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今日のジャズ: 9月20&26日、1956年@ニューヨーク

Sep. 20 & 26, 1956 “Come Rain or Come Shine” by Kenny Drew, Paul Chambers and Philly Joe Jones at Reeves Sound Studios, NYC for Riverside (Kenny Drew Trio)

マイルスデイビスと同年五月にマラソンセッションを敢行したリズムセクションが、当時のブルーノート一推しのピアノ、ケニードリューと組んで、創業者がオーディオマニアで出版業界出身という、こだわりのありそうな、スタイル、ストーリーと音質に凝ったリバーサイドレーベルに録音。

同じ東海岸レーベルでも、リハーサル無し一発録りでその場の雰囲気を重視するプレスティッジ、入念なリハーサルでクオリティーの高い新曲を発表していくブルーノートと、音質と企画で差別化を図って、セロニアスモンク、ビルエバンス、ウエスモンゴメリーらを擁し、独自のポジションを築いたリバーサイドは、前二者と共にモダンジャズ三大レーベルとして扱われる。

この三レーベルの創設者はユダヤ系で、たまたま黒人が主たるジャズというニッチな領域でビジネスを展開した結果というのが一般的な見解のようだが、ユダヤ系人種が自ら体感している人種差別に対して寛容になるという背景もあるだろう。

演奏については、ドリューのオーソドックスながら、力強く子供用のおもちゃピアノのような音でパーカッシブに鍵盤を叩くのと、1:27からのようにメロディーを下方に崩していくフレーズ、「チャラララ、チャラララ」というメロディーをお得意の様に多用して若々しく活気溢れる内容で、良く聞くと右手と左手で別メロディーを進行するようなモダンな演奏もこなしている。スタンダード曲が多く、明快なこのドリュートリオのアルバムはジャズの初心者には、うってつけでもあるし、ジャズに慣れ親しんだ後でも、何度聴いても飽きない良さがある。

音階と共にテンションが上がったと思いきや下げて落ち着かせる、波のリズムのような繰り返しでスイングするベースのチェンバースが、ドリュー同様に活力あるトーンで寄り添って絡み付き、堂々としたソロを奏で、それを受けたフィリーが『シャカシャカシャカ」を連発してからモードチェンジして加速する。

普段よりも前のめり的に演奏を快活に牽引するチェンバースのスタイルは、この日の翌日にフィリーを従えてブルーノートでの初リーダーアルバムの収録が控えていたという事実で合点が行く(リーダー作は二枚目)。やる気に満ちて明るくスイングしているのが良い。多作なチェンバースでも、ここまで若さみなぎるエネルギッシュな演奏は少ないような気がする。

曲は豪華なハロルドアーレンとジョニーマーサーの手によるミュージカル曲がスタンダード化したもの。

アルバムジャケットは白人と黒人の子供が戯れる写真。黒人分離政策が当然の、この当時のこの写真の採用は、結構勇気が必要だっただろうと推測する。それは時を経た1990年代のマイケルジャクソンの名曲『ブラックオアホワイト』の以下ワンシーンのよう。

因みに、この写真家は、マイルスデイビスのミュージカルジャズの名盤『ポーギーアンドベス』のお洒落なジャケットも手掛けている。こちらもチェンバースとフィリーのコンビ。

更にもう一つ、本作と同年のチェンバースとフィリーの鉄板の組み合わせのマイルスの名演はこちら。

その翌年のアートペッパーの名盤”Meeta The Rhythm Section”からのチェンバースとフィリーの演奏をどうぞ。マイルスの存在の有無、東海岸と西海岸の録音場所、レーベルの音楽に対する姿勢の違いが感じ取れるでしょうか。

最後に、本アルバムでは、ディズニー音楽のジャズスタンダード化の契機となったデイブブルーベックの名企画アルバム、”Dave Digs Disney”よりも約一年近く前にピノキオの『星に願いを』を手掛けている点を指摘しておきたい。

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