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勇者になる

昔々、あるところにホンネとタテマエがいた。

ホンネは、いつも本音を話した。

誰も言えないことを包み隠さず話した。

炎上し、叩かれ、嫌われても、心を打ち明けることをやめなかった。

ホンネには熱烈なファンがいた。

敵と同じくらい。

タテマエは、良い子ちゃんだった。

暗黙裡のコンプライアンスに従い、差し障りのない火種をつくらない、防御に特化したストライクゾーンの話をした。

敵はつくらなかった。

そして、ホンネのような熱烈なファンはいなかった。

タテマエは、ホンネに言う。

……君は、よく本音を言えるね。勇気がある。炎上が怖くないの?

ホンネは、鼻で笑う。

……炎上? 心頭滅却すれば火もまた涼しと言うじゃない。火がなぜ怖い? 炎のような気持ちで、私は話しているの。

タテマエの氷のような心にヒビが入った。

ヒビからあふれるのは、隠してた思い。

空気を読む。

人を傷つけないように。

それは、嫌われたくないだけ。

気をつかうという弱気なポーズ。

タテマエは、言いたいことを言うようになった。

容赦無い言葉の交錯。

傷つくこと、傷つけることを恐れない本音。

そこで、バネのように弾ける心。

本音同士がぶつかりながら、お互いに学びあっていく。

タテマエは、反応だけでなく、分析とバージョンアップも繰り返していたから。

タテマエは、清々しい顔でホンネに言った。

……今まで、ぶつかるのを怖がってばかりいた。言いたいことを言って、本心がわかった。それは、生きることのリアルなんだ。

ホンネは微笑む。

……打たれるのなんて怖くないよ。短い人生。濃く生きたほうが楽しいじゃない。言いたいことを言って、叩かれても、本心が交わされる瞬間につながる心には、本物のつながりがあるのよ。

タテマエは、ホンネと共に勇者として称賛された。


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