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晴耕雨読:「学習する組織」(5つのディシプリン)

■はじめに
 経営の何かしらに関わる人は、ピーター・センゲの「学習する組織」を読んでいることだろう。しかし、どれほどの人が全文を読んでいるのだろう。
 黒色のこの本は500ページを超え、読むものを拒んでいるようである。
 この書物に全て目を通すと云うことは至難であろう。しかし、最初の数ページを読むだけでこの本を理解することはできないし、断片的な拾い読みでは、組織が学習して成果を出すというプロセスを実現することもできないだろう。
 全てを示すことはできないが、補足的な留意点を整理することで、読書の支援ができることを願う。

■五つのディシプリンが出てきた背景

 「五つのディシプリン」とは何か。そのヒントは 「改訂版に寄せて」に「マネジメントの一般的体系」として記載のある以下の記述がヒントになりそうである。

「デミング博士の「深遠なる知識」の要素は最終的に、学習する組織の5つの領域を示す表現につながった。五つの領域は、三つの中核的な学習能力-「志の育成」「内省的な会話の展開」「複雑性の理解」-を伸ばすアプローチ(理論と手法)を表している。私たちはこの3つを「チームの中核的な学習能力」と呼ぶ。」

冒頭からデミング博士の例を出し、企業競争力に「深遠なる知識」を持ち出し、下記の要素を「ディシプリン」としている。

(1)「志の育成」
・自己マスタリー
・共有ビジョン

(2)「内省的な会話の展開」
・メンタルモデル
・チーム学習

(3)「複雑性の理解」
・システム思考

経営の神様と言われるドラッガーや日本の識者である野中郁次郎先生を引き合いに出すまでもなく。今や企業の成長や競争力の維持のためには、知識が重要な役割を担っていることはよく知られている。しかし、その知識はどのように企業競争力に展開されてゆくのか。

そのヒントが、この「五つのディシプリン」と考えて良いだろう。

■「五つのディシプリン」の概要

第1章は「我に支点を与えよ。さらば片手で世界を動かさん」は、その通りの内容ではない。

「本書で紹介されるツールや考えは、独立した、互いに関連のない世界が作られているという思い込みを打ち砕くものだ。」

「世界は相互の繋がりをより深め、ビジネスはより複雑で動的になってゆくので、仕事はさらに「学習に満ちた」ものにならなければならない」

と冒頭に記述されている。最終章「第18章 分かたれることのない全体」に対比した言葉である。

哲学的には「一は全、全は一」に対比した言葉であり、全体を切り出した部分もまた全体であることを認識し、それらをシステムで捉える重要性を問うている。仏教で言う「曼荼羅」、自然を理解するための「フラクタル」なども参考になるだろうか。

その上で「五つのディシプリン」が簡単に説明がされている。理解を進めるために、いくらかの抜粋とコメントをしておく。(順番は、上記の記載による。「」は引用を示す。)

①自己マスタリー
 自己マスタリートは聞き慣れない言葉ですが、下記の説明が最も的をえていると思う。

- 自分自身が心底から望むビジョンや目的の実現に向けて、真剣に生きようとするプロセス(過程)を「自己マスタリー(Personal Mastery)」と呼びます。ピーター・センゲらが提唱する「学習する組織」を実現する5つのディシプリンの1つです。

- 「マスタリー」とは、高いレベルでの習熟を意味します。「自分がどうありたいか」という個人ビジョンと、現実の姿の間にあるギャップが、「クリエイティブ・テンション(創造的緊張)」を創り出し、それが個人の学習と成長、そしてビジョンの実現に向けた大きな推進力となります。

https://www.humanvalue.co.jp/keywords/self-mastery/

これを参考に「自己マスタリー」の説明(P40)を抜粋する。

- 自己マスタリーというディシプリンは、継続的に私たちの個人のビジョンを明確にし、それを深めることであり、・・・そして、現実を客観的に見ることである。
- 自己マスタリーは学習する組織の精神的基盤である。
- 組織がどのくらい学習に対してしっかり取り組み、学習できるかは、構成するメンバーの取り組みや学習能力よりも高くならない。

「全は一、一は全」で示すように、まずは個人個人の学習能力を高めることが必要であり、そのための最初の一歩として個人のビジョンを明確にすることを求めている。

②共有ビジョン
 組織が統一的な行動を取るためには、企業理念から経営理念に落とし込むための、ビジョン・ミッション・バリューが重要であることは、居間の経営理論では自明のこととして扱われる。
 そこで示されるビジョンは、組織全体が目指すべき姿であり、組織の構成員は皆それに共感すべきである。

- 組織全体で深く共有されるようになる目標や価値観や使命なくして、偉大さを維持し続けている組織はほとんど思い当たらない。
- これまで欠けていたのは、個人のビジョンを共有ビジョンにつなげるためのディシプリン、つまり、「料理のレシピ」ではかう、一連の原則や基本理念だ。

ドラッガーが例に示す「石工」の話を思い出すと良い。

③メンタル・モデル
 システム思考の中で重要な役割を担うのがメンタル・モデルである。
 最も簡単なシステム思考は
 (1)施策を策定する/調整する
 (2)実施する
 (3)実施下結果の情報を取得する
 (4)再び(1)にフィードバックする
である。この時、(1)を形づくる基礎が「メンタル・モデル」になる。
このメンタルモデルが硬直化していると、同じ失敗を繰り返す。
学習は、このメンタル・モデルの取り扱い方で決定される。

メンタル・モデルは
「メンタル・モデルとは、私たちがどのように世界を理解し、どのように行動するかに影響を及ぼす、深くしみこんだ前提、一般概念であり、あるいは想像やイメージである。」
と記述されている。

世界は変わらないというメンタル・モデルはウクライナ侵攻でいともたやすく打ち砕かれた。「組織としての学習とは、経営陣が会社や市場、競合企業について自分たちが共有するメンタル・モデルを考えるプロセスである。」さもなければVUCAの時代に生き残れない。

④チーム学習
「個人で映えることができない洞察をグループとして発見を可能にするような、グループ全体にじゆに広がる流れ」という文脈でダイアローグが語れ、それは「チームのメンバーが前提を保守して本当の意味でのともに考える能力である。」としている。

そのため「チーム学習はきわめて重要である。なぜなら、現在の組織における学習の基本単位は個人ではなくチームであるからだ。チームが学習できなければ組織は学習しえない」と指摘している。

個のビジョンから組織のビジョン、この学習からチームの学習、そして組織の学習へとつながってゆく。

⑤システム思考
P39は簡単に以下が記載されるのみである。

「ビジネスや人間によるその他の企てもまたシステムである。それらも相互に関連する行動が織りなす、目に見えない構造でつながっており、互いへの影響が完全に現れるまでには何年もかかる場合もある。」

これは、システムダイナミクスが持ついくつかの特性を表している。
・因果律で事象を把握する
・一つの行動は複数の事象に影響を与えうる
・一つの結果は複数の行動の結果になりうる
・原因と結果は直接・間接に影響し合う(フィードバック)
・行動の結果が現れるまでには時間的遅延がある

「システム思考は、パターンの全体を明らかにして、それを効果的に変えうる方法を見つけるための概念的枠組み」であると言う。

ただし、その実体にまではここでは明らかにしていない。
①自己マスタリーから⑤システム思考は別々に考えれば良いものではない。とはいえ、「システム思考」が最も重要だと言う視点で、この本が構成されているとしたら、

・そもそも学習する組織とは何か
・なぜシステム思考がなければならないのか

も考える必要がある。

(続く)

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