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【ながおし!⑫】夢は生き物博士!! こうちゃん(上田幸之助さん)

12月の木之本はなかなか寒い。
そんなことをものともせず、こうちゃんは川の中をずんずん進んでいく。
こうちゃんこと、上田幸之助さんは小学2年生。
現在「ながおし!」に登場している人の中で最年少だ。

カエルをつかまえて喜ぶこうちゃん

僕がこうちゃんを知ったのは、長浜市が11月25日に開催した「ながはまコミュニティカレッジ学園祭」。
生き物についてお話をする「センセイ」が小学2年生と聞き、授業に興味がわいて見に行ったのがきっかけだ。

ながはまコミュニティカレッジ学園祭でセンセイを体験!

こうちゃんは実は有名人だ。
こうちゃんが1年生の夏、余呉湖で外来生物の「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)」を見つけた。滋賀県南部での生息は確認されていたが、北部では確認されていない。
「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)」は滋賀県指定の外来種。稲の苗を食べてしまうので駆除の対象になっている。
大発見だ。
こうちゃんの大発見は新聞などでも大きく取り上げられた。
こうちゃんは見つけた生き物が「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)」だということにすぐ気が付いたそうだ。
ただ、滋賀県北部では発見されていないことを知り、新聞記者から取材され、あまりの反響にびっくりしたそうだ。

「ながおし!」でこうちゃんに取材したいとお父さんの外志幸さんにお願いしたところ、「一緒に川へ生き物を探しに行きませんか」と提案していただいた。
こうちゃんが12月でも川へ入ることに驚いた。
外志幸さんによると、こうちゃんは冬でも可能な限り生き物探しがしたいらしく、外志幸さんも一緒に川に入っているとのこと。

こうちゃんと一緒に川へ。実は、2回も一緒に生き物探しをさせてもらいました

12月。冬だよ。本当にこんな季節に生き物探しをするのかな?
そんな疑問を持っていたが、胴長を着て網とバケツを持ったこうちゃんをみて、本当なんだと思った。
暖冬とはいえ、12月はやっぱり寒い。
遠くの山々の紅葉は終わりに近く、雪の到来が近いと感じる。

生き物探しへ向かう道中、近所の方から声がかかる。
「何か見つけた?」「この前、近くで大きなミミズを見たよ」
こうちゃん親子が温かく見守られていることがよくわかる。

「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)の発見はすごいですね」
と外志幸さんに声をかけると、
「生き物探しに相当時間をかけています。野球でいえば打席に入っている数がすごく多いんです。夏休みは本当に朝から晩まで試行錯誤して生き物探しをしています」と外志幸さんは笑う。
そんな話をしている間も、こうちゃんは一刻も早く川に入りたそう。

川に着くと、こうちゃんは勢いよく水草などの根元に網を入れる。
「ガサガサ」というそうだ。
「ガサガサ」は、川岸の茂みに潜む魚を、ガサガサと網へと追い込む方法だ。

ガサガサで生き物探し
お父さんと一緒に生き物探し

川の中のこうちゃんはとてもアグレッシブ。
ためらいなくずんずん先を進む。
ついていくのがやっとだ。

こうちゃんはずんずん進んでいく

「ビワヒガイだ。すごい!」
「カマツカ捕まえた!」
こうちゃんが歓声を上げる。
他にも「カワムツ」「スジエビ」「ミズカマキリ」「タイコウチ」「コオイムシ」など聞いたことのない名前が次々出てくる。
こうちゃんに「写真を撮らせて!」とお願いすると
「早くしてね!」
と催促された。一刻も早く生き物探しを続けたいようだ。
こうちゃんはとにかく生き物探しに夢中だ。

魚を捕まえたこうちゃん。こうちゃんは生き物を捕まえるのが上手!

川の中に入ると目線がだいぶ低くなり、気が付くことがある。
川の中は意外とでこぼこしている。
大きな石がごろごろしていたり、堆積した砂から草が繁茂している。
見えているようで見過ごしている。
目線の高さを変えるって大事だなあと思う。

こうちゃんの今回のターゲットは「巨大ナマズ」。
以前、一度は網の中に捉えたものの力が強く取り逃がしてしまった「因縁の相手」だ。
こうちゃん曰く「網に収まるのかわからないほどの大物。きっとここらの川の主や!」。
こうちゃんの目が鋭く光る。

川の主を見つけるため、何度もガサガサ!

以前遭遇したポイントで日暮れ近くまで何度も「ガサガサ」を試みるが、この日「巨大ナマズ」が姿を現すことはなかった。
川の主との勝負は、来年に持ち越しとなった。

帰るころ、空には虹がかかっていた

その後、こうちゃんのお家でいろいろと話を伺った。
話の中心はやはり生き物のこと。
まずは、好きな生き物について尋ねてみた。
「よく聞かれるけど、答えるのに困るなあ。全部好きなんやもん。昆虫も、魚も、カエルも、ヘビも、鳥も全部好き。その全部の生き物たちがつながり合って生きてることが、おもしろいなぁって思う。」とのこと。
生き物すべてが好きというのはこうちゃんらしくていいなあと思う。

次に「スクミリンゴガイ(ジャンボタニシ)」の発見について尋ねた。
発見したのは偶然だそうだ。
発見した時は
「お父ちゃん、こっち来て!」
「すくりゅう、なんとか言う奴や!」
と図鑑の生き物を見つけた驚きで叫んだとのこと。
湖北では未確認の生き物ということは知らなくて、いろいろ調べたら、大切なお米を食べてしまう特定外来生物だとわかったとのこと。
「新聞やラジオに、僕の名前がでて、驚いてドキドキした。ぼくの大好きな生き物探しで、農家さんとか助かる人がいるなら、それはうれしいことだなぁって思った。生き物探しは、僕の為だけど、皆の為にもなるので、もっとがんばりたい」
と少しはにかみながら答えてくれた。

このことがきっかけになって、こうちゃんは、自分が見つけた生き物の魅力をみんなに伝えたいと思うようになった。自分でも新聞を作ってみたいと思ったそうだ。
こうちゃんはすぐに行動に移す。それが「こうちゃんのガサガサ新聞!」。

飼っている魚の説明をしてくれた。その後ろに、「ガサガサ新聞」が飾られている

こうちゃんの作った新聞は地元の自治会館に掲示された。
「みんながおもしろいねって言ってくれて、うれしかった」
こうちゃんもうれしそうだ。

質問に答えてくれている間も、採集した大きな松ぼっくりなどのコレクションを見せてくれた。
生き物探しをしていて楽しいことは何ですかと尋ねると、捕まえることが楽しいとのこと。
また、観察し、えさやりなど飼育することも楽しいとのこと。

採集した松ぼっくりを見せてくれるこうちゃん

「こうちゃんにとってお父さんはどんな存在?」
ちょっと答えにくい意地悪な質問だなと思いながら聞いてみた。
こうちゃんは少し考えて「一緒に生き物探しをしてくれるので好き」
と笑顔で答えてくれた。

一番聞きたかった質問。
どうして「ながはまコミュニティカレッジ学園祭」でセンセイをしたのと聞いてみた。
「センセイをするとは思っていなかった。たくさんの人が前にいて怖くて足が震えた。でも、最後には、みんながいつまでもハイ!ハイ!って手を挙げて質問をいっぱいしてくれたのが気持ちよかった。みんなやさしくて、ほんまにありがとうって思った。」

外志幸さんが続けて答えてくれた。
「こうちゃんの夢は『生き物博士』。博士になるには生き物の魅力を伝える力も必要になります。こうちゃんと一緒になって人前で緊張して冷や汗をかく、そんな経験を育んであげたかった」
あえて難しいことに親子でチャレンジする。
なかなかできることではない。

笑顔のこうちゃんとお父さん

最後にこうちゃんの夢を聞いてみた。
「生き物博士。あと、誰も見つけたことがない生き物を見つけてみたい。」
どちらもでっかい夢だ。
生き物の世界は不思議なことばかり。常に新しい発見であふれている。
外志幸さんは「どんなことでもいい。やりたいことが見つかったらとことん極めてくれると嬉しいなあ。命いっぱいに夢を追いかけ続けてほしいです」と目を細める。
こうちゃんを見つめる目がとてもやさしい。

こうちゃんの夢は「生き物博士」。
生き物博士を目指して、こうちゃんはこれからもずんずん突き進んでいくに違いない。

(とくぞう)