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今日のジャズ: 3月18-19日、1963年(祝60周年)@ニューヨーク

Mar. 18-19, 1963 “O Grande Amor”
By Joao Gilberto, Stan Getz, Antonio Carlos Jobim, Sebastiao Neto & Milton Banana At A&R Recording Studios, NYC for Verve (Getz/Gilberto)

ボサノバの巨匠、ジルベルトとジョビンの二人とテナーサックスの巨人、ゲッツが組んだ豪華なメンバーによる名演奏。サンバとジャズの要素を取り入れて主に前者二名が創作したブラジル発のボサノバを題材に、ゲッツのヴォーカリストのような歌心に満ちた飾り気の無いテナーが心に迫る。この時点、アメリカでの知名度の方が高いゲッツの名前がアルバム名で先に置かれていて、それまでもサンバを取り上げてヒットさせていたゲッツが、その流れでボサノバを紹介するような体裁になっている。

ジルベルトの拙いギターと何となく頼りないボーカルが、場末の演歌歌手のようなリアルさと親近感があって味わい深い。決して上手いシンガーとは言えず、演奏も一流とはお世辞にも言えないが、独特の雰囲気があり、それを特徴として逆に利用する事で独特の音楽を創出して記憶にまで残してしまう、言葉を選ばすに言うとヘタウマ系の類い稀な超越したアーティストの一人。

春先に無性に聴きたくなる本アルバムは、南米出身の演奏者とその録音時期からか、全体的に春の兆しを感じさせる木漏れ日があたるような、まだ肌寒さがありながらも優しさを帯びた独特の空気感をまとっている。

ゲッツの2:49からの切ない思いに満ちた繰り返しのフレーズ、その後に続く、落ち着きを取り戻すようなジョビンによるピアノのメロディーのドラマティックな展開も沁みる。

クール派の筆頭でもあるゲッツのテナーは、この頃から感情を表出するようにビブラートを誇張した演奏もこなすようになる。ブラジル人で構成された伴奏者によるアメリカ録音で、プロデューサーは、その後にメジャーレーベルとなるCTI創設者のクリードテイラー、録音技師は本作品を収録したスタジオ名の”R”を司る名手フィルラモーンとヴァーヴの諸作を手掛けたヴァルヴァレンティンという鉄板な布陣。結果、グラミー賞の最優秀アルバム賞と共に最優秀エンジニア賞を受賞。

ラモーンは、これを皮切りに何と14回もグラミー賞を受賞していく。有名な作品では、ビリージョエルの「素顔のままで」「ニューヨーク 52番街」や、「フラッシュダンス」のサウンドトラックがあり、概ね辣腕ミュージシャンを起用した高音質作品という徹底ぶり。

このアルバムがビルボードのアルバムチャートで二位を記録する大ヒットとなり、米国におけるボサノバの大衆化が加速する。

ボサノバがどれくらい普及したのか。十七年後に公開された傑作映画「ブルースブラザーズ」のワンシーンで良く分かる。このエレベーター内で流れているのが、本アルバムの冒頭曲にして最も有名な「イパネマの娘」。このアルバム無くして、この場面は生まれなかったはず。

フィルラモーンが同スタジオで録音した曲に興味がある方はビリージョエルの名曲、「素顔のままで」をどうぞ。この中でサックスを弾いているのは、ジャズアルトサックスの名手、フィルウッズ。

最後にもう一曲ご紹介。ゲッツとA&Rスタジオの組み合わせで、ゲッツがサンバとボサノバを吸収した後の新たな領域を開拓した演奏は、こちらからどうぞ。

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