少ない白人ドラマーの一人で、チャーリーパーカーやマイルスとの共演歴がある実力派のスタンリービーを加え、エリントン楽団で花形演奏者を担ったモダンジャズテナーサックスの開祖の1人であるベンウェブスターの伴奏に回り、10日紹介作品と同じキャピトルスタジオで録音したのがこのアルバム。

同じテナーサックスとレーベルでも、10日の当時若手有望株のゲッツから、実績十分な貫禄ある大御所テナーに入れ替わって、新旧テナーのスタイルの違いは勿論、伴奏者が前曲の同年代でイケイケでハッピーなパーティースタイルから転じて、控えて主役に敬意を表する黒子に徹するところも対照的。

ソニーロリンズやジョンコルトレーンにも影響を及ぼした、スウィング期の三大テナーの一人として位置付けられるウェブスターは、演歌で言うとコブシを利かせるメロディー重視のソウルフルなスタイル。アルバムジャケットのコワモテとは一線を画して、この演奏では暖かみのある優しいブローが魅力的。

一方のゲッツは、ウェブスター同様の三大テナーに位置付けられるレスターヤングのスタイルを踏襲したブローのコブシが少なくクールな華やかさ。

二作品を比較すると同じスタジオとほぼ同じ伴奏者ながら、印象がこれ程変わるのは、リーダーのテナーサックス奏法の個性、プロデューサーの意図と演奏者の相性が反映されての産物だろう。三大テナーの残る一人、コールマンホーキンスの演奏は、こちらからどうぞ。

大手で老舗のキャピトルレコードは、ロサンゼルス本社の地下駐車場スペースに録音スタジオがあって、第三弾まで全て同スタジオの収録となっている。円盤が積み重なったようなユニークな建物だが、この円盤がレコードをモチーフにしていると分かると合点がいく。その建物に興味がある方は、本作と同年同スタジオ録音のこちらをご覧ください。

結婚を題材にしたミュージカル向けに作られた、それぞれ著名でスタンダード曲を排出しているガスカーン作詞、ウォルタードナルドソン作曲のこの曲は、ジャズスタンダードを超えてアメリカンポピュラーソングとなっており、エルトンジョン、ロッドスチュアート、ヴァンモリソンやシンディローパーにもカバーされている。

一流のアーティストだけに、それぞれに独特の味付けと味わいがありますね。その曲名の意味は直訳すると「大騒ぎする」だが、”Makin’ Love”の隠語だそう。

ウェブスターは、この録音の前日にホーキンスを交えて同スタジオでピーターソンカルテットと収録を行なっている。二日続けてのリーダー格作品収録というウェブスターも凄いが、この時期のピーターソンのスタジオ収録頻度はそれ以上に凄まじい。そして、これ程までに豪華な顔触れが日々出入りしていたという事実から西海岸の当時の音楽業界の賑わいが垣間見える。

音楽的にはホーキンス主導と思われる

因みに、本アルバム名の”Soulville”は、造語で「ソウルの町」という意味だと理解する(実在する場所は見当たらない)。”ville”はフランス語で「町、都市」という意味の「農場」を語源とする接尾辞。例えば、冬季オリンピック開催地アルベールビルは「アルバート王の町」という意味。英語の”Village”の語源でもある。

ニューオリンズにあった赤線地は”Storyville”で、当時の議員だったSidney Story氏から名付けられた「ストーリー氏の町」、有名な所では、テネシー州にある独立戦争時の将軍のひとり、Francis Nash氏から名付けられた”Nashville”、フロリダ州Jacksonvilleは、第七代アメリカ大統領Andrew Jacksonから命名されたもの。アメリカ独立戦争後、フランスを名残り惜しむ背景から使用が増えた、アメリカに多くみられる接尾辞だそう。

この「町や土地」を意味する地名の接尾辞、興味深いので、幾つか書き記しておきます。

“-abad”(場所): ペルシア語(イスラマバード)
“-burg”(城砦): ドイツ語(ハンブルグ、ピッツバーグ)
“-cester”(キャンプ): 英語(マンチェスター)
“-dam”(堤防): オランダ語(アムステルダム)
“-grad”(街): スラブ語(レニングラード)
“-ham”(家屋敷): 英語(バッキンガム)
“-mouth”(河口): 英語(ポーツマス)
“-pur”: (街): インド・東南アジア(クアラルンプール)
“-stan”(国、地方): ペルシア語(パキスタン)

これを知ると、その前についている単語の意味を知りたくなりますね。

さて、ベンウェブスターは、モダンジャズ発展の要所、カンザスシティの出身。そのカンザスシティについて、ご興味ある方は、こちらをご覧ください。

最後に、この年7月に収録されたピーターソンとルイアームストロングによるキャピトルスタジオ録音の紹介曲をどうぞ。

本日も笑顔溢れる素敵な一日をお過ごしください。

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