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ジャズ記念日: 9月26日、1962年@ニュージャージーRVG

Sep. 26, 1962 “My Little Brown Book”
by Duke Ellington, John Coltrane, Aaron Bell & Sam Woodyard at Rudy Van Gelder Studio, Englewood Cliffs, New Jersey for Impulse! (Duke Ellington & John Coltrane)

1962年の九月録音の第五弾でフィナーレとなる歴史的記録。約10日前のお互いのリーダー作品を収録した後、歳の差27年のエリントンとコルトレーンが合流。前収録で若手相手にエネルギッシュに暖まったエリントンだが、激しい演奏をするはずの若手のコルトレーンが拍子抜けするほどの大人しさ。

マウスピースの調子が引き続き悪いのと巨人を前に緊張した事が重なったからだろうか。そしてコルトレーンに追い討ちをかけるかのように、希望した録り直しはエリントンによって却下されたというのは有名な話。エリントンは、自己の模倣になるだけだから一発録音が良いとコルトレーンを諭して録り直しは行われなかったそう。

本人が満足していない演奏にエリントンは本当に満足していたのだろうか。しかも11日前の過激な若手とのセッションでは複数テイクが記録されているのとは対照的なエリントンの判断は何故なのかと勘繰ってしまう。

完璧を目指して録り直すコルトレーンの態度に対する、ジャズの本質的な姿勢を教える為のショック療法か。だとすると、もっとヤンチャして良いぞと9月17日作品では煽り、ヤンチャしているコルトレーンには音数吹けば良いというものではないから一音一音、1セッション毎に大切に演奏しなさい、と後継者たちに伝道師の如く伝えたかったのかもしれない。

それゆえにエリントンはコルトレーンの課題であった音数の少ないバラード曲を選定、それを控えたコルトレーンが予習するかのようにレギュラーカルテットでバラード曲を演奏、記録を残し、エリントンとの共演に臨んだ、なんて勝手に想像を膨らませる。

或いは、世界的な名曲”What a Wonderful World”の共同作詞・作曲者でもある本作の敏腕プロデューサー、ボブシールの発案で8日前に収録されたコルトレーンの前アルバム(以下、最長曲5:15)に引き続き、長尺がちなコルトレーンのコンパクトな曲とエリントンとの共作による話題作りで売れ線を狙ったのか(本作の最長曲6:00)。

上記演奏におけるコルトレーンの盟友ピアニストのタイナーは、このエリントンの演奏に酷似しており、コルトレーンがエリントン風に演奏するように指示したのではないかと勘繰りたくなる程。

このアルバムでは、伴奏者がエリントン側とコルトレーン側でほぼ分かれていて、テイストが異なるが、このアルバムでの演奏だけの相性で言うとエリントン側に軍配が上がると考える。残念ながらコルトレーンのバンドのドラマー、エルビンジョーンズのパワフルな個性はエリントンとの相性において今ひとつに聴こえてしまう。

本曲は、エリントンの懐刀と評される『ラッシュライフ』等を手掛けたビリーストレイホーンによる作品。演奏では、コルトレーンが身をエリントンに任せて、肩の力を抜いて演奏しているのが良い。そして2:39あたりからエリントンとコルトレーンが地味にお互いに寄り添ってヒソヒソ話で対話するようなアドリブが聴き所。

コルトレーンと双璧を成す、テナーサックスの巨人、ロリンズが本作から二十年の時を経て同曲を演奏している。ロリンズは恐らくコルトレーンを意識しつつ、ギターを入れて本作とは異なるタイプの演奏を行なっているのかのよう。

エリントンとコルトレーンは、この作品を通じて何を得て、どこに向かおうとしたのか。個人的な見解は、エリントンは還暦を過ぎてもう一回奮起したかったのと、マンネリしていて一期一会を楽しみたかった。もう一方のコルトレーンは、モードジャズでブレークスルーした後に踊り場に出て、少し迷ったか疲れたか次なる飛躍に向けて偉大なる先人に答えを求めたかった、と妄想している。共演を経てコルトレーンは、この約二年後にジャズ不朽の名作”A Love Supreme”を世に送り出す。

本作品の時代背景としては、この月にビートルズがデビュー曲の”Love Me Do”を録音してロックの大衆化で音楽業界が様変わりしていく先鞭を付け、ケネディがアポロ計画を推進するスピーチをするなど冷戦が本格化、人種差別の激しい南部にあるミシシッピ大学に黒人が警官に擁護されながら登校した際に暴動に発展するなど公民権運動が激化していく。世相の流れを受けてジャズもこの後、混迷の時代を迎える。

最後に、これまでに紹介したエリントン楽曲の演奏をどうぞ。皆、エリントン愛が滲み出た名演です。

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