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今月のジャズ: 10月、1964年@ハリウッド

Oct. 1964 “Limehouse Blues”
by Joe Pass, John Pisano, Jim Hughart & Colin Bailey at Pacific Jazz Studios, Hollywood, CA for Pacific (For Django)

英国作のスタンダード曲は、第二次世界大戦前にロンドンに存在したチャイナタウン、Limehouse地区(以下写真)での物語を題材としたもの。その背景と同じくイギリスの作品で、ミュージカルから映画化されてスタンダード化したもの。

東インド会社からの輸入が中国人の移民を促進
場所はロンドンの東、テムズ河北岸の港湾地区

ここでは活力と勢いに満ちた白人ジャズギタリスト最高峰の一人、ジョーパスのリズムカルなギターが楽しめる。本レーベル、パシフィックジャズの創設者リチャードボックに見出されたパスはこの曲を好んで演奏していたようで、ジャズのソロギターアルバムの金字塔となっている、”Virtuoso”の二作目にも登場している。

”Giant Steps”、”500 Miles High”を含む意欲作
その最後が本曲で締め括られている

ギターマガジンで、『ギタリストなら絶対に聴くべきモダン・ジャズの名盤40』に選定されている本アルバムは、映画にもなった伝説的ジプシージャズギタリストのジャンゴラインハルトに捧げられた作品。ジャンゴがバイオリンのステファングラッペリと共に二本のリズムギターとベースを伴奏として五重奏団を組んでいた事を受けてか、アルバムを通してリズムギターを従えて録音したものと推測する。こちらがその五重奏団オリジナルバージョン。マヌーシュジャズのノリが素敵です。

本作の演奏はパスがベースとデュオで切れ目無い「テロテロテロテロ」と快活な高速フレーズでリードを取ると、リズムギターとドラムが加わって、粋な間合いで演奏を加速させ、曲を通して速い展開ながら手を替え品を替え刺激を与え続けているのも聴きどころ。何となく運動会で流れていそうな追いかけたくなる雰囲気のメロディー。

パスによる0:54の「キュイーン」の上昇スクラッチフレーズと1:20からの和音攻めは、ジャンゴを意識したもの。パスはジャンゴをかなり敬愛していたが、正直その演奏はジプシージャズのジャンゴというよりは、ビバップジャズとエレキギターの開祖の一人であるチャーリークリスチャンに近いものと思われる。そのクリスチャンについては、こちらをご覧ください。

レーベルのパシフィックジャズレコーズ(後、ワールドパシフィックに改称)は、ロサンゼルスで1952年に設立されて、名前の通り軽快で開放的なスタイルのウエストコーストジャズを白人主体で牽引した。気負わずリラックスしたストレートな内容というのも、同じ西海岸拠点のコンテンポラリーレーベルに通ずる所。やはり土地柄や環境が音楽に対する考え方や姿勢に大きな影響を及ぼしているものと思われる。

そのアルバムジャケットも陰影の多い東海岸レーベルと差別化するかのように爽やかで鮮やかな色遣いのものが多い。

黒人の作品も明るいトーンのアルバムジャケット

パシフィックジャズのジョーパスと言うと、名盤”Chet Baker Sings”のステレオバージョンでの、オーバーダビングでの演奏を思い起こす(1964年)。

因みにこちらが以前紹介したオリジナルのモノラルバージョン(1954年)。

正直な話、オリジナルバージョンの方が素で趣があって個人的には好みではあるものの、歌伴奏の大家、ジョーパスだけに後付けとはいえオリジナルの作風を損なわずに良い仕事をしていて、これはこれでありかと思う。先にステレオバージョンを聴いた後に、モノラルを聴くと、物足りなさを感じるのはパスの力量の証。このステレオ版は本作と同年作で、どういう経緯と人選でパスが選ばれたのか、気になるところ。

さて、グラッペリの演奏とジャンゴについては、こちらをご覧ください。

パスの華麗なソロギターに興味がある方は、本曲のソロ演奏をご堪能ください。こちらの方がジャンゴのスタイルに近い印象です。

パスの絶妙な歌伴奏はこちらからお楽しみください。パス愛用のギターについても触れています。

最後に、ギターマガジンの『ギタリストなら絶対に聴くべきモダン・ジャズの名盤40』に含まれる、これまでの紹介曲をどうぞ。

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