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ジャズ記念日: 11月16日、1958年@ニュージャージーRVG

Nov. 16, 1958 “I Can’t Give You Anything But Love” by Sonny Clark, Jymie Merritt & Wes Landers at Rudy Van Gelder Studio, Hackensack, NJ for Blue Note (The Art of the Trio)

以下、フィニアスニューボーンJr.参加の紹介曲から二日後、ルディバンゲルダー(RVG)の同スタジオに別のピアノトリオがブルーノートに録音する。設置されている同じピアノを弾いていると考えるが、その音色を比較してみると、ソニークラークは若干篭りがちな粘りのある重めのタッチでゴロゴロと後ノリで弾くという、そのトーンに特徴があるように思われる。フィニアスの方が、指のタッチが強くてキレと張りがある印象。

クラークは、ブルーノートのハウスピアニストとして起用されながら、演奏スタイルそのものが、オーソドックスで派手さが無く、あまりにも滑らかに耳に入ってくるので、良く耳を澄まさないと味わえないから、鮮明に記憶に残らないという個人的な見立てがある。

メジャーな明るい曲でも、演奏に何処か陰が付き纏うのが特徴でもあり、これが本国アメリカとは異なり、日本での高い人気に結びついていると言うのが一般的な見解。そのトーンや雰囲気、日本での人気は、ティナブルックスと同じカテゴリーに入りそう。

しっかり聴くと味わい深い、ジワっと来る出汁のような演奏は、分かり易さを求める本国アメリカでは、なかなか刺さらず、細部までこだわりを持って侘び寂びの感性を持って聴く日本のファンだからこそ評価される音楽と言える。

その証として、本アルバムは、1957-1958年に収録されながら長い間お蔵入りした後、1980年に需要のある日本でのみリリースされ、追って本国アメリカでも販売された。アルバムの冒頭三曲は、ジャケットが印象に残る以下”Sonny Clark Trio”の1957年10月13日のセッションから、後半が本曲を含む別トリオでの演奏で成り立っている。

リードマイルスによるアルバムジャケット

クラークが弾む2:18からのメロディーは、他曲から引用と思われ、恐らく”Walkin’”のイントロと推測するが、それをドラムが心得たかのように、追随した「ダダダダダダ」とクレッシェンドして叩いた後にシンバルのレガートを効かせて行く展開が面白い。アドリブは他の曲のイディオムと呼ばれるフレーズの塊で構成されているパターンがあって、ジャズには、この元ネタを探すという楽しさもある。

モダンジャズの開祖、チャーリーパーカーは、ポピュラーソングからクラシック曲まで、何処かのパートを切り取って作られたイディオムを相当数持ち合わせていて、それをコード進行に合わせ、頭の中の引き出しから取り出して瞬発的に演奏するという曲芸で超人的なアドリブを行っていたという研究結果もある。

話をピアノに戻すと、このルディバンゲルダースタジオで利用されたのは、スタインウェイのBモデルで、1959年7月のスタジオ移設後も現在に至るまで現役だそう。

ハービーニコルズとスタインウェイのピアノ
1955年5月6日@RVGスタジオ

そのピアノには、1954年の暮れ頃に製造された事を示すシリアル番号があるそうで、上記写真が撮影された1955年の5月には、本作を収録したハッケンサックスタジオに設置されていたとの記述がある。金銭的理由で損を出してでも手放さざるを得ないという、ほぼ新品の中古品がThe New York Timesのクラシファイド広告に掲載されているものを入手したという、二度と無い機会をモノにしたという一品とルディバンゲルダーの公式サイトには記載されている。

スタインウェイというと荘厳でワイドレンジな響きを想起するが、ゲルダーは大抵の場合、音を中低音に凝縮させる手法を取るので、そうは聴こえず、スタインウェイだとは思いもしなかったのが個人的な感想。どちらかと言うとボールドウィンかと思ったが、それは、このピアノが導入される前に設置されていたモデルだった。

ケニードリューとボールドウィンのピアノ
1953年4月16日@RVGスタジオ

スタインウェイのBモデルについては、別スタジオ録音の以下紹介曲にも登場しているので、興味がある方は、以下紹介曲をご覧ください。こちらのピアノは更に古く1924年製で、スタインウェイの特徴的な音色で収録されている。

さて、この年のルディバンゲルダースタジオ録音のピアノや空気感の聴き比べをしてみたい方はこちらをどうぞ。先ずはファンキーなボビーティモンズ。

そして、盲目のピアニスト、ハーマンフォスターによるゴスペル調の演奏。

コルトレーンに連れ添う形で、普段とは異なる溌剌な演奏をするレッドガーランド。

同じピアノでもタッチでトーンと鳴りの個性があることが興味深いですね。皆さんの好みは、どのピアニストでしょうか。

因みに本曲は、以下紹介曲、”Don’t Blame Me”も手掛けたジミーマクヒューによるもの。

もう少し、ソニークラークを味わいたい方は、こちらの名盤からの一曲をどうぞ。デクスターゴードンが、イディオムを活用している演奏です。

最後に、クラークに寄り添うようにスイングしているベースのジミーメリットに関心が湧いた方は、こちらもどうぞ。ブレイキーにも、その意図を汲んだ心憎い演奏をしています。

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