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今月のジャズ: 11月、1965年@ニュージャージーRVG

Nov. 1965 “Walk On By”
by Gabor Szabo, Richard Davis, Sam Brown, Sadao Watanabe, Gary McFarland, Francisco Pozo & Grady Tate at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, NJ for Impulse! (Gypsy ’66)

不思議なヨレヨレの「ちゃら〜ん」シングルトーンによるギターが印象的で、絶品ではないけれど三ヶ月に一回、理由も無く食べたくなるような町中華のように、忘れかけた頃に聴きたくなるのが、ガボールの個性。

ハンガリー出身で、所謂アメリカの教科書的なジャズギターのスタイルでは無いユニークな、ヘタウマ的なところに惹きつけられる。

音楽のジャンルを跨ぐクロスオーバー系の先駆者としての功績があり、この曲も偉大なポピュラー音楽の作曲家、バートバカラックが手掛け、ホイットニーヒューストンの叔母、ディオンヌワーウィックが歌って1964年4月26日にリリース、全米でヒットしたものを取り上げた。こちらは鉄琴を、ザボは木琴を交えた演奏となっている。

本曲は、リリース直後から本作のような形で取り上げられた結果、ジャズスタンダード化した。ザボは、良い意味で拘り無くポピュラーソングを取り上げ、音楽を求めるがままに、ジャンルをクロスオーバーしていったと思われる。

この曲はアルバム名の通り、ジプシー的な打楽器によるアレンジが随所に加えられているのと、「ちゃら〜ん」と昭和なアコースティックギターをかき鳴らす伴奏、それとは好対照を成す、当時バークリー音楽院に留学中の世界のナベサダによる風情あるフルートが聴きどころ。この音楽の方向性が、後のウエスモンゴメリーによるポピュラー音楽をジャズ風に演奏するフュージョンへの系譜に連なっていると考える。

そのナベサダが、本作の3年後に本曲を手掛けているので、興味のある方はどうぞ。音楽の志向性が異なり、キレキレのアドリブを披露していますが、収録の際に本演奏を思い出したのは間違いないでしょう。そしてザボとの共演では自身がフルートを吹いたパートは、トランペッターの日野皓正が担当しています。

ザボは、1956年10月23日に起きたハンガリー動乱の際に、難民として国外へ亡命したという二十万人の一人。ソ連や勤労者党政権の権威と支配に反対する民衆と政府側が衝突した。時代的には、ちょうどこの頃で、ザボは二十歳だった。そしてこのリーダーデビュー作品の収録時は、その約10年後にあたる。

ジャズギターのシングルトーン押しといえば、グラントグリーン。グリーンも1971年1月5-6日の紹介曲を含むアルバムで本曲を演奏しているので、是非お聴きください。随分とテイストとコブシの回し方が違いますね。

さて、現時点のジャズ界でザボを彷彿させるのが、鬼才ビルフリゼール。「ちゃら〜ん」トーンが激似ではあるものの、フリゼールのインタビューを調べてもザボの影響の話は見つからなかった。バカラックとのアルバムも制作したフリゼールのトリオによるバカラックのスタンダード別曲の演奏を聴いてみてください。

バカラック愛が感じられますでしょうか。ザボとフリゼールの二人の結節点が、テナーサックスの巨人チャールズロイド。若かりし頃にザボを、近年ではフリゼールを起用している。ロイドの頭の中にはザボの面影があってフリゼールを起用しているのかもしれません。

そして、ザボの影響を明言しているのが、カルロスサンタナ。若かりし頃のアイドルとして、ザボの”Gypsy Queen”をカバーしていたり、”Mr.Szabo”という曲まで演奏している。サンタナから「ちゃら〜ん」スピリットが感じ取れますでしょうか。ザボの影響があったのか、サンタナもジャンルをラックを軸にラテンやジャズとクロスオーバーして成功を収めています。

サンタナに興味がある方は、こちらの記事もどうぞ。ザボの”Gypsy Queen”に登場するパーカッショニスト、ウィリーボボとの繋がりを記述してあります。

さて、本作品のドラマー、グラディテイトは、ザボとウエスモンゴメリーの共通項。両者のフュージョンの走りの演奏に加わっている。好みや演奏のし易さは、どちらに軍配を上げるのだろう。

最後に、偉大なるバカラックの名曲「遥かなる影」のボーカル演奏をどうぞ。

素敵な週末をお過ごしください。

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