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いま改めて観たい、シャールク『ASOKA』

 今回紹介するボリウッド映画は、日本でも評判を呼んだSF娯楽アクション『ラ・ワン』のコンビ:シャールク・カーンとカリーナ・カプール共演による古代スペクタクル巨編『ASOKA』 (2001年)です。いにしえのインドを舞台にした戦乱モノといえば、まず『バーフバリ』を思い浮かべる方が多いと思います。ですが、今日ほどVFX技術が進んでいなかった時代にも、果敢なまでに映像化に挑んだ大作があったのです。

 この物語は、インド各地に仏教を弘め、やがて世界的宗教となる最初のきっかけを作ったマウリヤ朝皇帝アショーカ(阿育王)の伝説をもとに、新たな解釈と翻案を加え、時代や国柄を越えた人間ドラマとして描いた長編大作です。監督したサントーシュ・シヴァンは『Dil Se…』(1998年。シャールク)や『Darbar』(2020年。ラジニカーント)などのヒット作で撮影監督を務めた〝絵づくり〟のひとで、本作『ASOKA』でも随所にモダンアートを想起させるヴィジュアルを織り込み、また戦闘場面ではインド古式武術のカラリパヤットを取り入れるなど、こだわりを見せた演出をしています。
とはいえ本作は、実質的な興行成績においてインドでは国民の歴史認識と既成概念が弊害の一つとなり、残念な結果に終わリました。しかし、アメリカやヨーロッパ諸国では純粋に映像作品として高い評価を受け、それに関して主演のシャールクは、
「ASHOKA(アショーカ)の〝H〟をタイトルから抜いてASOKAにしたのは、Historyとは違いますよ、って意味なんだ」
と答えたそうです。

【本編あらすじ】
 次代を嘱された王子アショーク(ヒンディー語発音)は、敵対勢力を片っ端から葬り去り、王朝の版図を拡大していった。だが、後継者争いのいざこざから故国マガダ(現ビハール州)を離れ、カリンガ国(現オディシャ州)へ辿り着く。そこで王女カルヴァキと出会い、恋に落ちた二人は結婚する。まだ幼いカリンガの王アーリヤはアショークを兄のごとく慕い、共に暮らすが、ある日マガダ国から使者が来て、アショークはカリンガを去る。その後、カリンガでは幼帝を排して権力を握らんとする輩がカルヴァキとアーリヤの抹殺を企てる。しかし、村人が身代わりとなって生命を落とし、未遂に終わる。政変の報せを聞いて急遽カリンガに駆け付けたアショークだが、謀略に嵌められ、カルヴァキはすでに殺されたものと思い込まされる。怒りと失望に飲み込まれたままウッジャイニ国(現マディヤ・プラデーシュ州)との戦争に赴いたアショークは、乱戦の中、深手を負って仏教寺院に担ぎ込まれる。

心優しい娘デヴィの献身的な看護によって快復したアショークは、彼女と結ばれる。だが新妻をマガダ国へ連れ帰ると、父のビンドゥサーラ王は、にべもなく吐き捨てた。
「仏教徒の娘など家族にできない」
やがて、父王の崩御、最愛の母との死別により、アショークは〝覇道の鬼〟となって天下統一を目指す。そんな彼に最後まで抗戦したのは、カリンガ国。老人や女子供まで武器を手に降伏を拒む。その抵抗勢力を指揮していたのは、生き延びたカルヴァキ王女。アショークは大軍を率いて殲滅戦に乗り出す。あまりにも非情な運命。
圧倒的な兵力差。マガダ軍の大勝。屍累々たる戦場で、アショークとカルヴァキは再会。幼いアーリヤも物陰から姿を現す。
「お兄ちゃん、もうどこへも行かない?お伽話の続きをしてくれる?」
ああ、行くもんか。答えたアショークの前で、アーリヤは倒れる。小さな背中には無数の矢が刺さっていた。
 アショークは武器を捨て、慈愛と平和と非暴力の仏教精神による治世を宣言する───。

 これほどの名作が「仏教国」であるはずの日本であまり知られてないのは文化的損失だと私は考えます。今や空前のインド映画ブームを迎えた中、旧作ではありますが、あえて取り上げました。
歌とダンスは以下のYouTubeをご覧ください。
「San Sanana」
https://youtu.be/75mx2r5EC9k
「O Re Kanchi」
https://youtu.be/wCbOu0LSpy0

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